生霊 ②(仮)
琢磨は24歳、ポカポカ興産入社二年目の新人だ。
これまで大病はもちろん風邪とも無縁で、無遅刻無欠勤を誇っていた彼にとって、今朝の遅刻は社会人になって初めての汚点になった。
だが、ふだん真面目な彼の初めての遅刻に対し、周囲の人たちは優しかった。頭痛で動けなかったという下手な言い訳も信じてもらえたようだった。
「大丈夫か?」
彼の部署の課長が彼に声を掛けた。
「ええ、もう治ったようです。」
「そうか。社会人は自己管理もできて一人前だからな、本来なら頭痛なんて言い訳にならないんだ。今後は気をつけて。」
この言葉に、課長は彼の頭痛を二日酔いくらいに思っているのかも、と彼は勘繰った。
次に、同僚の女が彼に声を掛けた。
「たくやん、憑かれてるね。」
彼女は琢磨の同郷の古い知り合いで、いまも彼のことを幼いころの渾名で呼んでいる。
「ああ、最近あまり眠れてないんだよ。」
「まだ暑いもんね。テレビで暑過ぎたらクーラー点けた方がいいって言ってたよ?」
「ん、それもあるけどな。」
まさか夢の話をするわけにもいかず、彼は話を濁した。
「大体、眠っているときって意識がないんだから、もうオレであってオレじゃないみたいなもんじゃん? 起きる前のことをいろいろ言われてもどうしようもないよな。」
そんな彼の屁理屈に失笑を漏らした彼女だったが、彼女としては珍しく彼をお昼に誘った。
彼は彼女が自分に気がないことは分かっていたがその誘いを受け、お昼になったところで、2人は会社の近くにある洋食屋に入った。
「たくやん、さっきの憑かれてるって話だけど。」
彼女がそれ以外に話題はないといった具合に切り出した。
「誰かに恨まれるようなことしてるでしょ?」
そう言って彼女はニヤリと笑った。