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死んで花実が咲くものか 59

本編終わらせようと思ったところ、長くなったので一区切りして投稿します。


次が本編ラストで、その後、2~3エピローグを投稿して終わります。


よろしくお願いします。

 治子とハルと別れたtamaと美佳は、毎度のお約束のようにベンチに腰掛けてお喋りした。ただ、お騒がせな幽霊も消滅したし、ハルにもお礼を言えてスッキリしたとあって、今宵の2人にはこれまでのような悲壮感が漂っておらず、2人はお互いの無事を喜び、ここまで付き合ってくれたことをお互いに感謝し合った。


 ≪死んで花実が咲くものか≫のCRへ書き込みする指先がいつもより軽い。いまのように清々しい気持ちでサイトを開いたのは、幽霊騒動以前から見ても今回が初めてだった。


 先程のtamaに続き、改めて美佳が無事を報告すると、CRは2人への祝福の声とこれ以上犠牲者が増えないことへの喜びの声で再び湧き立った。

 

 だが、書き込みはそればかりに留まらず、幽霊の正体を知りたいという声がポツポツと現われ始めた。おそらくnachiだろうという推測が大勢を占めたが、幽霊が消滅したいまとなっては真相は闇の中。ただ、tamaと美佳も幽霊の正体は知らなかったが、それとは関係なく、2人は幽霊の正体なんて誰も知らない方がいいんだと思っていた。


 幽霊がnachiだったとはかぎらないが、仮に幽霊の正体が近年死亡した誰かだとしたら、まだその幽霊の家族は存命であると予想されるわけで。そうしたときに、犠牲者の親しい人物の怒りがその家族に向けられるとしたら……、自分が犠牲者の親族であった場合を想定すると解答が一転するのだけれど、いまの2人の立場で言えば、幽霊の正体は不明のままの方が良かった。


 一族郎党皆殺しにしてくれる……という言葉が美佳の頭の中には浮かんでいた。殺人犯が法の裁きを受けられない幽霊であればこそ、遺族からすれば一族郎党云々という思考に陥ったとしても不思議でない気がした。


 だから美佳は自分の目が捉えた幽霊の姿や、幽霊が話していた内容などは一切CRに書き込まなかった。


 tamaと並んでそれぞれの携帯でCRの書き込みを見ていると、隣で彼が


「そういやエロスさんの友達って大丈夫なのかなぁ?」


 と言った。


 CRの書き込みにはエロスの友人の安否を心配する声もあった。まだ逮捕はされていないようだという書き込みもあったから、多少は安心したものの、“ まだ ”という表現が引っ掛かった。


 祝福、安堵、幽霊の正体探し、エロスの友人の心配、ほか、幽霊への罵詈雑言、幽霊の消滅を残念がる声……などなど、鈍く光る画面内に展開されるそうした書き込みを見ていると、なんだか混沌とした世界がその小さな画面内にすっぽりと収まっているようで、思わず美佳は視線を上げた。ずっと画面を見ていると、自分もその混沌の中に吸い込まれてしまいそうな気がしたのだ。


 目の前に広がる暗い公園を見たあと、自分の手に視線を移してからようやく、彼女は画面内の混沌が別世界の出来事なのだと、頭の中で明確な仕切りを作った。


「ハルさんがいれば、幽霊の存在を警察とかにも信じさせることができるんだろうけど。」


 エロスの友人への疑いを晴らすには、それしかないと美佳は思った。というのも、当時の状況がエロスの友人が黒だと主張しているからだ。


「でも、もうハルさんには頼れないからなぁ。治子さんはどんな人なのかさえ分からないし。」


 tamaも美佳と似たような考えだったが、肝心の治子にどう頼めばいいのかが分からなかった。


「そうだね。治子さんはなんか闇が深そう。」


 美佳がしんみりと言った。


「そうそう、なんか昔のこととか聞くの怖いわ。」


 2人には治子の存在が不気味だった。彼女が過去にハルさんにやられていたのは間違いなく、とはいえそれはハルさんの本意ではなく、それにハルさんは優しいから、いつか彼女に復讐されることをずっと望んでいた……。


 2人がそれぞれ聞いたハルの言葉、治子の言葉からそうした推測が為され、2人はう~ん……と深く息を吐いた。


「ハルさん的には、これで良かったんだよね?」


 尋ねながら、美佳はまだ治子だったころのハルを思い浮かべていた。


 I駅前で仏頂面で2人を待っていた治子。

 喫茶店でお金の話をしながら様々に表情を変化させていた治子。

 tamaの家の前で見せた冷ややかな視線。

 そして、ある日、突然、口調を変えてビジネスライクな関係から近所のお姉さんといった感じに雰囲気を変えた。


「そうなんだろ? だって、切望していた結果だって言ってたじゃん。」


「それはそうだけど……。」


 それは治子に復讐されるところまでを想定して言ったんじゃないかな、と美佳は思った。

 私たちと喫茶店で話していたときは、まさかそんな人だったとは夢にも思わなかったのに。

 

「うえ!?」


 そのとき、tamaが素っ頓狂な声を発した。


「なあ、ハルさんがヤバいこと書き込んでる!」


「ん? ヤバいこと?」


 美佳が画面に目を落とすと、そこには確かにharuの書き込みがあった。


 22:10 ;haru

 幽霊は不滅です!

 1人の幽霊が死のうとも、第2、第3の幽霊が現われるのだ!

 だから次は私の番!!


「ねえ、これってどっちが書いたんだと思う?」


 ヘンテコな書き込みに美佳が唇を尖らせる。


「いや、ハルさんとは思えないし、かといって、治子さんのイメージでもないよな。」


 22:12 ;haru

 すいません、いまのは打ち間違いです。

 申し訳ありませんでした。


 それからまた現われたharuの書き込みを見て、


「あ、これがハルさんでしょ!?」


 と美佳が言うと、tamaもそれに同意した。


「ということは、最初の書き込みは治子さんの方? え? あの人、なにしてんだろ?」


「さあ。悪戯のつもりなのかな?」


 22:20 ;KO

 haruは打ち間違えましたが、これは打ち間違いではありません

 本日付けで≪幽霊がいなくなって残念だ≫という意味合いの

 書き込みをした人たちに申し上げます

 いい加減にしろや!


 22:21 ;KO

 すいません。打ち間違いです

 そう思っただけで、書き込むつもりはなかったんです


 22:23 ;haru

 22:21のKOはなにが言いたいんでしょうかね?(笑)

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