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私じゃない⑩

 ――――― ところが、治子の日記を読んでいて、なぜだか分かりませんが、私はすべてを思い出したのです。




 思い出してしまうと、いままでの不可解な出来事もすべてが腑に落ちました。


 なぜ、幽霊が見えていたのか。


 なぜ、一昔前の光景が見えたのか。




 ほかの人にはそのようなものなど見えやしないのに、なぜだろうと治子はずっと不思議に思っていましたよね。いずれも私のせいです。幽霊が見えるのは、私がそれに近しい存在だからであり、一昔前の光景が見えたのは、治子の潜在意識の中に潜む私が、いまの風景を見て当時を思い出し、懐かしんでいたからでしょう。


 ここまでで大体察せられましたか?


 昨日、ご覧になられた日記にて、分かる? と尋ねたのは、治子がいまの状況をどこまで理解しているか、確認しておきたかったからです。いま思えば、まったく理解していないであろうと、ほとんど分かっていながら、我ながら意地悪な聞き方をしたものだと思います。思いもよらぬ事実を突き付けられて、治子がショックを受けやしないか心配だったのです。


 結局、一体どのように書けば、治子を驚かせずに済むのか、まったく見当が付きませんでしたが。無理です。どう遠回しに説明しても、結局は驚かせてしまうことになるでしょうし、納得を得られようはずもありません。




 ごめんなさい。

 ごめんなさい。




 謝罪を書いたのは、いま、治子が苦しんでいるのが私のせいだからです。そして、このまま状況に変化がなければ、きっと治子にとってとても残酷な運命が待っていると思われるのです。


 変われるものなら変わってあげたい、というのが私の本心です。ですが、恥ずかしながら私にもこの事態を解決する方法が分かりません。何度も何度も、治子から出てゆこうと試みましたが、ダメでした。私が覚醒している間は、今後もいろいろと試そうと考えているものの、これだというやり方が思い浮かびません。




 日記を見てからというもの、治子を演じるのにとても苦心させられています。いつもの治子になり切ろうとしても、どこか元気がなかったり。暗く沈んでしまっていたり。心があらぬ方へ向いていたり。かといって、いまの治子の状況を鑑みるに、あまり元気に振舞い過ぎても不自然かもしれないので、却ってちょうどいいのかな、とか思ってみたり。




 ねえ、私はどうすればいい?


 とりあえず、特に指示がなければ、私が表にいるときは治子のままで過ごそうかと思っています。


 それが厭であれば、おっしゃってください。そのときは私の口から、周りのみんなに私の素性を告白するつもりです。


 昨日の日記の質問のように、こちらの日記にもどうかお返事ください。


 ↑


 質問文のあとに私は名前を書いた。

 

 もう一度聞きます。


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