俺の幼馴染が行動的過ぎて辛い2
「やっほーユータ。元気してるぅ?」
彼女は電話越しにテンション高く挨拶をしてきた。
「……ミサトか?」
「あたりぃ!」
俺は驚く。中学卒業以来に聞いた声だ。
「久しぶりだな。知らん番号だったから誰かと思ったぞ」
「携帯電話。やっと買えたんだよ。うち貧乏だからさ」
「そうか。それはおめでとう」
「ありがとー」
ミサトは嬉しそうだった。
うん、人が嬉しそうなのは気持ちが良いもんだ。
「それじゃあ、番号登録しておかないとな」
「うん。お願いねー。……あ、そうそう」
「ん?」
「ヒトミちゃんとは進展あったの?」
「……ああ、そのことか」
無いと言えば嘘になるけどさ。
「特別、何もないよ。スキンシップは酷いけど」
「進展無いのにスキンシップ?」
「うん。周囲の目も気にせずにね」
「そりゃぁ……なんて言うか……。えっと、凄いね?」
「すごいよ。凄い。この数か月での変貌ぶりが凄い」
「そうだね。ずっとクールキャラって感じだったのにさ」
確かに。
どんな時でも冷静沈着。
それでいて笑わない子、みたいなイメージだったもんな。
「恋は人を変えますなぁ」
ミサトはわざとらしく言う。
「まったくもって、その通りだな」
「ふふ~? ユータ君は罪な男ですなぁ~?」
「そういうの、良いから」
「照れるなよー」
「照れてねぇし!!!」
「んふふふふ~」
ミサトは特徴のある笑い方をする。中学から変わらないな。
「可愛いなぁ、ユータ君は可愛いなぁ」
「うるせぇ!」
ミサトはひたすら俺をからかってくる。エッチしたらお赤飯炊いてあげるね、とか。気が早すぎる。
「……ていうか、お前はそういう話聞いて何も思わないのかよ?」
少し意地悪してやろう。腹立たしいから。
「え?」
「俺が、そういう事になるのに!」
「………」
「……え?」
「…………」
「……あ、いや」
「…………」
やべぇ
地雷か?
思いつきで変な事言わなきゃ良かった。
「ね、ユータ君」
「は、はい?」
「……ヒトミちゃんと付き合ったら、私と会わなくなる? お話、しなくなる?」
「……いや、そういう訳では無い……かな?」
あいつがどう行動するかは分からないけども。
「……なら」
「うん」
「私は、大丈夫かな」
彼女はそう言って、しばらく沈黙した後、
「……それとも、未練でもある? 何か思っててほしい?」
小さく、優しく、尋ねた。
今度は俺が沈黙する番だ。
けれど、的確な答えを出すことは出来ない。
それはおそらく、色々な面で問題を孕むとともに、裏切りに等しい行為になる。
「そっちは?」
だからはぐらかして、さらに追撃逃れの反撃を撃つ。
「……んふふ」
それに彼女は、悲しそうな、楽しそうな笑い声で返してきた。
今、どんな表情をしているのだか。
「なんだよ。どっち?」
是か非か。
彼女は、もう、と呆れる様に。
「意地悪だねぇ。意地悪だよ」
「今更だろ?」
「うん。でも、高校行って磨きがかかったね」
「……そうか?」
「んふふふふ~。ベッドの上ではどS?」
「なんでそうなるんだよ!?」
ミサトは冗談だよーと軽く言った。いつもの調子に戻ったらしい。
「ふふ、ユータ君はそのままが一番だね。シリアスなんて似合わない似合わない。あ、大事なことだから二回言ったよん」
「ご丁寧にどうも。……所詮不真面目人間ですよっと」
「逆逆、真面目過ぎてダメなんだよ。ざっくり生きよーぜ。ざっくり」
ざっくり、ねぇ。
「それじゃーね。また何処かで会おうぜ。あと、暇が合ったら話付き合ってよね」
「はいよ。……もう寝るのか?」
「うん。明日早いからねー」
「朝練か」
「うん。インターハイ出てやるさ」
「そいつはスゲぇな。本当になったら応援行くわ」
「おー! いいね! ありがとー」
あ、じゃあ、とミサトが言う。
「その時までにさ。決着つけておいてね。それで、一緒に応援に来てよ」
「……そう、だな」
「うん。私も応援してるから。それじゃあね」
「ああ、それじゃあ……」
「お休みなさい『だーりん』」
「うっ!」
「んふふふ~。おやすみっ!」
ぶちっ。と言う音と共に電話接続が切れた。
「……あのヤロー」
次会ったら覚えてろよ。
「……はぁ」
俺は熱を持った携帯を持ったまま座っていたベッドに倒れこんだ。
「…………」
俺って奴は。
踏ん切りつかない事の方が、多いんだもんな。