生霊 ④
その晩、琢磨はまた夢を見た。
夢の舞台は東京A区にある木造アパート2階の、彼がふだん生活している1LDKの部屋だ。
玄関のたたきを上がるとすぐ9畳のリビングダイニングになっていて、玄関を背に右手にガス台、シンクがあり、その脇からさらに浴室、洗面、トイレが並んでいる。ベランダ側にある6畳の洋室には広い収納もあり、都内にありながらこの広さで家賃4万9千円なら安いと彼は思っていた。
夢の中で、彼は洋室のベッドに横たわって、天井を見つめていた。
彼はまだ、この夢が毎日見ている夢と同じだとは気付いていない。
ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
どうせNHKの集金もしくはネット回線の営業だろうと思い、彼は呼び鈴を無視した。
寝返りを打つと、ベッドの端にメモが貼られているのを発見した。
≪ピンポン鳴っても出るな≫
メモにはそう書かれていたが、なにを目的にそう書かれているのか不明だったので、彼はそのメモのことをあまり気にしなかった。
呼び鈴は鳴り続けた。
いつもなら2、3度で諦めて退散するはずなのに、今日はやけに粘るじゃないか。もしかすると本当にオレに用があって訪問してるのか……と彼は訝しみ、面倒ながらも応対することに。
玄関のドアを開けてみたが、外には誰も立っていなかった。
タイミング悪く諦めたのかと思い、2階へと上がってくる階段を見下ろすも、誰の姿もないことから、もうとっくに逃げちまったんだろうと思った。
ま、本当に用があるならまた来るさと、ドアを閉めて部屋へ戻ろうとして振り返ると、リビングに女が立っていた。
彼は驚くと同時に、思い出した。
あ、夢だ……と。