死んで花実が咲くものか ⑮
その晩、美佳は新着情報を確認するためにCRに入った。
777とpoloがerosの友人と会って得た情報について、CR内に書き込んでいた。
・erosは手足を縛って拘束されていた
≪eros個人では尺取り虫のようにしか移動できないし、手は背後で縛られていたから手も使えない≫
・友人には18時時点の記憶がない
≪気付いた時は、考え事をしながらぼ~っとしていたときに、ハッと我に返ったときのような感覚だったらしい≫
・erosは友人が言ったように首吊りだった
≪死亡場所はベランダ。ベランダにあった物干し竿に束ねたビニールテープが垂らされていて、先端の一方がerosの両足首に、もう一方が首に巻き付けられていた。つまり、物干し竿が滑車のような役割を果たし、erosの足が下がれば首が上がり、首を下げれば足が上がる……といった状態。その状態で、erosはエビ反りのような姿勢で首にテープを食い込ませて死んでいた≫
・このチャットのことは警察にも話した。特に目立った反応はなし
以上が777とpolaの第一報だった。
誰かが友人の犯行を疑えば、777とpoloがそれを否定した。友人はerosの訳の分からないお願いを聞くほどの仲だったわけだし、殺害を疑われるのを厭わず警察に通報しようともしたし、現場からも逃走しなかった。そしてなにより、erosを殺し、容疑を免れようとすれば、もっと上手い方法がいくらでもあったはずだ、と2人は反論した。
ただ、そのあとにこうも言った。
状況的に考えると、実際に手を下したのは友人で間違いないと思う、と。なのに、友人が犯人ではないという根拠は……。
それはerosの死に方だった。
あまりにも不自然な死に方を友人が選択する必要はなかったのだ。元々被害者の了承を得て拘束してあったし、殺そうと思えばいつでも殺すことができ、チャットへの書き込みもerosのIDさえ使えばいつでもどこでも可能だった。さらにこれまでの自殺予告と実際に行なわれた自殺の数々を考慮すれば、友人加害者説はこのチャット内の人たちにとっては一種の現実逃避的思考に過ぎない。
友人はおそらく、幽霊に操られて物干し竿とビニールテープの仕掛けをerosに施しただけだと思われる。
20:30 ;777
111の話に則って、犯人を幽霊とするなら、幽霊は自殺という死に方にこだわっている。erosの死に方はある意味で自殺だった。自分で足を動かし、括られたビニールテープで首を絞めた形になるからな
20:32 :777
もちろん、そんな面倒な仕掛けを施すよりerosの拘束を解いて勝手に首を吊らせておけば世話ないのだろうが、なぜそうしなかったのか、そんなことオレは知らん
美佳はtamaの自殺予告のこと、彼の顔、声、今日の会話のことを思い出し、大きく息を吐いた。
あいつが来週の月曜に死ぬのか……。
その晩、夜遅くにtamaの書き込みがあった。
みんなに請われて、tamaが名前を明かした。
竹内優也。
あいつは竹内優也っていうのか。
彼女は知りたくなかったと思った。
あいつの顔も名前も……。
その晩のtamaの書き込みは被害者意識が全面に出た、彼女にとっては嫌な書き込みだったのでとりあえず無視した。