死んで花実が咲くものか ⑭
美佳はtamaのことを勝手に女子だと思い込んでいたから、男子が現われたことにいささか困惑した。
彼女に声を掛けた男子は自分がtamaだと言った。
彼女は正直にtamaは女子だと思っていたと告げて、なぜ男子のクセにtamaなどという可愛らしい名前を付けたのかと尋ねた。
その男子は言った。
「玉ってのは男子必携のアイテムだから、むしろ男らしい名前なんだけど。そうは思わない?」
出会ってまもないのに投下された下ネタに、彼女の中の可愛らしいはずのtama像が敢え無く崩れた。
「あのー、たぶん話すことなにもないんで、やっぱり私、帰ります。」
特に彼の死を願ったわけではなく、ただ単に関わり合いになりたくなかっただけだった。
「え? なんで? 名前の件が気に入らなかった?」
まるで自分はなにも悪くないとでもいうような態度、へらへらした顔……彼女は彼の一挙手一投足に気を害された。
「……その神経が気に入らないんだ。じゃ。」
片手を上げて別れの挨拶をして、美佳は踵を返した。
「待った待った、ちょおっと待った!」
しかし回り込まれてしまって進路を断たれた。
前に進めなくなった彼女は彼を避けて横に進路を変更したが、彼はしつこいディフェンダーのように付きまとってきた。
「あなたはスリーセブンさんとか、もっと大人の男性と話をすべきだと思います。私じゃ話になりません。」
あんまり彼がしつこいので、彼女はきっぱりと言い放った。
痴話喧嘩して拗ねてる女みたいに周りに見られてるような気がして不愉快だった。
「スリーセブン……ナナナナナナさんか。」
777をスリーセブンと読むか、ナナナナナナと読むか、そのセンスの違いにも彼女は敏感に反応させられた。
恋すると、相手のなにがいいって一々挙げてもいいけど、とにかく全部! みたいなところあるけど、こいつの場合、なにが嫌ってとにかく全部!って感じだな……と彼女は思った。
「すいませ~ん。」
S駅東口交番の引き戸を開けると同時に、彼女は警官に声を掛けた。
「ん? 交番になにか用?」
彼女の背後で彼が疑問を口にした。
「ストーカーに付きまとわれてるんです。この男なんですが。」
彼女は彼を警官に突き出し、簡単な職質に付き合ったあと、彼を交番に置いて帰った。




