生霊 ⑪
ドンキの店内は日中ほど人はいなかったが、それでも若い連中が何組もいて、日常となんら変わらないようだった。
琢磨はとりあえず武器になりそうな物を物色しながら歩いた。夢だから商品棚から物を借りたって問題ないだろ? と思ったのだ。
歩き疲れて、彼は店内の端の壁に背をもたせかけて眠ることにした。
夢の中だから体裁なんてどうでもよかった。
もしいまが実は現実だったら……そう思うと冷や汗が滲んだ。本格的に頭がおかしくなっていたらどうしよう、と彼は思った。見えるモノも聴こえるモノもなにも信じられなくなったら、幽霊の勝ちだな。
うつらうつらとしてると、彼は人の気配を近くに感じて目を開けた。目の前には髪を茶に染めた若い女が立っていて、店内の地べたに座る彼に侮蔑の眼差しを向けていた。
「おっさん、こんなとこで寝てんじゃねえよ。目障りだから用がないなら帰って寝ろや。」
一瞬、店員かと思ったが、彼女は私服だった。彼の思い描く不良娘の風貌、言動そのもので、彼はさすがオレの夢の中だなと心の中で苦笑した。
「ほら、手を貸してやるから立ちなよ?」
彼女がそう言って手を差し出してきた。
おかしい? オレの描く不良娘の行動にこのようなパターンはないはずだ……と彼は訝しんだ。彼女が幽霊? という疑念が湧くが、いまの彼には判断できなかった。
幽霊と出会った彼は幽霊に殺されるにせよ自殺するにせよ、悉く死んでいて、当時の記憶は残っていなかったから、幽霊の姿も記憶にないのだ。
「ほら。」
不良な風貌とは対照的な優しい表情を見せる不良娘。
彼は警戒しながらも彼女の手を取った。
そして立ち上がると、凄まじい力で彼の手が捻り上げられた。
「ダメだよ。逃げちゃ。」
そう言って微笑んだ不良娘の顔がボロボロと崩れてゆく。
不良娘の崩れた顔から現われたのは、これまで見てきたお馴染みの幽霊の女の顔だった。
そのとき、彼はこれまでの経緯をすべてを思い出した。