第14話 王都観察
荷馬車は王都内を進んで行く。
道はレンガが敷き詰められており家もレンガ造りが多く、王都の中は、日本の年越しイベントやアメリカのクリスマスイベントを彷彿させるような喧騒で溢れていた。
旅商人は王都の商人や商会と何やら腹黒そうな交渉をしていて、店では男が物を売って女が売り子をしている。
大きく開けた広場では、吟遊詩人が詩を詠い、楽師は楽器を手にして演奏し、踊り子はその音に合わせて踊りを披露し、休みの日なのか休憩中なのか、はたまたただの暇人が酒を飲んで飯を食らってどんちゃん騒いでいる。
「おっちゃん!何なんだ、この騒ぎは?!王子さまでも誕生したのか?!すごい騒ぎじゃねえか!!」
「ん?ああ、これのことか……こんくらいいつもんことだから気にすんな」
本当にいつものことのように話すおっちゃんは実際に慣れているらしく、普通に答えているし本当のことなのだろう。
「それより……リウスさん!このまま屋敷に向いますか?それとも店とか回りながら行きますか?」
「ではこのまま屋敷に向ってください!皆さん、いい加減荷物を降ろして休みたいでしょうから!」
おっちゃんの声は本当によく耳に届く。
別にだみ声とかそういうのでもないし、俺やリウスさんが大声で叫ぶように言っているのに、おっちゃんは普通に話してるから不思議だ。
それにしても凄い人の数だ。
都会が人でごった返しているのはどこの世界でも同じだが、決定的に違う所がある。
それは人種だ。
俺の世界で言う人間は見る限り欧米人とか白人だけ。しかも髪や目の色もカラフルで、色々な色をすべて重ねずキレイなまま画用紙にぶちまけたみたいな光景だ。
人種というカテゴリに収まるか分からないが、エルフにドワーフ、獣人で言えば、犬系・猫系の獣人は勿論のこと、耳の裏にエラの付いた魚人や鳥人、牛人、羊や兎なんかもいる。
召喚魔法が発達しているため、色々な魔物がいて混沌としている。
……あぁ、やっぱりいる、美人さんに紛れてチラホラと、いや逆に美人さんが紛れてチラホラと、おっさんおばさん、デブにノッポの犬耳や猫耳の奴が。
獣耳なのに全然可愛くない、というよりむしろ気持ち悪い。
こういうのに耐性があるのか、そもそも獣耳は可愛いものという認識がないのか皆普段通りの顔をしているが、俺の体力は早くも空になりそうだったので、リイナを見て体力の回復を図ることにした。
こちらの視線に気付いたリイナが四つん這いになって寄って来る。
「さっきからあたしを見てどうしたの?」
顔を近づけてそう尋ねてくるが、キレイな顔が近くにあるため少しだけどもってしまう。
「あ、あぁ、ちょっと体力を回復させようかと思ってな……。その前にリイナ!顔が近い!もうちょっと距離を置きなさい!あと、こういう事、誰彼かまわずやったら駄目だぞ!」
お前みたいな無防備なヤツは、いつ誰に襲われるか分からないからな、とは言わないでおく……リイナの教育上。
「うん分かった。けど『誰彼』ってことは特定の誰かにはしていいんだよね?ねえ、誰にならしていいの?」
これってつまり、俺がリイナとその相手との距離を自由に決めてしまえるということだ。
俺は美少女に顔を近づけてもらいたいという欲求と、そういうことは駄目だと言う理性がせめぎ合い――――――
「まずはユウナさん。ユウナさんには俺が注意する前の距離で大丈夫。次にリウスさんには少なくともユウナさんの倍の距離をとるべきだな。俺には、…今の距離がベストか…な……」
頑張って理性を勝たすことができた。
くっ、頑張ったよ俺!欲望に打ち勝ってみせたよ俺!すごいね!えらいね!
あれ?何でユウナさんは小さくガッツポーズして、リウスさんは床に手をついて落ち込んでいるんだろう?
もしかして俺の言った距離のことで一喜一憂してしまったのなら、リウスさんには悪いことをしかたな。
でもリウスさんにはできるだけ早くに子離れしないと後々大変になると思う。
さながら好きな子から嫌われるかのように、好きな娘から「お父さん臭い!近寄らないで!」とか言われたら、自殺ものだろう。
そもそも忘れかけていたが、リイナはあれでも俺の一個下、たった一歳しか変わらないのだから、いつ反抗期が来てもおかしくはないだろう。
天然記念物級の天然で純白で純真無垢な女の子には、少しの切っ掛けで何色にも染めることができてしまう。
悪い色に染められないためにも、他の人との距離も言っておいた方がいいか。
「リイナ、最後にもうちょっとだけ付け足して言っておくぞ。今からできる女友達とはリウスさんと同じ距離、男友達とは俺との距離の倍はとれ。少なくとも咄嗟にリイナと相手との間に腕が入るくらいにはな。分かったか?」
そう確認すると元気良く首を縦に振って肯定の意を示してくれた。
だがすぐに何か疑問に思ったらしく首をかしげ、質問してきた。
「コンは男で、あたしの友達だよ?それなのに他の人と違うのはいいの?」
「いいの、いいの。俺はリイナに召喚された、えっと何だっけ?使い魔?」
「違うよ!“契約魔”だよ!」
「お、おう…それそれ。その契約魔なんだから他の野郎共より近くにいたって問題なしだ。理由としてはこんな感じかな?他に何か質問はあるか?」
少し考えるリイナ、美少女は何しても似合うな。
これが男なら嫉妬と怒りでぶん殴っていたところだが、可愛いは正義だから問題ない。
「じゃあ、野郎共って何?もしかして男の子って意味?」
まさか、そこをツッコンでくるとは思わなかった。
「ああ、その通りだ。てか何で分かったんだ?」
「だって今までの会話から推測したら分かるから!」
ない胸を張るリイナ、偉いからから頭を撫でてやろう。
「でもな野郎共って、結構汚い言葉、というか乱暴な言葉だからリイナは使っちゃ駄目だぞ。もし使ってたりしてそのことがばれたら、俺はユウナさんやリウスさんに怒られる……」
多分、リイナにはやさしく諭し、俺は怒られるだけじゃ済まなそうな気がする。
例えばユウナさんの鞭打ちとか?
怖い想像をしてしまったため、ぶるっと身体を振るわせる。
そしてそのまま、リイナと取り留めのない会話をして過ごし、目的の場所にたどり着いた。
目の前には、見ただけで分かる金が掛かっていそうな縦横五メートルはありそうな門が待ち構えていた。
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