表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第17話 逃走本能

 どうしようか……

 とてもじゃないが、この靴であの絨毯を踏んで汚してしまうのはものすごーく躊躇われる。

 もし、このままの汚れた状態の靴で入ってしまえばどうなることだろう?

 汚して弁償ともなれば、日本円に換算していくらくらいになるのだろうか。

 一万や二万円なんてことはないだろう、十万?百万?それとも一千万を超えているかもしれない。

 庶民に対して平等には見ていると思えるが、俺を怖い顔で見ていたことから、決して現実にはならないと言い切れないところが怖くて、初めの一歩がなかなか踏み出せず、その場で足踏みしてしまう。


「どうしたの?中、入らないの?」


 振り返ったリイナが不思議そうに眉根をひそめてたずねてくる。


「いやぁ、実は絨毯を汚してしまいそうで怖くて入れないんだよ」


 とは口が裂けてもいえない。

 なんというか、小さい女の子(一つ下のだけど、見た目的に)に自分の弱いところなんてみせたくないのだ。

 真に身勝手な男の見栄だと思うが、仕方ない、仕方ないったら仕方ない。

 じゃあ、逃げるか?

 論外だ、そんなことしたら、不審者として狙われて殺される……かもしてない。

 異世界に来て悪名を轟かすつもりなんてさらさらない。

 さらに言ってしまえば薄情たが、異世界から来た俺を快く住まわせてくれる稀有な存在はそうそういないため、ここで逃げるのは大変惜しい。


「すみませんユウナさん、少し席を外しててもいいですか?」


 仕様がないためユウナさんに耳打ちをして、外にいる許可をもらう。

 ここでのユウナさんの立場はあまり高いとは言えないけれど、この際使えるものは使っておこう。

 数秒間が開いたが、俺の考えていることが分かったのかすぐに返事をくれた。


「……ああ、そういうこと。いいわ、もしもあの方に不審に思われたら私から、とは言えないけれど、リウスさんに頼んで伝えといてもらうわ」

「ありがとうございます。リイナはどうしますか?これからの話はあいつにとって退屈なだけでしょうから、連れて行きましょうか?」

「いえ、今回は止めておきましょう。あの方がリイナに骨抜き状態だから、今あの方とリイナを離すのはなんと言うか、───色々と危険よ」


 ほら、とセデレッシュさんのほうを示され見れば、そこにはさっきまでの威厳はどうしたんだと言いたくなるくらいデレデレで上機嫌のセデレッシュさんがいて、なるほどと思った。


「分かりました。……という訳だから、ごめんねリイナ、俺ちょっと外にいるわ」

「え?何がという訳なの?コンはあたしのものなのに、お母さんとばっかり目で通じ合ってずるい!あたしもそうなりたい!」


 可愛い美幼女が俺を見つめているという、一部の人間には大変羨ましがる状況にいるわけなのだが、15歳で年も近いと知っているため、美幼女な外見は見た目だけであり、結果として年が近い女の子に見られているため恥ずかしい。


「コン君、後で少し話しをしようか「の」?」

「はい……。じゃあリイナ、また後でな…」


 リイナの父&祖父が長年離れて暮らしてたにもかかわらず、さっきのリイナの発言に怒りを覚えたようで、青筋をうっすらと浮かび上がらせて寸分の狂いなくはもってみせた。

 大方、リイナの「あたしのもの」を「あたしの(もの)」とでも脳内変換したんだろう。

 俺はそれにうんざりとしながら、まるでそうすることが当たり前であるかのように狼共を抱きかかえ、なるべくひらけている場所を探した。



 なんと数分でちょうどよさそうな場所に来れたのは幸運といっていいだろう。なんといったってまだまだ見れていなさそうな場所はたくさんありそうだしな。

 ここは周りが背の高い広葉樹に囲まれて、屋敷の中からも見れなさそうなので、問題はないと思う。別に大それた問題を起こそうとは思ってないんだけれど、念には念を入れるべきであろう。


 さてこんなところに来たのは、靴ぐらいは洗おうと思ったからだ。

 それくらいなら隠れる必要はないのではないか?と思う奴はいるだろうが侮ってはいけない。俺はここで、魔法を使って洗剤のようなものを使っていこうと思っているのだ。

 ほらよくあるだろう?水魔法とかで「バブル」とか泡が出るやつ。

 それを試してみようとか思っているのだが、あの泡はシャボン玉、つまりは洗剤を使った泡なのだ。もともと洗剤は化学製品である。ここはRPGなどによくある中世ファンタジー世界なため、化学製品である洗剤と似たようなものを使えば、何を言われるか分かったものじゃない。

 


「じゃあ、これからお前ら洗うぞ。まずはビルか…ら……」


 俺はこのとき失言したと思った、いや理解させられた。

 なぜなら俺が喋り終わる前にあいつらは脱兎のごとくと言っていいほどの速さで散り散りに逃げていったからだ。

 兎を追う狼が追われるようになろうとは、之や如何に。

 この前まで野生であったがために、「洗う」と言う行為の意味が分からないだろうと高をくくっていた俺が馬鹿だった。

 逃げられたと頭で理解したのはもうあいつらがどこか行ってしまった後、あいつらの姿は見えない。

 普通に考えるならここであいつらを見逃すだろうが、俺を侮ってもらっては困る。正確には俺の「チート」だけど。

 身体能力を強化して耳を澄ませば、多くの情報が入ってくる。

 まずギルはおっちゃんのところに行って馬車に隠れている、周囲の奴らに何してんのか囁かれているぞ。ジルは隠れようとしてこの家のメイドさん?に見つかって悲鳴上げられているせいで誰にでも居場所は分かる。一番まともなビルは屋敷内の雑木林の中に隠れてはいるが俺から比較的近いせいか、息遣いが聞こえているため、多少分かりづらいが近くまで行けば居場所は確定できるはずだ。



 それではお仕置きを始めましょうか!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ