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私じゃない⑰ 直し

 ハルが期待したとおりに、日記には治子の返事が書かれていた。


 ハルはそれを読んで、しばらく放心し、その後、治子として生きてゆくことを決意した。


 そして、


 ≪ありがとう 治子。私はあなたの言葉を絶対に忘れない。私はいつまでもあなたを待ってるよ≫


 と書いた。


 それから数日間、ハルはこれまでのように治子として暮らしていたが、もう治子と入れ替わることはなかった。


 年が暮れ、新年を迎えたとき、


 もう治子がこの日記を読むことはないね……


 と思い、ハルは意を決して日記を細かく裁断し、ゴミ袋の中に紙屑を捻じ込んだ。日記の消失により、ハルが現世に存在したという記録が消えた。最早、治子がハルだという物的証拠はない。


 こうして記憶障害持ちの治子は、元どおりの元気な治子になり、すべての歯車がすべて正常に噛み合ったかのように、彼女の日常が再スタートを切った。




―――――――




 詳細は過去の日記の中にあります


 ↑


 過去分の日記、読んだけど、特になにも特筆すべき点は見当たらなかった。

 あんまり人を虚仮にするのも大概にしなよ。


 せっかくだから、ここで前からの質問への回答など、書いておく。


 前からだけど、一体、どういうつもりで私にどうすればいいとか尋ねてるのか知らないけど、許す許さないで言えば、私は絶対にあなたを許さない。


 当然だよね?


 あなたは私からなにもかもを奪っていった。家族も友達も身体も名前も人生も、なにもかもを。幽霊が見えるっていう特典はあったようだけど、実際、幽霊が見えて良かったことなんて、ただの一度もなかったわ。逆に、見えなければ良かったと思ったことは何度もあった。私にとって、あなたは本当にろくでもない奴だった。


 あなたはいろいろと考えているようだけれど、それってすべてあなたの都合で考えてのことだよね?


 私のことはすでに蚊帳の外。


 私の立場でなにかを考えて発言したことなんて、ただの一度もないでしょ?


 アホみたいに何度も何度も謝っているけれど、なにが悪いか本当に頭使って考えたことあるのかな?


 といっても、私はもうすぐこの世から消えてしまうのだから、別に構いやしないけどね。どうでもいい。あなたが治子としてなにをどうしようが、どうでもいい。そこに私はいないんだから。


 気に入らないのは、あなたが私に今後の方針を尋ねているって点だよ。


 治子のままでいていいか?

 みんなに素性を話しましょうか?

 死ねと言われれば死にますよ?


 あまりふざけないでよね?


 それってどういう意味で言ってるの?


 あなたの言うところの、許しとか罰とかに関係してくんのかな?


 そのへんよく分からないけど、お父さんとお母さん、お姉ちゃんを盾に私を挑発してるようにしか見えないんだけど、どうなの?


 あなたがなにをするかをこれから気にしてくれるのが、お父さんであり、お母さんであり、お姉ちゃんなんじゃないの?


 あなたもこの夏までは児島治子だったんだよね?

 そう言ってたよね?

 そのくせに、死んでもいいとか言ってんの?


 馬鹿じゃないの?

 馬鹿でないなら、薄情者の人でなしだね。


 ここまで受けてきた恩を徒で返すつもりなら、どうぞご自由に。


 私があなたに罰を与えるとかそんなことはしない。


 許さないし、だけど、罰も与えない。


 いまはあなたが児島治子で、私は何者でもなくなったの。これからの治子の人生はあなたの人生なの。そうでしょ? 


 これからの治子はあなたであって、私じゃない。


 そして、治子に罪はない。


 


 でも、これだけは覚えておいて。


 私はあなたを絶対に許さない。


 児島治子が死んだとき、治子の身体が朽ち果てたときには、あなたは本来の小島ハルに戻って、また暗闇とS町との境界で徘徊してるがいいわ。治子の人生を終えたからといって、勝手に黄泉の国へ行くな。そして、誰からも忘れ去られた1人の女のことを、あなただけは死んでも覚えていろ。


 あなたに会うために、きっと私はS町に戻ってくる。


 今度は私が、あなたを永遠の地の獄へ突き落してやるわ。




 もう私がこの日記を開くことはないだろうから、日記はさっさと処分して。誰かに見られると、マズイでしょ?

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