生霊 ⑦(仮)
その後も琢磨は夢の中での出来事を思い出すことはなかった。
夢の中で玄関のドアを開けて、女の存在に気付くと昨晩までの記憶が蘇るのだが、そのたびに
なぜオレはいつもドアを開けてしまうんだ!?
と、彼は自分の愚かしさを呪うことになった。
夢でも上手くゆかず、会社ではハルに相談どころか彼女のことを見向きもしない。一方、彼女は彼がみるみるうちにやつれてゆく様子を見てほくそ笑んでいた。
初めて遅刻をした翌日はどうにか出勤時刻に間に合ったものの、その翌日からはずっと遅刻が続いており、上司は彼を容赦なく叱責したが、同時に彼の酷いやつれ様をまのあたりにして、彼の身体の心配もし、しばらく仕事を休んではどうかと進言もした。つまり、自主退職を促したわけだ。それほど彼は参ってしまっていて、仕事にも身が入っていなかった。
社内で女性社員に声を掛けられて、彼がビクつく様子も目撃された。
ただ、その怯えは本能的なもので、彼自身、なぜこれほどビクついてしまっているのか理解できていなかった。
そんな自身の意味不明な挙動に唖然とした彼は、ついに医者にかかることに決めた。
病院で一通りの検診を受けて、目立ったところでは“ 心室性期外収縮 ”という心臓の異常が発見されたが、診察において本人にあまり自覚がないことを認めると、医師は
「では、問題ないでしょう」
と言った。
また、彼が眠れないことを告白すると、飲酒と喫煙は控え、適度な運動をしなさいと医師は回答。そのうえで琢磨は二週間分の睡眠導入剤を処方された。
実際に薬を受け取ると、今夜からはぐっすり眠れるはずだと彼は喜んだ。
その日の夜。
彼は眠りに就く少し前に薬を飲んだ。
フー、スー、フー、スー……。
やや緊張の入り混じった荒い自身の呼吸音に耳を澄ませながら、彼は眠りに落ちた。
そして、夢を見た。