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私じゃない③

 自分の患っている症状について、日記を付けながら考察を続ける治子だったが、真相は症状の進行に従って徐々に輪郭を現わしてくる。真相に近づいたからといって解決に繋がるとはかぎらず、彼女の場合、知ってしまったことでさらに苦しむことになった。


 それは久しぶりに叔母一家が住む市営住宅を訪れた日のこと。


 その日は学校が休みで、12歳の娘はピアノの発表会があるため叔母と外出、叔父は仕事で家を空けており、9歳の娘がたった一人でお留守番という状況になったため、叔母が治子の母に相談して、治子が9歳の娘と一緒に過ごすことになったわけ。


 夕方まではT小学校のグラウンドで9歳の娘の自転車の練習に付き合ったり、自前のバスケットボールで遊んだりした。


 日が暮れてきたところで、住宅に戻った。


 叔父はまだ当分戻って来ないし、叔母の帰宅も午後8時前には……としか聞いていない。


 9歳の娘は治子にゲームをしようと言った。久しぶりに治子と遊べるのが楽しいという感じを露わにしている娘の提案を治子も無碍にはできず、ではなんのゲームをしようかというので、そんな話をしながら部屋に入ったときのことだった。


 6歳のころ、伊藤重信から逃げる目的でこの部屋に泊まったときの情景が治子の脳裏に浮かんだ。




 11月6日(土)


 伊藤重信を殺したのは私だった。


 伊藤重信

 重ちー

 大正14年の土砂災害の被災者

 6歳


 わけが分からない


 今日見えたのはいつもと違う感じの見え方だった。

 私の知らない出来事のはずなのに、なんだか、ああ、ここでこんなことがあったなぁ……って、まるで当時のことを思い出す感じで? 懐かしむ感じ? で頭に思い浮かんだんだ。


 私の首を絞める重ちーの手の感触は知っていた。暗闇の中で、機能している感覚の最たるものが触角だったからかな。目は見えていないはずだった。というより、あのときは叔母に起こされるまで私は気を失っていたはずだ。


 でも、よくよく思い出してみると、叔母に起こされたとき、私は横になっていただろうか? 立っていたじゃないか! なんで? あいつ、立ったまま気を失ってやがる……みたいな?


 それに、あの暗闇の中で、重ちーの首をがっしりと掴んでいた感触も、重ちーの苦しみに歪んだ顔も覚えている。なぜ暗闇の中で顔が見えた!?


 これまでの過去視とは明らかに違う。


 私の知らない、私の体験を見せられた?


 いままで私とは無関係の出来事だったはずなのに、いまは、叔母の家で私が重ちーを殺す幻影を見てからは、私が実際にそれをやったのだと考えた方が腑に落ちる。まるでそれ以外の可能性がないみたいに。あれは私だ。私がやったんだ。私が重ちーを殺した。


 相手が幽霊でよかったじゃん! 不幸中の幸い! 無罪! 無実! 完全犯罪成立! ってオイ! だから犯罪じゃないって! なんで幽霊に触れた!? オレの右腕に眠る力が解放された!? 目は!? 目はもう解放されてた系? 目の次は右腕で、その次は左腕? その次は足で、その次は、って解放されてって最後に頭が解放されてドカ~ン!! って……意味が分からない。


 ●重ちーの殺害について


 厭な記憶を忘れることで精神的なダメージから逃れるってアレかな? そのときに重ちー殺害の責任を負った別人格が私の中に無意識に形成されてしまって、いまになってその別人格が現われるようになったとか?


 そう考えると、最近の物忘れ、記憶喪失にも説明が付くように思われる。ただ、記憶のない間の私の振舞い、言動に特に不自然な点はなかったと友達も言ってたし……。別人格って名前とかも自分で付けてたりするものだと思ってたけど。


 それに、別人格がいるのだと想定した場合も、ではなぜ過去の風景まで見えてしまうのか、という点については説明ができない。


 過去の風景が見えてしまうことと、別人格が存在していることを切り離して考えるべき?


 ★メモ

 現場にまだ手掛かりが残っているかもしれない。明日、また叔母のとこに行ってみる!


 ※頭が変になりそう。もうなってる? 


 2567円也

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