第5話 証明
その日のリイナ宅での夕食はパンにスープ、旬の野菜を使ったサラダと結構普通のものだった。
「ねえ、今日は昼からどこへ行っていたの?」
リイナがこちらに視線を向けて聞いてくる。
自分を呼んでいるのかどうか分からなくて反応に少し困ってしまう。
「ん?あぁ、えっと…」
さて、どう言ったものか。
ここには勿論リイナの家族、つまりはリイナの親がいる訳だ。
いじめを受けていたことはリイナは親に知られたくないらしいが、本人はその話だとは気づいていないようだ。
「昨日会った奴らと色々話してた」
うん、これなら嘘は言っていし気づけるだろう、……と思ったがどうやら気づいていないらしく質問を続けてくる。
「どんなこと話してたの?」
「色々だよ」
「色々って?」
「あー、その…」
「あまり言いたくないんじゃないの?」
リイナに質問攻めにされて困っているとリイナのお母さん、ユウナさんが助けてくれた。
ちなみにこの人はエルフで、リイナと同じく金髪金眼のリイナをそのまま大人にしたような美女だ。
「そんな感じみたいだし、言いたくなってから聞かせてもらいなさい」
「はい……」
納得はしてないようだが、とりあえず引っ込むリイナ。
とりあえず、ユウナさんに軽くお礼を言っておく。
「あの、ありがとうございます」
「いいの、いいの。…だけど私にはちゃんと夕食のあとに話しなさい。いいわね?」
「…………(目が怖い!!)」
「どうしたの?い・い・わ・ね?」
「……はい(逆らえない!!逆らったら死ぬ!!)」
そんなこんなで夕食を終えると、リイナは部屋に戻り俺はリイナの両親と会話することになった。
というか今分かったことだが、この人達とはリイナを挿んでいつも話していたので正面に向き合って話したことは一度もない。
よってこれが初めてという事になるので………
「…………(話しにくい)」
目を逸らす以外、俺は方法を知らなかった。
そんなことをしていると、まず話の口火を切ったのはユウナさんだった。
「? 大丈夫よ?何も怖いことはしないから。多少怖がらせてみたいと思ったのは事実だけど」
「あんた、生粋のドSだろ………」
「あら、何か言ったかしら?」
「いいえ!?何でもないですよ!」
やばいな。つい口から本音がポロッとこぼれてしまった。
二人共聞こえていたのかユウナさんは雰囲気が怖いし、リイナの父のリウスさんは顔が怖くなってるし。
リウスさんはリイナの父親で銀髪赤眼、普通の人間である。
「じゃあ、早速話すけどあの子のことで隠し事しようとしても無駄よ。あの子隠し事が下手だから何でもすぐにばれてしまうわ。だから、あの子がいじめられていたのも知っているし、自分でなんとかしたかったのも知ってる。それで最近それが解決したことも知ってる」
俺は完全に当たっていて唖然としていた。
今まで隠してきたことはなんだったんだ、と思うくらいに。
それほどまでにリイナは隠し事が出来ないのか、それともユウナさんの推理力がすごいのか。
そんなことを考えているとユウナさんは続けて言う。
「……けどあなたのことは知らない。唯一知っているのはあなたがリイナによって召喚されたこと。記憶喪失って言っているけど、どうせ嘘なんでしょ?名前も覚えていて、どこに住んでいたのかも覚えておる。けど言いたくない。違う?」
ちょっと険しくなった目つきでこちらを睨むため身が竦みそうになるが、何とか口を開く。
「ユウナさんの言っていることは正しいです。俺は記憶喪失ではないですし、自分の名前も住んでいた場所もちゃんと覚えてます」
「そう、ならなぜ嘘をついていたのかしら」
「一番は保身ですけど、やっぱり周りを混乱させないためです」
「まず俺の名前ですが、桐瀬 紺と言います。……どうですか、聞いた感じ変でしょう?こんな名前を何も分からず聞かされたら混乱される。だからちょっとの間準備期間として言わないでおいたんです」
一拍おくためにユウナさんとリウスさんの顔を確認する。
そこには、予想通り驚愕によって染められた顔が二つ。
「次に住んでいた場所ですが聞きますか?聞いても絶対に分からない場所ですけど」
「では、地名は言わなくて良いが、どの辺りか教えてもらえるとありがたい」
そう聞いてきたのはリウスさん。
今まで空気のような存在感だったので多少反応するのが遅れてしまう。
「……えっと、世界全体で言うと東方面ですね」
「ではこの近くではないか?」
「あなた、よく考えてみなさい、キリセ コンっていう名前と同じ様な名前聞いたことあります?」
「ん、……そういえばないな」
「もうっ、よく考えて言ってください」
ユウナさんはリウスさんの方を向いて軽く怒っている顔を見せたあと、また俺の方に向き直り尋ねてくる。
「で、結局あなたはどこから来たの?」
あ~やっぱり明言しなくちゃいけないのか。
漫画とか小説の主人公はよくこんなことをサラッと言えるな。
「………異世界から来ました」
……やっぱり恥ずかしいな。
ほら、さっきからこの人たちが俺を見る目がイタい子を見る目だし。
「………とりあえずそんな冗談は置いといて、あなたはどこから来たの?」
「冗談じゃないんですって!!本当に異世界から来たんです!!」
「そんな事言うんだったら、証拠を見せなさいよ、証拠を」
「分かりましたよ!ちょっと待っててください!!」
どうやら完全に疑われている様のなので、とりあえず来たときに一緒に持って来た物の中から探す。
「何がいいかな………」
学校にはエナメルバックで登校している。
エナメルバックの中には教科書、ノート、筆箱、財布、電子辞書、制服(今俺はリウスさんの服を貸してもらっている)、プリント等々。
制服のポケットの中には携帯電話とウォークマンが入ってる。
電子機器三つでいいか?
いやまた何かしら文句を付けられると面倒だからエナメルバックごと持って行けばいいか。
「お待たせしました。これが俺が異世界から来た証拠です」
だいぶテンションが落ち着いてきた声でドンッとエナメルバックをテーブルの上に置く。
「これは?」
「これは俺がこの世界に来たときに持っていたものです。この中の物を見て頂ければ、俺が異世界から来たというのが分かると思います。どうぞ見てください」
「あなた、これどうやって開けるか分かる?」
「いや、分からんな……」
何やらヒソヒソと話している。
どうやらジッパーの開け方が分からないみたいだ。
「ちょっと貸してください」
ジジジ………
ジッパーを開けてバックの中身をテーブルに並べていく。
「この本は?」
「これは教科書と言って…………」
まずはそれぞれの名前、どのような物か、どのように使うかなどの説明をした後に、この進歩した文明とこの世界の文明の違いを証明。
ようやく全て話終える頃には三時間はかかっており、そのせいで精神的にすごく疲れてしまっていた。
「これで終わりですが何か質問は?」
一通りのことを話して二人に確認を取ると二人とも「もう大丈夫」だと言ってくれたので席を立ち、俺にあてがわれている部屋に向かう。
「けど、明日は私達の話を聞いてもらうわ」
「分かりました」
背中から声をかけられ軽く振り向き返事をしておく。
今日は色々あって結構疲れたな………。
すいません……長らくです。
次回は説明回になります。
相変わらずの遅さですが、これからも応援お願いします。