死んで花実が咲くものか 48
本体を殺すぞ、と幽霊に脅迫された治子。
実際、身体の方をやっつけられてしまっては堪らなかったが、かといって、いまの彼女には幽霊がtamaを操るのを阻止できるほどの余力がなかった。
「まさか、お前、私の身体だけをやっつけようって魂胆なわけ? 言っとくけど、やめといた方がいいよ。あの身体、実は私の有り余る力を抑えるための単なるリミッターに過ぎないんだよね。あれがなくなっても、私の真の力が解放されるだけ。そしたらお前、すぐ泣きを見ることになるよ。」
攻勢に打って出る余力がなかったので、彼女は咄嗟に嘘を吐いたが、
「へえ、そうなんだ?」
と、幽霊は彼女の嘘を真に受けなかった。
tamaのところへ行くか、無理して幽霊をやっつけるまで攻撃し続けるか……治子は一瞬考えたが、あいにく彼女は彼の逃走先を知らなかったので、選択肢は1つしかなかった。
幽霊に息吐く暇も与えることなくやっつける?
目の前に佇む幽霊を見据えて、彼女は絶望を覚えた。
そもそも倒せるかどうかさえ分からないのに、さらに条件を付加されたとなると、それはもう無理な話でしかない。
でも、やらなきゃ文字どおり死んじゃうからね!
彼女は覚悟を決めると、幽霊に向かって突進した。
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「どこか、身体に痛むところとかありませんか?」
念のために、tamaは起きたばかりの治子に確認してみた。
彼女は繁々と自分の身体を見回したり、手をグーパーしてみたりしたあと、
「特に痛むとこはないですが。」
と答えた。
ひとまず安心した彼が、
「ハルさんはとりあえずここで待っててください。オレ、いまから美佳を連れてきますから。」
と彼女に告げると、
「ハルさん? 美佳って?」
と彼女は首を傾げた。その様子を見て、彼は悲しくなった。
「とにかく、待っててくださいね。」
無理に笑顔を作って、子供に言い聞かせるようにそう伝えてから、彼が美佳の方へ駆け出そうとすると、治子にグッと腕を掴まれて、引っ張られた。
「なんすか?」
「すいません。まだ、いろいろと分からないことだらけなので、アレなんですが、1つだけいいですか? お兄さん、なにか罰当りなことしました?」
そう言う彼女の目は、先程までと変わって、視線で彼を貫かんばかりの鋭さを持っていた。彼はその気迫に気圧されながらも、
「いや、なにもしてないっすよ。」
と答えたが、彼女はその答えが不服のようで、溜め息を1つ吐くと、
「なんでみんな嘘ばっか吐くんだろ? じゃあ、これも無意味だろうけど、言っときますね。お兄さん、幽霊にいまやられてますよ。」
「オ、オレが!?」
彼は驚きのあまり、言葉が上手く出てこなかった。
「特に問題ないのであれば、私、なにもしませんけど。」
淡々とそう言い放った彼女の目は真剣そのものだった。