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私じゃない⑤

 治子は電車に乗って、Qにある心療内科クリニックを訪れた。そんなに待つことなく、医師の診察を受け、記憶喪失の症状を話し、自ら多重人格の可能性についても言及した。彼女の話を受けて医師は、彼女の生活やふだん感じているストレス、また過去のトラウマなどについて尋ねたが、彼女は記憶障害による不便以外は特に訴えなかった。以前から発症していた過去視や幽霊が見えることなどについては、生活に支障を来すほどの問題ではなかったので話していない。


 初診では、医師は彼女の記憶障害を健忘症だろうと診察した。多重人格といっても周りの人はまったく違和感を抱いていないようだし、ただ、記憶の問題だろうと。それでも精神的な病状に変わりはないというので、医師は彼女に次回の受診を要請した。次回からカウンセリングを行ない、症状の回復を図っていこうというのだ。


 家族に自分の症状を打ち明けなさいと医師は言った。周囲の協力、周囲との連携が症状の進行を遅らせることにつながるのです、と。


 だからその日、彼女は自分の抱える症状について家族に打ち明けた。


 両親と姉は治子の告白に驚いたが、みんなが彼女のことを心配し、協力的になった。彼女が失った記憶を補おうとして、ふだんなら話題にも上らないような、家の中での出来事についても居間で話すようになった。記憶に問題のないときの治子にとって、その家族の会話は自分が知っていることばかりだったし、なんの発展もない話だったので、とても退屈なものだったが、家族があえて彼女に気を遣わせることなく彼女の記憶を補完するために、進んで退屈な会話をしているのだと思うと、それがまた堪らなくなるのだった。


 そんなある日の日記に、以下のような記述があり、彼女は死ぬほど驚いた。




 11月18日(金)


 ごめんなさい。


 分かる?


 ごめんなさい。





 彼女にはこれを書いた記憶がなかった。

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