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生霊 ⑳

もうすぐ8月2日になるのでスパートかけます!


間に合ったら2016タグつけるんですが……

 琢磨はついに自分の頭がおかしくなったかと思った。


 ときどき、いるはずのない女、彼が殺したはずの智美の姿が視界に現われるようになったのだ。会社に、駅のホームに、信号待ちの交差点に、アパートの自室に……至るところに、智美はいた。


 青白い肌、生気のない虚ろな目、そして、彼が殺したときと同じ服装に同じ血糊……。


 智美の姿が見え始めたころから、彼の周囲で頻繁に変化が起こるようになった。その変化というのは、ティーカップの位置がずれていたりとか、パソコン上のデータが改竄されていたりとか、些細な変化ばかりだったが、これが地味に彼を苛々させた。


 仕事での失敗が増えた。


 上司から戦力外通告を受け、遠回しに退職を勧められた。


 周囲の彼への態度の変化がさらに彼を苛つかせた。


 そんな中、ハルだけは以前と変わらず、彼のことも彼の変化も気にも留めていないといった様子だったので、ある日、彼は痺れを切らせてハルに尋ねた。


 彼が彼女に声を掛けると、彼女はまさか彼に声を掛けられるとは思わなかったというようにキョトンとして彼の方を見た。


「なあ、ハルには見えてんだろ?」


「え、特になにも?」


 そんな会話の最中にも智美は彼の背後に現われ、彼の首に両手を掛けた。瞬間、ビクッとする彼。だが、振り返ると、そこには誰もいない。


「ほら! いまもオレの後ろに出てたろ!?」


 その言葉に対し、彼女は黙って首を傾げただけだった。


 智美が生霊から本物の幽霊に進化したために、ハルの力では見ることができなくなってしまったのか? と彼は考え、唇を噛んだ。


 ちくしょう! なにが幽霊が見えるだ! やっぱり見えてないんじゃないかこの法螺吹きめ!


 心の中で悪態を吐いて、彼女から離れた。


 自分の席に腰掛け、背もたれに深々と背を預けると、腕を組んでいまの彼女の態度について考えた。なにしろ、彼女が最後の望みだったのだ。謝罪や1000万円という高額な支払いの条件はともかく、彼女だけがこの事態を収拾する力を携えているはずだった。


 だから、彼女の幽霊が見えない、という態度を今度は疑わざるをえなかった。子供のころは、彼女には幽霊が見える、という事実を否定していたのに。


 彼女の方に視線を向けてみると、珍しく彼女と目が合った。そして、目が合った瞬間、彼女の口許が少し綻んだように見えた。


 くそったれが!


 彼女の表情の変化を見て、彼は彼女が嘘を吐いたのだと確信した。見えていない振りをしやがったな! 彼は瞬間的に激昂したが、すぐに深い溜め息と共に怒りを抑えた。彼女が見えていない振りをしたのはさしたる問題ではないのだ。問題は……彼女にはもう彼を助ける気がないということと、彼女にそう結論を出させてしまった自分にあるのだ。


一縷の望みを抱いていた彼女にも見放されて、彼はついに覚悟を決めるに至った。


 精神的に参っていたとはいえ2人の人間を殺めてしまっているんだ。これからオレが発狂して死ぬるとして、そのどこに理に敵わない部分があるってんだ!

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