死んで花実が咲くものか ⑫
美佳が“ 私が警察に話そうかどうしようか ”と考えている間に、777がerosの友人のお願いに応じることを告げ、777に続きpoloが同様の声を上げた。
19:08 ;777
もしよければこれから現場へ伺い、貴方から直接当時の様子などを聞かせていただきたいのですが、いかがでしょうか? 今後もこのチャットを通じて被害者が出ないともかぎらないため、私としては少しでも多くの情報を集めたいと考えております。差し支えなければ、インターネット上ではありますが、現場のご住所だけでもお教えいただけませんでしょうか?
いつも軽薄な文章を書く777の丁寧な書き方に驚くと同時に、事態が一歩進展しそうな気配に、美佳は胸を高鳴らせた。
自殺予告で説明した方法とは異なるerosの死に方。犯人への手掛かり。
現場へ行けば、なにか新たな発見があるかもしれない。
そして、その情報はまた777を通じてこのCR内に伝達されるのだ。
erosの友人の返事は早かった。
警察に通報するのはあとにするから、早く来てくれとのこと。
777とpoloがほぼ同時にすぐ出立する旨を書き込んだ。
CR内で1点の目標に向かって進展してゆくやりとり。
まるで現実とはかけ離れたドラマを観ているようで、彼女は内心ワクワクしていた。
そこへ、いつものように次の自殺予告の書き込みが画面上に浮かび上がった。
19:10 ;tama
私も死ぬよ
そのとき、多少とはいえ浮かれていた彼女の気持ちは一瞬で醒めた。
彼女にとって、tamaはサイト内で唯一の友達のような存在だったからだ。彼女が初めてCRに入室したとき、相手をしてくれたのがtamaで、それから2人はいろいろとお互いの近況について話し合ったりして仲を深めていったのだった。
19:10 ;miya
tama、大丈夫?
彼女は急いでそう書き込んだ。
誰にもtamaの書き込みを茶化されたくなかったのだ。
777やpoloのようにこの事態を重く受け止めている者もいれば、一方で煽りを入れたり茶化したりする輩も少なからずいた。
特に2ちゃんねるのまとめサイトでHPの良からぬ噂が紹介されたあとは、CR内の書き込みも大きく変化した。
おふざけのような書き込みが散見されるようになった。
彼女にはそういった書き込みが腹立たしかった。
人の死を遠巻きに見物する野次馬たち……という感じがしていた。
19:11 :tama
なんてね、嘘だよ
冗談(笑)
19:11 ;miya
その嘘だよってのが嘘じゃないでしょうね!?
本気で冗談だって言うんなら怒るよ!?
19:12 ;tama
miya
miya
miya
明日、会えない?
CR内の人間に会わないかと誘われたのは初めてだった。




