プ2L
なんの飾り気もない青い大学ノートは私と彼女しか知らない秘密の場所に隠してある日記帳だ。ややボロボロになってしまっているのは、私の涙のせい。ページは皺クチャになり、ページを綴じてある厚紙もややふやけてしまっていた。
この日記も最近は私だけが書いていて、彼女がなにかを書き込むことはなくなっていた。そして、おそらく彼女は私が書いた日記を読んでくれてさえいない。きっと何日も前に彼女は日記への興味を失ってしまったんだ。
私はどうしても彼女に日記を読んでほしくて、昨日のうちに彼女に日記を読んでもらうための仕掛けを日記の隠し場所に施しておいた。だから今日は彼女が日記を読んでくれていることを、以前からの私の質問の回答をなにか書いてくれていることを祈りながら大学ノートのページを繰った。
私への返事が書いてあった。力強い筆圧に、乱雑な文字。それを見ただけでゾクッと戦慄して、微かに指が震えた。
彼女の書いた文章は私への怒りで満ちていた。
【私はあなたを絶対に許さない】
【今度は私が、あなたを永遠の地の獄へ突き落としてやるわ】
初めて触れた彼女の私に対する強い感情、恨み、怒り。
私は彼女の回答に心から満足した。
ありがとう、治子。おかげで決心できたよ。
この先、この日記帳を彼女が開くことがあるかどうか定かでなかったが、私は一言、彼女の回答に対する返事を書いた。
【ありがとう 治子。私はあなたの言葉を絶対に忘れない。私はいつまでもあなたを待ってるよ】
それから数日経ち、中学校は冬休みに入り、年が暮れ、新年を迎えた。
治子が日記を読んだ形跡はなかった。
もう治子が来ることはないね……。
ボロボロの青い大学ノートを取り出し、ビリビリとページを千切る。手を止めることなく千切って千切って、紙片を白いビニール袋の中に放ってゆく。紙が引き裂かれる音はまるで私の身を引き裂く音のよう。私の存在証明ともいうべき日記帳は瞬く間にゴミ屑になり、袋の中に収まってしまった。袋の端をグルグル捻じって口を固く結び、私はゴミ屑になった私を持ち上げると、それをゴミ箱の中に捻じ込んだ。
しばらくお別れだ。
私のことは忘れよう。