第11話 初めての戦闘?
ちょっ、怖い怖い、怖いって。
何その、如何にも俺達は肉食だZE!みたいな口元は?!牙がぎらついててすごい怖いんですけど!!
あと二メートルって大きくない?!俺の身長よりでかいぞ?!狼ってこんなに大きいか?!何があって、そんなに大きくなった?!あれか、空気中に漂っているらしい魔力の所為か?!ファンタジーだなぁおい!!
「ちっ、風狼か………こいつらすばしっこいから面倒なんだよな」
俺がパニクってる間におっちゃんは状況を把握したらしく、不安そうな台詞を呟き、それを聞いた俺は焦っておっちゃんの顔を見たが表情は明るく、またちゃんと聞けばその声色に不安の要素は無かった。
他のメンバーも同様に警戒こそしているが緊張はしておらず、きっと楽勝なのだらうが、怖がっている俺としては気を抜かないでもらいたい。
多分こういう魔物を倒すことに慣れているんだろう。
だがよく考えてみよう。
おっちゃん達、引越し業メンバーが今現在持っている武器は、大剣・ダガーナイフ・片手剣・弓、だ。
つまりは約八割が斬撃による攻撃となる。
となれば、相手は切り傷が出来、致命傷も大きな切り傷となるのは間違いないだろう。
そしてここは異世界とは言っても現実だ、ゲームや漫画のように攻撃してダメージを受けて点滅して消えるようなことはあり得ない。
最終的に惨殺された死体が出来上がってしまう。
それは教育的によろしくない、大変よろしくない。
なので俺はここでこの風狼とかいう狼を戦闘不能にさせる。
決心したあとの俺は迅速に行動に移した。
「おっちゃん、さっきの賭けの話は覚えてますよね?」
「ああ、覚えてるが今はそれどころじゃねえ。引っ込んでろ」
「じゃあ、あいつら俺の獲物なんで引っ込んでてください」
あれ?なんかすごいプレッシャー感じるんだけど………
「おい坊主」
「はっ、はいぃぃ……なんで、しょうか?」
ひぃぃぃ、狼に向けられていた殺気がこっちに向いてるぅ!?
「こっちはなぁ、依頼人から客の命を任されてんだ。それを、武器も持ってない坊主が『引っ込んでてください』だぁ!?舐めたこと言ってんじゃねえ!!死にてえのか!?あんまり舐めたこと言ってっと俺の剣で坊主の頭、ぶっ飛ばすぞ?!!」
「そんなこと言われたって仕方ないじゃないですか……あの子の教育上、あまりいいもの見せたくないんで」
チラッとリイナを一瞥してから、おっちゃんに視線を戻すと納得したのか幾分か怒りは治まっていた。
「だが、それでも駄目なものは駄目だ!」
「なぜ?」
「まず、武器を持ってない。次に格闘の経験もなさそうだ。それに、冒険者でもなさそうな奴に手柄は譲りたくない。以上だ!なんか文句あっか?!」
「最後のは自分のことじゃないですか!」
「ちっ、気付いたか……」
「ちょっ、今舌打ちしたでしょ!酷くない!?」
「あぁ~あぁ~あ~、もう分かったからさっさと行って自分の無力さに気付け。やばくなったら助けてやっから」
おっちゃんは俺を馬車から蹴り落とした!
おっちゃんの突然の行動に俺は反応できず顔面から地面に熱いキスをした。
……はじめての味は土の味がした。
「何しやがる!痛てぇじゃねえか!!このハゲ!じじい!変態!汚物!木偶の坊!役立たず!ダンディ!」
俺は思いつく限りの罵倒(?)をすると、なんとおっさんは頬を朱色に染めた!気持ち悪ぅ!
「お、おう……」
「照れてんじゃねえよ!!おっさんが照れても可愛くともなんとも無いんだよ!」
手を振るいおっちゃんの行動を全力で全否定した。
はたから見ればコントをしていた俺の右腕から、突如鋭い衝撃が走る。
見ると、そこにはさっきの狼が噛み付いていた。
ずっと無視してたから当たり前ではあるが、今の俺はいらついているため冷静な判断ができず――――
「痛ってんだよ!この野郎!!」
――――そのまま振りかぶっておっちゃんに向ってぶつけた。
おっちゃんはいきなりの攻撃に反応できず、受け流せないまま俺と同じ様に馬車から落ちた。
声が出てないということは、そのまま気絶したか……いい気味だ!
一応ジンジンと痛みが走っている腕を見るが、チート能力のおかげで傷はつかない。
だが衝撃は消されないようで痛みだけ伝わってくる。
………ちくしょう、目から汗が出てきやがった。
若干涙目になりながらも残り二体になった狼を見ると、微動だにしない、怒っている様には見えない。
…もしかして、ただ唖然としているだけ?
自分達の力量を理解したうえで相手のそれが大きすぎると判断できているからか?
もしそうならかなり頭良くないか?
なら、一丁あの魔法使ってみるか、ドラゴンとかそういうのに使ってみたかったんだけど……まあいいか。
取りあえずあの魔法を使うためには一度落ち着いてもらう必要があり、おっちゃんに投げた方の狼も気になるため、速効で片付ける。
体を屈めクラウチングスタートして、狼との距離を一気に詰め、首筋にある頚動脈を狙い手刀を振り下ろす。
ドスッ、と音を立てて一匹が声も上げることもできす崩れ落ちる。
最後の一匹が我に返ったらしくこちらを警戒しようとするが、遅いっ!
さっきの要領で最後の一匹を仕留める。
倒れた三頭と一人を抱え馬車に戻り、狼に魔法をかける。
† † †
数分後、馬車では怖がっている人がいる中、狼達が起きだした。
『ふぁ、あれ?ここどこ?』
口から人の声を出しながら………。
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