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白亜の城で働くことになるとは夢にも思わず、外からでは見ることの出来ない皇宮内を観察できるのは単純に嬉しかった。
一体どれだけの費用と人材によって築かれたのだろうか、と考え込んでしまうくらいの雄渾な建物。中庭を横切る渡り廊下の天井画を眺めるだけで一日が終わってしまいそうな、緻密に描きこまれたそれ。装飾一つとっても家が一つ買えるだけの貨幣の価値はありそうだ。数え切れないほどの客間にある白木の調度品には上等の漆が塗られ、朝露のような光沢が室内に彩りを添えている。女官になったからにはそれを毎日丁寧に磨かねばならない。触れるだけで壊れてしまいそうな繊細さにフィリアは冷や汗が出た。
埃ひとつ落ちていない柔らかな絨毯、天井から吊るされた水晶のシャンデリア。大広間にあるシャンデリアなどは落ちてきたら、一体何十人の人が死んでしまうんだろうと要らない心配までしてしまう。皇宮内には中庭が四つあるそうなのだが、そのどれもが草原みたいに見渡すことができるほど広い。庭師によって季節とりどりの花々が咲き乱れ、風によってもたらされる芳香が忙しなく働く皇宮の人間を癒すのだという。
ここでも大神殿と同じように彫像だけでなく、天井画にも龍の姿は多く見られた。思わず、それにフィリアは拝んでしまう。エルカイル教のシスターというより、今は何でもいいから助けが欲しかったのだ。
「……どうしよう」
きょろきょろと辺りを見渡しても、誰もいない。両手で荷物を抱えたまま、フィリアは大きな溜息を吐いた。
やっぱりやってしまうとは思っていた。気をつけよう、気をつけようと思っていても、こればかりはなかなか直らない。直し方がわからないから、どうしようもない。
自分の方向音痴だけは。
「……ここは何処ですか……」
女官長のマライアから一通り皇宮内の案内を受けたあとに、すぐに仕事することになった。一番最初は厨房での皿運び、そのあと客間の掃除をして、今は荷物をある部屋に届ける最中だったのだが。
案の定、迷ってしまった。皇宮内はただでさえ広い上に入り組んでいて、迷路のようだ。同じような構造をしているのですぐにどこで曲がったのかわからなくなってしまう。フィリアは途方に暮れてしまった。
けれど立ち止まっていても仕方ないのでとぼとぼと歩く。四つある中庭の一つに出て、差し込む太陽の光に少しだけ安堵を覚えた。ふと視線を渡り廊下に移すと誰かが歩いていたので、慌ててそれを追う。こうなったら、誰かに聞くしかないのだ。あとでマライアに怒られそうだったが、荷物を届けられないよりはましだと思った。
「あ、あの! すみません!」
フィリアの声に少し振り向いたが、中年の男性らしきその男は横目で見遣っただけですぐに視線を戻して歩を進めてしまった。
「え……っと、あの、道をお聞きしたいんですけど……」
フィリアは面食らい、だがすぐに無視して過ぎ去ろうとする男を慌てて追いかける。焦っていた為に、男の目が忌々しげに細められたことに気付くことができなかった。
「……お前の名は」
男は立ち止まると、目線だけこちらに寄越してそう低く呟いた。
「え……、フィ、フィリアと申します」
「下は」
「? ……フィリア・セーフェヴェアです」
セーフェヴェアという名は孤児である自分にハデスが与えてくれた名だ。本名を尋ねてくる男の意図が掴めず、フィリアはただただ首を傾げた。そして、最初に自分の名を名乗っていなかったことに気づく。男のきちんとした服装からして皇宮に勤める文官なのだろう。そして皇宮の文官ということは皇族、あるいは貴族だということだ。古いしきたりや慣習に囚われた世界の中で育つ彼らはことさら、形式ばった作法や礼儀を重視する。だから、名乗り忘れたフィリアの無礼について諌められるのかと思っていた。
けれど、そうではなかった。男はフィリアの返答を聞いた途端、いよいよ不愉快そうに顔を歪めて。
「女官の、しかも平民風情が軽軽しく私に話し掛けるな!!」
「……っ!」
荒々しい恫喝に、びくりと肩が大きく揺れた。
貴族はミドルネームが与えられるが平民にはそれがない。男はただ、フィリアが貴族か平民かを知りたかったようだ。その為に名前を聞かれたとわかった途端、フィリアは衝撃を受けた。
男尊女卑の風潮が強いこの時代では殆どが、女性を男性より低い存在価値として蔑視するか、それとも女性は完全なる庇護対象としてフェミニストになるかのどちらかで。前者であるその男は平民出身の女官に話し掛けられたことに酷く自尊心を傷付けられたようだった。
「も、申し訳ありません!」
今までの己の認識の甘さと浅慮な行動に気付いてさっと青ざめる。フィリアはただメイリンに迷惑をかけてしまうことになるのではないか、とそのことをまず心配した。頭を下げた少女に舌打ちだけを残して男は足早に去っていった。
不機嫌さを表した足音が遠くなって聞こえなくなった頃、フィリアは頭を上げた。必要以上に詰られることがなくてほうと息を吐いた。けれど表情は、暗い。
何ともいえない寂寥感がフィリアを襲う。同時に、早く家に帰りたいと強く思った。けれど、それはハデス司祭のいる家でなければ駄目で。―――彼はまだ、行方がわからない。
渡り廊下で突っ立ったまま、ぎゅっと荷物を握る手に力を込めた。誰も通らない。通っても、フィリアをそこらへんに落ちている小石のように無視するここの人間に孤独感を煽られて、目の奥がじんと痛くなった。
お城に入るまでは絵に描いたような夢の世界だと思い込んでいた。けれどやはり、白亜の城は遠くから眺めるのが一番幸せなことかもしれない。華やかな夢の世界の裏側を垣間見てしまったような気がして、フィリアは憂鬱な気分になった。
メイリンはこんな世界でこれからを過ごしていくのだろうか。彼女は強く逞しい。けれど、果たして幸せになれるのだろうか。余計なお世話だとは思うが、考えずにはいられなかった。
このままだとここから一生動けなくなりそうで、硬直してしまった足を叱咤してなんとか歩を進める。先程の男の行ってしまった方向へはとても行く気になれなくて、渡り廊下から出て中庭を横切った。渇いた心が癒しを求めていたのか、吸い寄せられるように風光明媚な庭の中へ足を踏み入れる。けれどその美しい景色に目を向けることなく、フィリアはただぼんやりと歩いていた。先刻よりずっと重くなった足取りに気をとられて、本格的に迷子になってしまったことに気付くのはもう少しあとのことになる。
もしかしたら、皇宮の中で野宿することになるかもしれない……。
冗談のようで、冗談でなくなりつつあるその台詞に背筋に冷や汗が伝う。広すぎる中庭を横切るのは自殺行為だと理解したが、時既に遅しであった。いくらなんでも庭で寝泊りは勘弁したい。せめて屋根があるところで、と考えながら歩いていると、溜息が出た。
何が悲しくて、皇宮の中で野宿の心配をしなくてはならないのか。
漸く建物に辿り着いて、ほっと胸を撫で下ろしたのだが、結局のところ状況は変わっていない。相変わらず豪奢で彩られた建物はここがどこなのかちっとも悟らせてはくれなかった。
どうしよう……。
ちらほら、と人影は見かける。けれど、その誰もが忙しそうに足早に通り過ぎる上、先程のこともあって声をかけることは躊躇われた。とりあえず歩けるだけ歩こう、と思って建物の廊下を歩く。少し内装が変わったような気がする。まず床が柔らかい絨毯から、磨きぬかれた石の床になっていた。幾何学模様の描かれた地面を見ながら歩を進めてると、低い男の声が耳に届いた。
「ここで何をしている」
「――っ! きゃ、ぁあっ!?」
びたん、と厳かな雰囲気に似つかわしくない音が廊下に響き渡った。突然かけられた声に動揺して、フィリアは思いっきり転んでしまったのだ。抱えていた荷物がばらばらに床に散らばる。したたかに打った額の痛みに目眩みしつつ、フィリアは最悪な状況にはっと身を強張らせた。
とんでもない醜態だ。また、怒られてしまう……。
靴底が鳴らす音が近付いてくる。先程の中年の男の忌々しげな表情が脳裏をよぎって、うつ伏せのまま顔を上げることが出来なかった。投げつけられるであろう罵倒の言葉に握り拳を作ってぎゅっと目を瞑り、身構える。
「……大丈夫か」
けれど、降ってきたのは予想していた苛立ちを含んだ声ではなかった。僅かに躊躇ったような声がかけられ、フィリアは両の二の腕を掴まれ引き起こされる。
驚いて目を開けると目の前には、黒衣に身を包んだ男性が片膝をついてこちらを覗き込んでいた。
「え……っ……」
目に飛び込んできたのは微かに青みを帯びた銀髪、それと同じ色をした長い睫毛の奥には蒼天の双眸。思わず見入ってしまうほど、端正な顔立ちをした男だった。大輪の薔薇のような絢爛さを持つレヴァインと違って氷の刃のような冷たい印象を受けたが、声色は柔らかかった。てっきり怒られると思っていたフィリアは二重に驚愕した。
「額を強く打ったな」
額の辺りにひりひりとした痛みを感じていたが、男の視線が集中してさらに熱くなったように感じて。慌てて「だ、大丈夫です」と手を振る。
思考が鈍って、上手く状況が飲み込めない。
「あ、あの……怒らないのですか……?」
言ってから、しまったと思った。これではなんだか普段から怒られるようなことばかりしているように聞こえるではないか。案の定、男は端正な顔に怪訝そうな色を滲ませて、「……怒る?」と口にした。
「な、何でもないんです。その、ありがとうございました」
フィリアはとにかく散らばった荷物を拾ってしまおうと、わたわたと視線を地面に散らした。自分でも挙動不審だと思ったが冷静さを取り戻すにはまだまだ時間が必要だったのだ。しかし、男の方が早く荷物に手を伸ばして拾い、「これを届けるのか」と、聞いてくる。
フィリアは躊躇ったが、こくりと頷いた。続いて両手を差し出して礼を言おうとしたが、一向に荷物を渡してくれる様子はない。
首を傾げながら視線を上げて、そうして青の双眸とかち合った瞬間、
「あ、わっ……!」
腕を掴んで強く引っ張り上げられて、フィリアは軽い悲鳴を上げた。強引に立ち上がらせたせいか、よろめく少女の体勢を、男の片手が支えている。二の腕に感じる熱にうろたえる暇もなく、男はフィリアを急かすように言葉を紡いだ。
「どこだ? 私が代わりに届けておこう。とにかく、お前は早くここから立ち去れ。……ここは、関係者以外立ち入り禁止区域だ」
「え……っ!?」
―――立ち入り禁止区域……?
「……ええっと、荷物は、皇宮の侍従長様のお部屋で……あ、しかし女官の仕事を他の方に押し付けるわけには……って、ここ立ち入り禁止って……ええっ!」
フィリアはどうすればいいのかわからなくて、頭を抱えた。どうやら自分は色々失敗をしでかしてしまっているらしい。
男は嘆息して、少女を宥めようとした。
「……落ち着け」
「ご、ごめんなさい……」
「別に謝らなくていい」
「はい、ごめんなさい……って、ああっ」
しかし、あまり効果は無かったらしい。
中庭の一つが帝国軍本部の庭に繋がっているらしく、フィリアはいつのまにやら皇宮から帝国軍本部へ移動してしまったようだ。それを聞いたときは、本当にびっくりした。
中庭の来た道を戻りながら、フィリアは緊張した面持ちでちらりと横を見上げる。頭一つ分以上、身長が高い男はこちらの歩調に合わせて歩いてくれていた。
微風に揺れる銀色の毛先が夕闇に染まって、幻想的な色合いになる。暫し、彼の横顔に見入ってしまい、その視線に気付いた男が横目でこちらを見下ろした。なんだ、と無言で促され。フィリアは自分が見入っていたことに気付かれて、頬が熱くなって慌てて前を向いた。今が夕暮れでよかったと思いながら。
「あの、ごめんなさい……」
「……先程も言ったが、謝る必要はない」
「はい……でも」
迷子になってしまったことを容易く察した男は、フィリアを皇宮内まで送ってくれることになった。口頭で構わない、と言ったのだが、絶対迷うだろうと断定されてしまって、情けないことに二の句が継げなかった。通常なら立ち入り禁止区域に入ったら咎められるのは当たり前だというのに、そのことについては何も言われなかった。見るからに騎士とわかる風貌で、しかも立ち入り禁止区域に入れるということはそれなりに上の立場にいる人物なのだろう。仕事は大丈夫なのだろうか。彼の邪魔をしてしまったのかと思うと、申し訳なかった。
こっそりとした溜息が、無意識に漏れる。
今日一日だけで多くの人に迷惑をかけてしまった。マライアも仕事の遅さに苛立っていそうで会うのが怖い。果たしてこんな状態で、上手くやっていけるだろうか。不安で、フィリアは歩きながらしょぼんと肩を落とした。そんな少女を男は黙って見下ろしていたが。
「……仕事は、辛いか」
ぽつりとした呟きに驚いて、フィリアは顔を上げた。青の双眸が真っ直ぐにこちらを射抜いていて、知らず鼓動が早くなる。それを振り払うように、慌てて首を横に振った。
「いえっ、……大丈夫です、はい」
落ち込んでいるのがばれてしまって恥ずかしくなった少女は誤魔化すように、無理やり笑顔を作る。けれど、少女は取り繕うということが下手なせいだろうか、男は微かに目を細めた。
「……あまり、思い詰めない方がいい。誰しも最初は躓くものだ」
「え……?」
「ゆっくりと、慣れていけばいい。そもそも周囲に迷惑をかけないで生きることなど不可能だ。開き直って前を向け。下ばかり向いても、地面しか見えない」
まるで己の心の内を見透かしたような物言いに、どきりとした。そんなに自分はバレバレなのだろうか、と何度も目を瞬かせたが、彼の無表情からは何も感じ取れなかった。じっと隣の男を見詰めて暫くしてから、はたと自分を励ましてくれているということに気付く。
ありがとうございます、と感謝の気持ちを伝えようとしたフィリアだったが、前方からぱたぱたと誰かが駆けてくる音に遮られてしまった。見ると、それは見知った姿。
「フィリア! どこへ行っていたのです!」
「マ、マライア様!」
「荷物を届けに行ったきり、一体今までどこで何をしていたのですか!!」
予想通り、マライアは酷くご立腹の様子だった。それもそうだろう。今日、新しく来たばかりの女官が仕事中に姿を消してしまったのだから。もしかしたら逃げてしまったと思われたかもしれない。そうなったらきっと彼女が叱られてしまうのだろう。纏めて後ろに括った髪が乱れていて、今の今までフィリアを探していたことがわかる。神経質なほどに真面目なマライアの焦燥っぷりを見て、フィリアは頭を下げて謝った。
「ごめんなさい! あの、実は」
長々と説教を食らう覚悟で正直に迷子になってしまったことを言おうとした時、ふっと横から手で遮られた。
「そう責めないでやってくれ。彼女が遅れてしまったのは、先刻通りかかった際に私が用事を頼んでしまったせいだ」
「……え……?」
いよいよフィリアは混乱してしまった。何を言っているのだろう。遅れたのは自分がさんざん迷った挙句のことなのに。しかし、それよりもマライアの動揺の方が大きかった。目を見開いたまま、身を硬直させていた。
彼女は最初、フィリアしか目に入っていず、厳しく叱り付けることしか頭になかったせいで、隣に男がいることには気付けなかった。否、視界から消してしまったのは、その男がまさかこんなところにいる筈のない存在で、俄かには信じることなど出来なかったからだ。
「あ……貴方は! こ、これはご無礼を……。見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
さっと顔を青ざめさせて、腰を折る。
フィリアは打って変わった空気におろおろとするしかできなかった。男は苦笑して、マライアに顔を上げるように言う。
「……失礼ですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
顔を上げたマライアはまずそう訊いた。あまりにも突飛な組み合わせに、事情を聞かずにはいられなかった。ヒユウは頷いて、当然であろう彼女の疑問に答える。
「こちらの人手が足りなくてな。偶々通りかかった彼女に書類を届けて貰っただけだ。そのせいで女官の仕事を果たせなかった詫びを、今している」
「……っ、え……っ!?」
次々と予期できない展開に襲われたフィリアは何とか言葉を紡ごうとするが、男の一瞥によって制されてしまう。口を挟むことを許されず、フィリアは何が何だかわからなくてあわあわと混乱しながら、二人を交互に見ることしかできなかった。
「そうですか、わかりました。ですがこれ以上貴方様のお手を煩わせることは出来ません。あとは私にお任せ下さいませ」
「ああ。女官長殿こそ、顔色が優れないようだ。貴女が仕事熱心なのは承知しているが、無理のしすぎは良くない。偶にはゆっくりと休まれるがいいだろう」
「まあ……お気遣い、ありがとうございます」
端正な容貌を持つ男の、気遣う台詞に気を良くしたのか、いつもしかめっ面のマライアが嬉しそうに頬に手を当てた。なんだか背景に花が舞っているような気がする。
二人のやりとりの間、何も言葉を挟めなかったフィリアはただ見ていることしかできなくて。そして男の姿が見えなくなってしまった頃、彼にちゃんとした礼を言ってないことと名前すら尋ねてなかったことに気付いた。
助けてもらった、というのに。
本当に自分は何て無礼極まりない人間なのだろう。一言の礼も言うことすら出来なかった。もしかしたら彼は、仕事を済ませられなくて叱られるであろうことも予期してここまで送ってくれたのだろうか。だとしたら、いくら感謝してもしきれない。気落ちすることがあった直後だったせいで余計に凄いことのように思えた。
とりあえず、マライアなら名前を知っているだろうと勇気を出して訊いてみたのだが。
「あの、すみません。あの方のお名前は……」
「……もしかして、知らないで接しておられたのですか?」
心底、呆れたような視線を投げられてフィリアは首を竦めた。
そうは言っても、お礼を言うことすら出来ないほど慌てふためいていて、名前を聞く余裕すらなかったのだ。
「ヒユウ・イル・リューシア様です。あなたも名前くらいは聞いたことがありましょう。この帝国を支えている大切なお方ですから、くれぐれも粗相なきよう。まあこのような機会は今後ないでしょうが」
「はっ、はい」
息が詰まった。まさか、その名がここで出てくるとは思わなかった。フィリアは戸惑う意識の中、その名をしっかりと刻み付ける。
それと同時に夜会でのメイリンの声が蘇った。
――― ヒユウ・イル・リューシア。
では、あの人が。帝国軍の要である“黒印魔法騎士団”を率いる将軍なのか。
「……まあ、あなたも初日ですからね。これ以上要求するのは酷というものでしょう。今日はもう休んでも構いませんよ」
「あ、ありがとうございます」
てっきり説教を聴かされるかと思ったフィリアはあっけなく解放されて、しかもマライアの今までに聞いたことがないほどの機嫌の良い声に吃驚したが、顔には出さずに頭を下げる。これも先程のやりとりのおかげだろう。
絶対、あの人にちゃんとお礼を言わなくちゃ……。
沈みかけた夕陽に向かって、フィリアはそう決意した。




