生霊 ⑥(仮)
一夜の夢を爆発により吹き飛ばしたものの、翌晩にはまた夢の中に女が現われた。
女の頭はまるでドリフの爆発コントのオチのように爆発していた。琢磨はそれを見て、ハルが言っていたオレの傍にいる幽霊ってのはこの化物のことだったんじゃないかと思った。
彼はゾッとした。
ハルが幽霊が見えると言っていたのは本当だったのかもしれない。そして、オレはいま幽霊に襲われていて……。
夢の中のことだからと一笑に伏すことはできなかった。夢の中で受けた傷こそ現実には反映されていなかったが、確実に日々疲弊していっていたのだ。疲弊の原因も分からず、いまでは病院での受診を考えさせられる程になってしまっていた。
ハルに相談した方がいいんじゃないか?
夢の中で彼はそう思ったが、彼女に謝ることに抵抗があった。というのも、幽霊が見えるという彼女の話を彼は子供の頃に否定していたからだ。彼が霊の存在を否定したのには理由があった。彼は霊の存在を認めるわけにはいかなかった。だから、彼女の言葉に強く反論したし、それをいまさら容易く覆せるはずもなかった。
だが、それでも……事ここに至っては悩んでもいられなかった。
彼はハルに相談することに決めた。
彼女に相談するには、まず夢の中の記憶を起きているときまで保持しておく必要があった。
昨晩、夢の中で見つけたメモ。あれはその前日に書き残したものだが、起きた時にベッドの端にはそんなメモは貼られておらず、夢の中で初めて見つけることになった。つまり、夢の中に手掛かりを残しても、それは翌日の夢の中で発見することになるだけだ。
結局、彼は夢の中の出来事を記憶するための良い案を思い付くことができなかった。
ハルはオレが謝れば出張ると言ってくれているが、目覚めてしまえば彼女に謝る気持ちなんて霧散してしまうんだ。
目覚めてしまえば、そのときのオレは幽霊の存在を否定するんだ。
近い将来の自分の本当の死を怖れながら、彼は今晩も夢の中で女の幽霊に殺された。
そして一昨日までと同じく、目覚める間際に化物はふつうの女の姿になり、彼を優しく抱いた。それまでの苦痛に慈愛を上書きするかのように。