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糖分はいりません

作者: なる子



 勢いとノリだけで突っ走ったハナシでいろいろ突っ込みどころ満載と思われますが多めに見てやって下さい~(>人<)








 (きよ)姫はこの国の最後にして唯一人の王族である







 王であった父が隣国との戦で命を落とし、母もその後を追うように亡くなった

 他に兄弟もおらず、残されたのは成人して間もない王女が一人

 国の誇る武将たちも戦で失われ、文臣たちも国の衰退と共に一人、また一人と中枢から去って行った




 孤独な王女の傍に残ったのは冷たい玉座


 そして一人の老いた女






 空虚な王の間の中心に座り、清姫はこの国の滅びる音を聴く






 ああ、もうすぐだ


 とうとうこのときが来た









 荒々しい具足の立てる音が近づいて来るのを感じて、清姫は口の端をわずかに吊り上げた


 大きな音を立てて勢い良く王の間の扉が開く






 目の先に真っ黒な鎧に身を包んだ堂々たる偉丈夫が現れる





 数段高い位置にある玉座から、清姫は男を見下ろした

 黒鎧の男も清姫を見つめ返し、ほんの僅か互いの視線が交差する




 美しい男だ、と清姫は思った




 女のような美貌とは違う、彫りの深い整った顔立ち

 切れ長の目は炎のような色をしている

 そしてその姿は自然と他者を跪かせる風格に満ちていた


 男の紅い瞳が射るように玉座の主を目指し、やがてゆっくりと前に踏み出した


 男は階を上り、目前に立った








 ああ、やっと、やっとだ


 会ったことはなかったが、この男が父を殺し、この国を滅ぼした隣国の王であると一目見てわかった

 何故一国の王ともあろう男が供の一人も連れずたった一人でこの場に現れたのかはわからなかったが、 清姫にはもはやどうでもいいことだった


 この男こそが、自分が待ち望んでいた人間












 清姫



 隣国の王が自分の名を呼んだ


 はい、と清姫が応じる。



 すると隣国の王は少し戸惑ったような、わずかに照れたような顔をした

 その様子に清姫は心の中で首を傾げる


 名を呼ばれたから返事をしただけなのに、何故そんな顔をするのか


 せっかく今まで待っていたというのに

 

 もしやまたしても期待外れだったか


 否、まだわからない



 名前を呼んだきり黙ったままだった目の前の男が顔を上げる

 




 そして言った


 我の妻になってくれぬか



 


 ――ああ、やはり





 何故ですか、と清姫は訊いた


 求婚の言葉に対し、是否のどちらでもない、何故、と問う意味が判らず王は憮然とした表情になる


 その反応に内心呆れつつも清姫は言葉を加えて再度問う


 亡国の王族を娶るという、何の利益も生み出さない婚姻を結ぼうとする理由は何ですか


 王は答える


 そなたを一目見て惹かれてしまった、必ず幸せにするからずっとそばにいて欲しい



 そして熱のこもった愛しい者を見る眼差しを清姫に向けた


 





――はっ…



 鼻を鳴らしたような音がした


 それを目の前の少女――たった今自分が求婚した相手が発したものであると王が気付くまで少々掛かった


 



 清姫はわらっていた

 

 一方で、王を見るその瞳はどこまでも冷ややかだった


 




 そして






不正解(アウト)






 はっきりと、一言


 そう呟いたのち、この場にいたもう一人の人間に目を向けた

 王が現れる前から清姫の側に気配も無く静かに佇んでいた老いた女



「やりなおし」



 清姫の言葉に






「またかよ」





 


 老婆とは似ても似つかぬ低く艶のあるバリトンで


 深く深く、ため息を吐いた










         △▼△











「……お前さ、もう諦めたら?」

 呆れたように諭してくる男に、清香は凭れていた可動式のソファから起き上がるなり「だって!」と反駁する。

「いくらなんでもアレはなくない!? 主人公の父親殺して故国を滅ぼしておいて「一目惚れしました結婚して下さい」だよ!? 何今更純愛ルート進もうとしてんの? しかも必ず幸せにするとかふざけてんの? ありえない!」

 ないわー、とぶつぶつ言っている清香に、同意するでもなく冷めた視線を向ける男。

 整った顔立ちだけに漂う冷ややかさも際立っている。

「それを言うならお前の理想とやらもねぇよ。……何だよ『目指せ生涯飼い殺し! 生殺し上等★ドSエンド』ってのは」

「え? いやぁ、だってあれだけの美形だもん。近過ぎないけど突き放され過ぎない絶妙な距離で冷たく嬲られ弄ばれるとかきゅんとクる…「のはお前含むごく一部の被虐属性の奴らだけだからな。……ちなみにこの装置はR15だ。たとえそういう方向に流れが向かいかけても過激なものには強制的にセーブがかかるようになっている。せいぜいキスとお触りどまりだな」

「えー」というブーイングは無視だ。

 せいぜい地団駄踏んで悔しがればいい。


「だからアンタはいつまで経っても彼女出来ないのよ!」


 大きなお世話だ。






 



 普段は会社員をしている清香が高校時代からの友人で、現在は工学系の大学で准教授をしている豊須に、とあるマシンのテストに協力してくれないか、と頼まれたのは今から一ヶ月ほど前のことである。

「マシンって何の?」という問いには「まあ……ゲームのテストプレイみたいなモンだ」とのお答え。

 そう難しく考えずに気楽に来い、という豊須の誘いに軽く乗ってしまったのが事の始まり。

 休日を利用して友人の勤務する大学に来てみれば、一介の私立大学の施設にしては物々しいようにも感じられる厳重なセキュリティ。

 それを抜けていった先の研究室で目にしたのは、SF映画で見るような沢山のモニターとコードでつながったリクライニングソファらしきもの。

 その時点で清香は回れ右して逃げたくなったのだが、カネに物を言わせたらしい忌々しいセキュリティに阻まれ失敗。

「イヤッ! 何か怖い! 何アレ? 何の実験台!?」

「やー。だからゲームみたいな? モンだって」

「その、みたいな? の詳細をキチンと説明しやがれ」

 専門的な用語はまったく理解出来なかったので、かいつまんで話を聞いたところによれば。

 このSFもどきの設備はバーチャル世界を体験出来る装置らしい。

 本来の用途としては宇宙空間の疑似体験やら医療関連やらに力を発揮するらしいシロモノなのだが、何故か現在この機械にはRPGやら恋愛物などのいわゆるシミュレーションゲームの設定が入力されており、使用者はそのゲームの世界に実際に入り込んだようにプレイ出来るようになっているらしい。何でだ。

 普通のゲームとは違うのは、登場人物の設定と、大まかな世界観の設定以外が特になされていない、という点だ。

 つまり、シナリオがない。

 それによりゲーム内では何が起こるかわからない、何が起こってもおかしくない、という状況になる。

 極端な例を挙げれば、レベル1の冒険者がいきなりラスボスに出くわしてしまう、ということも普通にありえる、ということ。

 むちゃくちゃである。

 先にテストプレイをした学生たちの中には開始五分でレベル50の中ボスに出くわして瞬殺された奴もいたらしい。

 お前らはどこの子供だ! いや子供以下か!


「RPGは要改良という結論が出た」

 

 ……うん、とりあえずゲームの製作会社やシナリオライターさんに全力で謝れ。


 世紀の大発見をしたかのような口調で物々しくのたまう研究馬鹿に、かわいそうな子を見るような憐れみの眼差しを向けたのは、言うまでもない。









「で、お前にやってもらいたいのはいわゆる女性向けのシミュレーションもののテストなんだが」

「……それって恋愛?」

 基本そうだがなにしろシナリオがない。とりあえずインして後は恋愛するなり逆ハーするなりライバルキャラ(もどき)と友情を築くなり攻略キャラを従えて世界征服するなり好きにするがいい、という開発責任者のぞんざいなお言葉に唖然とする。

 それ恋愛ゲームの意味あんの!?

 一体それのどこが楽しいんだ? 主人公至上主義・ご都合主義・テンプレシナリオ上等が恋愛シミュレーションの醍醐味だろう!?

 ありえない。そんなの絶対ツボらない。そんなモノが実際に発売されたら一部の好奇心旺盛な人種を除いて大部分はクソゲーと判断するに違いない。何なんだその適当さ加減は。

 とは言えまだ実験段階の代物である。これがこのまま商品化するわけではなし(というかしないだろう。話を聞いただけでもいろいろと粗がありすぎる)、まあ、文句を言うのは一度体験してからでも遅くはなかろう。

 クリアの最低条件として〝ゲーム内で人物設定のある登場キャラの誰かとなんらかの関係を築くこと〟が掲げられている。

 なんとも大雑把だが誰とも何の関わりも持たないぼっちエンドはありえないそうだ。まあそうだろう。ゲームだしな。

 一応恋愛が主軸のゲームらしいからそっちの流れに沿うようにした方がいいのだろうか。

「でも……私普通の恋愛脳してないから参考になるかわかんないよ?」

「ああ、お前Mだもんな」

 はっきり言うな!

 現実の恋愛ではそうでもないのだが、いわゆる普通の乙女ゲームなどでもS属性や腹黒属性を持つキャラばかりを攻略しようとしてしまう。読書傾向(漫画)も然り。十八禁ばっちこい。

「それはそれでかまわん。むしろ新たな特殊サンプルがとれていいだろう」

「とくしゅさんぷる……」

 その単語に、わかっちゃいたが清香は自分がこの友人に実験用のマウス扱いされていることを改めて自覚した。




「登場するキャラクターは容姿やプロフィールなんかはざっくりと設定されているが、性格に関してはほぼ白紙だからな。同じ世界観の同じ人物の登場するゲームでも流れしだいでまったく違う性格の人間になる。理想の腹黒ドSとやらが見つかるといいな」

「最後の一言があからさまに棒読みなんですケド豊須クン」










 とりあえず一度試してみることになった。これまた複数のコードが繋がったゴーグルのようなものを着けさせられてちょっと不安な気持ちが戻ってくる。

「一応訊くけど実際の危険はないのよね?」

 現実面での安全性について確認をとる清香に、豊須は頷く。

「安全面は開発(こちら)側で先にちゃんとテストしてある。RPGと同じだ。たとえゲーム内で怪我しても殺されてもこっちでは何の影響もないし、バーチャル内で痛覚を感じるようなこともない」

 それに、と友人は続ける。

「俺も一緒に入るから。万が一があったとしてもリセットが出来るようにしておくから安心しろ」

「一緒に入る?」

「モニタリングも兼ねて、な。人物設定もない目立たないモブキャラとしてだ。バグか何かの問題が見つからない限りはゲームの流れには干渉出来ない立場にあるからお前はお前で思う存分やりたいようにやればいい」

「へえ……見られているのはちょっとアレだけどまあ、モニターは必要だよね」

 こうして清香はシナリオのないゲームの主人公になった。









「もういい加減諦めろよ」

「ヤダ! もう一回!」

「何度やったって同じだって」

 お前に鬼畜エンドとか無理なんだって、と肩を竦めながら言う友人を、清香は睨み付ける。

 このひと月で何度も繰り返されたやりとりだ。


「何でどいつもこいつも最後にはデレて来るの――!?」


 清香の雄叫びも豊須の研究室の恒例になりつつあった。









 最初にプレイしたのは王道の学園モノだった。

 攻略対象(仮)は生徒会メンバー+幼馴染み。ベタだ。

 清香が狙ったルートは副会長。

 物腰が柔らかく笑顔が爽やかなメガネという鉄板もいいところな彼に、清香は真っ先に腹黒臭を感じ取った。

 彼にはきっと、いや、絶対に隠された本性があるに違いない。絶対に攻略してやる! と鼻息荒く決意した。幸いにも各主要キャラの主人公に対する好感度がわかる仕様になっていた。

 清香の理想とするエンドを迎えるには好感度が上がりすぎてはまずい。しかし他の攻略キャラよりも好感度が低いとまずルートには入れないので注意が必要だった。

 ちなみにシナリオはないが多少の主人公補正なるものは存在するらしい。

 どういうことかといえば、例えば主人公がゲーム内のこの人と関わりたいと望めば、その対象と簡単に接点が持てる、ということ。ただしモブはその限りではない。

 それ以上の親密度を上げていけるかは主人公しだいだが、主人公の容姿はかなりの美少女という設定があるため、大体の人間の目を引くことが出来る。興味を引かれるかはまた別の話になるだろうが。

 何とも都合のいいシステムだ。ゲームらしいといえばらしいが。

 ほどなくして副会長のルートに入り。

 そして知った。


 副会長の正体は――ヤンデレだった。


 副会長との交際が始まると、すぐさま束縛が始まった。

 授業の休み時間ごとにメールか電話。返事がなければ直接会いにきて何故返事がないのかと責める。ちなみに休みの日は自宅まで突撃してくる。

 他の男と話そうものなら人を殺せそうなほどの威力を持った目を向けてくる。そしてまた責められる。

 

 どうして僕以外の男と仲良くするの? どうしてどうしてどうして――!


 反対に何の問題もなく二人きりでいるときはでろでろに甘やかす。

 そして早く結婚したいとか子供は女の子がいいなとかほざきつつ、ガッツリと外堀を埋めてくる。

 

 はっきり言っていいだろうか。コワいしウザい。


 ヤンデレとドSは似て非なるモノなのだ。そういう方向性の腹黒はイラナイ。


 他の攻略キャラのルートもいくつか試してみた。が、ヤンデレこそいなかったが清香の理想とするタイプには程遠かった。俺様会長も最初は悪くはなかったが、途中からツンデレワンコっぽくなったから何か違うと感じるようになった。



 世界が変われば、と他のモノも片っ端から試した。西洋風、ファンタジー、オフィス物……。

 だが、ダメだった。

 どのキャラクターも最後には純愛か溺愛かヤンデレルートに入ってしまうのだ。何故か。


 何度繰り返してもダメで、一時は開発者の胸倉掴んで「まさかデレにしか進まない仕様になってんじゃねーだろうなぁ? あぁん?」とどこぞのヤンキーばりにガンたれてやったが、研究馬鹿は怯んだふうもなく「特にそういう設定にした覚えはない」と淡々と応じた。

 嘘を吐いている様子でもなかったのでその場は引いたが。



 先ほどまでプレイしていたのは和風ファンタジーと呼ばれるらしい世界の話だ。


 ここで主人公こと清姫(笑うな)がターゲットに選んだのは数々の国を滅ぼして領土を拡大してきた大国の王。

 その苛烈な征服っぷりにさぞや冷酷非道な残虐王なのかと期待で胸を膨らませていた。

 もちろんただ待っているだけの清香ではない。

 自身は両親や周りに甘やかされて贅沢三昧。我侭甘ったれ無知の三重苦なバカ姫になりきり、裏側で国を傾けるように仕向けた。わざと隣国の王に征服させるように。そして征服されたあかつきには捕虜か王専属の奴隷にでもなり、飼い慣らさせるよう補正を利用しつつ上手く立ち回ろうとして。

 シナリオがないということは、主人公の才覚しだいで一国すらどうにでも出来るということだ。

 そのことに気付いたときは、自分で画策したくせに何だか薄ら寒いものを感じたが。


 だがしかし。実際相対した王はご覧とおりの恋に落ちると頭にお花が咲いちゃうタリラリランだった。

とんだ期待外れだ。



「結婚したら案外ツンツンするタイプだったかもしれないじゃないか」

 まあ、多少はデレるかもしれんが、と言う豊須に清香は即座に首を左右に振った。

「いーや! 私にはわかる! アレは本気になったらとことん束縛するタイプだ! ヤダヤダ清姫溺愛されちゃう!」

「……お前な」

 この一ヶ月ヤンデレだの甘々だのに迫られて鍛えられた眼力を舐めるな。









「あー私の理想のご主人様は一体どこにいるのかしらー」

「さあな」

「現実にはそうお目に掛かれるわけないってのはわかってるけどぉ。ならせめて架空の世界でくらい夢見たっていいと思わない?」

「そーだな」

「こう……ちょっと擦り寄ったら「馴れ馴れしく触れるな……下郎が」とか言って冷たくあしらってくれる美形とかいいよねぇ」

「そうかぁ」

 ひどく適当な相槌を打ちながら、豊須はまったく正反対のことを考えていた。


 付かず離れず適度に冷たく飼い慣らしてくれる美形なゴシュジンサマ……ねぇ?


 正直なところそれのどこが理想なのか豊須にはさっぱり理解不能だったが、それを言ったら最後、延々と〝理想のドSさま〟について語られそうなので自重する。

 腐れ縁もなんだかんだと続いて十余年。未だにこの点の相互理解は難しい。……というか歩み寄ったらいろいろ終わる気がする。何かが。


 その趣味こそ微妙だが、清香と豊須は馬が合う。普段の清香はさっぱりとした気性で、研究畑の人間にありがちなマイペースな豊須にとって、それは苦痛にならない種類のモノだった。

 ここ一ヶ月は別として、それまではそうちょくちょく顔を合わせていたわけではない。留学していた学生時代を除き、せいぜい一、二ヶ月に一回ほど気まぐれに飲みに行ったりするぐらいで、お互いに(と言っても主に清香の方が、だったが)交際相手がいるときはそれすらもなく、たまに近況をメールするぐらいだった。

 それでも十年以上縁が完全に切れなかったのは、お互いに気心が知れていて、それなりにこの関係を居心地の良いように感じていたからだろう。

 そんな気持ちが少しばかり変化したのはごく最近だ。多分、いい方向に。

 相変わらずその男の趣味には共感出来なかったが、自分の作った機械に振り回されて一喜一憂する清香を見ているのは面白かった。

 高校時代並みに顔を合わせ、頻繁に食事に出掛けたりしているのにそれが全く嫌じゃない。

 彼女と話すことが楽しい。

 たかが架空の世界に本気で憤慨したり落ち込んだりする。それを間近で見ているだけで喜んでいる自分がいる。もっといろいろな彼女の表情が見てみたい。

 他人と深く接するのがあまり得意ではない自分がそう思うのは珍しい。

 清香だからだ、と思う。



「清香。もう遅いしそろそろ飯食いに行かないか? ……それから、今夜はウチで飲もう」

 最後の一言に、目の前の彼女がピタリと動きを止めたのがわかった。

 それも無理はない。これまでお互いの家で飲み会などしたことなどなかったのだから。

 飲むなら外で、が暗黙の了解だった。

 その不文律をたった今豊須の側が一気に破り去ったのだ。


「……は? ……え……?」

 驚愕に彩られたその双眸を眺め、清香がこちらの意図するところを悟ったのを認めた豊須は、含みのある微笑を浮かべつつ、心の内で快哉を叫んだ。




 そろそろ本気で行かせてもらおうか。









           ☆★☆








 そして二人が研究室を出て行った後。


――以下、部屋に残された豊須研究室所属の学生による会話(豊須ゼミは男子のみ)


「イヤー! もう何アレ!? 何の羞恥プレイなのっ? 見てるこっちが恥ずかしいわっ!」

「うん、もう勝手にやってくれって感じ?」

「……この一ヶ月、豊センの清香サンを見る目がもう」

「うん、アレだよな」


 一同溜息。


「つかさー、清香サンの言う理想の付かず離れず自分をいじって振り回してくれる美形ってさー…」


 まんま豊センのことじゃね?


「みなまで言うな」

「Sではないかもしれんけど」

「イヤ、あのヒトはSだよドSだよ! レポートとか論文とかマジ厳しいし、ちょっとでも手ェ抜いたら容赦なく落とすし」

「怒っても怒鳴ったりはしないけど、冷たーい眼差しと抑揚のない口調で相手の間違いを淡々と指摘するんだよな。それがまたことごとく的確で」

「アレ怖いよなー」

「普段は感情とかあんの? って感じのロボットみたいな人だよな」

「それが清香サンが来るとちょっと口調がくだけるし、浮かべる笑顔があんまり皮肉っぽくないし」

「あのヒトも人間だったんだなー」

「ちょっと微笑ましい気もしてきた」

「イヤイヤ、相変わらず俺たちには容赦ねーから。俺らが清香サンにちょっと話かけただけでツンドラだから」

「アンドロイドのくせに嫉妬とか。まだ付き合ってもいないくせにあからさまな妨害して来るとか!」

「清香サンはこれっぽっちも気付いてなかったけどね」

「意外と鈍かったよな。まあそれも今夜までだろうけど」

「明日になったらどんな顔して出てくるかな? 豊セン」

「……でれでれ?」

「うわー見たくねぇ! 超見たくねぇ! 心中覚悟で爆ぜろと言いたくなる!」

「んー、でもさ。デレた時点で清香サンの理想からは離れちゃうわけだろ? ってことはそれほどでもないんじゃないか? 表向きは」

「必死にデレを押し隠すアンドロイドとか想像しただけでウケるんだが」

「まあね。でもちゃんと落ち着くべきところに落ち着きそうでよかったじゃないか」

「んだなー。ま、我らが指導准教授サマの今後を祈ってやるかー」

「んじゃ、豊センの恋愛成就を祈って飲みに行こうぜー」

「それお前が飲みたいだけだろ? でもさんせー」


 そして研究室の明かりが消えた。









                  終


別に続編とかは考えていないんですが、豊須という男をもうちょっと掘り下げたSSもどきならぼんやりと頭の中にあったりします。


書こうかどうしようか検討中。



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