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生霊 ⑮

 夢の中。


 琢磨に夢だという意識はなくても、壁のクロスを埋める夥しい文字がそう教えてくれる。そろそろかと思うと、やはり呼び鈴が鳴った。


 就寝前、探し回るのも鬱陶しいからと、ハルは彼に部屋から出るなと言った。


 彼は息を飲んで呼び鈴を聞き続けた。


 昨夜は運良く幽霊をやっつけられたが、今夜も1対1で勝てるとはかぎらないし、幽霊も昨夜の敗北から学び、行動パターンを変えてくる可能性もあった。そう思うと、ハルが夢の中に現われるまでの待機時間も恐怖感でいっぱいだった。


 呼び鈴が鳴り始めて5分経った。


 ガン! ガン! ガン!


 激しくドアが叩かれる音が部屋中に響いた。


 ほら! パターンを変えてきやがった!


 と思うと同時に、玄関ドアから幽霊の身体が擦り抜けてくるのが見えた。


 今夜の幽霊の顔は黒く朽ち果てていた。ただ、削がれた眼窩に納まった眼球だけが瑞々しくギョロついていた。


 ゆっくりとドアを擦り抜けた幽霊は、抜け終えると彼に向って走ってきた。


 これも初めてのことだった。彼の認識では、幽霊の動きはノロいはずだったのだ。


 思わぬ幽霊の動きに面喰った彼はすっかり硬直してしまって、幽霊の猛タックルを避けることができなかった。


 ガシャン! バキバキ!


 ベランダに続く掃き出し窓に叩きつけられ、窓ガラスが割れた。ガラスの尖った部分が容赦なく彼の肉を切り裂いてゆく。今日は死んだ、と彼は思った。そして、ハルが現われるのを待つことを諦めた。短期決戦を挑んでくる幽霊に抗う術などなかった。


 だが、幽霊もすぐにトドメを刺しはせず、優勢を確保したのちはいつものように彼をじわじわと痛めつけていった。


 彼を痛めつける度に、幽霊の顔の傷は回復してゆくようだった。その変化は奇跡と言っても過言ではないほど感動的な光景だった。


 夢の中とはいえ、あっという間に彼は虫の息になった。もうなにも考えることさえできず、ただただ苦痛が苦痛でなくなるのを待った。


 そんなとき、幽霊がピタリと動きを止めて、背後を振り返った。


 振り返った幽霊の視線の先にはハルが立っていた。

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