テスト
気が付けばT小学校前にあるバスロータリーに立っていた。
ロータリーといっても、バス停1つ電話ボックス1つにバスが転回するスペースがあるだけの寂しい場所だった。ロータリーの背後にはいくつかの民家がありその先に茶色い山が聳え、前には小学校の花壇とプールその奥に堤防と海が見える。ロータリー中央に聳える銀杏の大木が木枯らしに吹かれ、枝葉を揺らす。銀杏と並ぶように立つ時計盤の針は8時12分を指していた。
T中学校の学生服を着ているから登校前だということは分かったけれど、なぜここにいるのかが不思議だった。私の家からだと中学校の方がこの場所よりも近い。中学校を通り過ぎて、わざわざここまで来たってこと?
走ればギリギリ遅刻せずに済むかもしれない。
カサカサと足元の枯れ葉がアスファルトの上を滑ってゆく。季節は冬、12月半ば。
学生服の上から羽織った学校指定の紺色のジャージの袖を伸ばし、手首をクイッと丸めて袖口に手を引っ込めた。
寒いよぉ。
こういう状況は何度も体験してきたから驚くことはなかったけれど、まず状況把握をしなければならないという点だけはいつも変わらない。
いまの私は登校途中で、遅刻しそうでっていうか遅刻確定で、T小学校前のバス停にいる。
いつもと同じく状況把握のために費やす時間。ただ今回はなんの確信もないのに厭な予感がした。
治子がいなくなってしまうんじゃないか?
胸の内にポッカリ穴が空いてしまったように感じるのは、なにもこのロータリーの寂しげな雰囲気や乾いた木枯らしのせいばかりじゃない。私のなにかが彼女はいなくなるんだと告げていた。彼女は黙って私の前から去ってゆくつもりなんだ。私が彼女にした酷いことに対して、許しも罰も与えず、なんの回答も寄越さないまま!
トボトボと歩いて中学校の校門の前に辿り着いたときにはすでに朝礼が行なわれていたから、朝礼が終わって生徒たちがぞろぞろと靴箱に集まってきたところで、みんなの中に紛れ込んだ。私が遅刻したことを同じクラスのみんなは知っていたけれど、先生にバレることはなかった。とはいえ、遅刻が露見しようとしまいといまの私にはどうでもよかった。このまま治子にいなくなられてしまって、自分だけが平然と生きてゆくつもりはなかった。