私じゃない①
平成17年10月、Q市立T中学校2年生になっていた治子は小学校卒業以来、まったく書く気にもならなかった日記を付け始めていた。横書きの大学ノートに綴られたその日記は、こう始まる。
10月10日(月)晴れ
朋子と恵美の2人と遊ぶ約束をすっぽかしてしまったらしい。
らしい……というのは私が約束したことを知らなかったからなのだが、2人が言うには絶対約束したっていうことで、しかも約束したのは昨日、部活が終わって帰るときだって。なお、約束の内容は3人でQ市街に出てCDを買う、というもの。
さすがの私も昨日の約束を忘れるほど馬鹿じゃないし、忙しくもない。
昨日の帰りのことを思い出してみた。
部活が終わって、体育館を出て、みんなと別れて、確かに朋子と恵美は途中まで帰り道が同じだから、一緒に体育館を出たのは覚えてるんだけど、そこから先が思い出せない。
どうやって家に帰ったんだろう。
●1日前の帰り道の記憶について
覚えてなくても気にならない。毎日通る道を大体同じ時間帯に歩いてるだけだから、昨日も一昨日も同じで当たり前。一緒に帰る友達が違ってたり、話したりする内容に違いがあるかもしれないけど、特別どこかに立ち寄ったり、長話に興じなければ、歩きながら話すことなんてたかが知れてるから、しっかりと思い出せなくてもそれがふつう、だと思っていたんだけど、約束さえ忘れてしまうなんて重症だ。
●記憶障害の可能性について
若年性痴呆症とか? あまり当事者として考えたくない病気だが、これから注意深くなった方がよさそうだ。ときどき、話が食い違ったりしてることがある。誰かと話していて、こないだ話したじゃん、とか、あの話だけどさ、とか言われて、そんな話したっけ? と思わされることがある。
★メモ
朋子と恵美は怒ったまま。
私が約束を知らなかったと言ったのが、どうやら2人には私がとぼけてるように映ったようだ。もちろん電話口で謝ったけど、明日、また謝る!
※今日は特に問題なし