第10話 初めての出会い
すいません、遅くなりました
もう何度頭上をこの世界の太陽が通過して行っただろうか?
少なくとも十回は太陽と月に挨拶を交わしたはずだ………一方的にだけど。
もしかしたら二十回かもしれないし三十回を越えているかもしれない。
そんな何日経ったか分からない間、俺は相変わらず馬車に揺られている。
何度か街や村に滞在したがそれは最低限のことで、一泊して必要なものを買ったら出発するという、なんとも味気ない旅をしている。
さらに魔物の類も出現しない為に、暇で暇で仕方ない。
ふと、周りの人を見てみると引っ越し業の人達はやはり慣れているのだろう、何一つ苦になっている様子はなく、リイナ一家は今は家族三人で楽しく会談していて気になっている感じがない。
この中で俺だけがこの苦痛を味わっているとなると、何故かちょっと悔しく思えてしまう。
俺の器量の器って小さいな………醤油さしくらいの大きさではないだろうか?
「おい、坊主」
卑屈になってしまっていると引っ越し業の人達のリーダーであると思われるおっちゃんが寝転んだまま話しかけてくれた。
………なんか…この一文だけ見たら、独りぼっちの可哀想な奴に見えるな。
「なんですか?」
「ちょっと質問させてもらうがお前さん、あの家族とどういう関係なんだ?家族には見えないが……」
リイナ達を見ながら話しかけてくる声は好奇心と心配と半々といったところ。
思わず言いそうになるのをぐっと堪えて、どうしたものかと考えるがいい答えは出て来そうに無い。
救いを求めるために視線をリイナ達に送ってみるが誰も反応してくれなかった。
いや、一人だけこちらの視線に気付いている、ただこちらをときどきチラリと見て頬を微かに吊り上げる程度で特に何かをしようとする様子には見えない。
これは自分で何とかしろって事なのか、それともただ単に面白がっているだけなのか………もしかしたら両方なのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
少なくとも見ているだけってことは自由にしていいということなのだろうか?
出会って間もない相手の意思を汲み取るなんてことは俺には不可能だ。
そもそも俺は何日経ったって相手の意思を汲み取るなんてことは不可能なんだけどな、それこそ数年単位が必要だ。
「で坊主、どういう関係なんだ?」
「雇用関係ですかね?」
「どうして疑問系なんだ?」
「ちょっとした事情があって話せないんですよ」
「ほう……、それなら仕方ないか……」
どこか腑に落ちない顔だが一応は引き下がってくれた。
「こっちからもちょっと質問してもいいですか?」
「なんだ?事情があって話せないこと以外なら何でもいいぞ」
ちっ、皮肉言いやがって!これでいい大人かよ
まあ、そのことは今はいい。
先に聞いておきたいことがあるから取りあえずは見逃してやろうフッフッフ
「あと何日で目的地に着くんですか?流石にもういろんな意味で疲れたんですけど………」
暇は人を殺すと言う言葉は本当だな、と実感している今日この頃。
本当に死にそう、主に精神的な意味で。
だから、出来るだけ早く到着してほしいんだが………。
「ん~そうだなぁ、このまま何も起きなければ後一週間ってところかな。」
ぼーっとしとけば一週間ってすぐに過ぎる…………かなぁ………?
「そんなところですか……もう一つ質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「なんか、あっちの方から来てますよ?」
そう言って指差す方向は森の中。
聴覚の強化を気分でしてみたら、すごい勢いでこちらにやって来るのが分かったため、おっちゃんに報告すると、一瞬でおっちゃんの顔つきが厳つさを五倍増しのものになる、こえぇよ……ただでさえ怖いのに更に怖くなったよ。
「出鱈目言ってんじゃねえぞ」
「本当のことですよ、信じてください」
「信じられるか、このボケが。俺の半分も生きてない奴が笑わせるな」
こっちは本当のこと言ってんだから信じろよ!
「分かりました!じゃあ、こうしましょう。もし魔物が俺の言ったタイミングで来るかどうか賭けをしましょう。この賭けに負けたら互いの言うことを一つ聞くって事でどうですか?」
「いいぜ、その賭け乗った!!」
俺に十割分のある賭けに即行で乗ったおっちゃんは豪気なのかそれとも賭け事が好きなだけなのか………。
あまりの勢いのいい返しに数瞬呆気に取られた。
「……まあいいです。それよりも武器は出しといてくださいよ、何かあったらどうするんですか。それとお仲間さん達にもちゃんと伝えといてくださいよ」
「それはいいが、間違ってたら賭けとは別として責任取ってもらうから覚悟しとけ」
おっちゃんは近くにいた仲間に軽く二・三のことを言い、そのまま全員に伝わっていった。
そして全員に伝え終えると馬車の速度が徐々に上がっていき、景色が前から後ろへと流れるように過ぎていく。
「なあコン君、なぜか速度が上がっていってる気がするんだがどうしたんだ?」
「魔物が近くに出ました。いつ襲ってくるか分かりません。なるべく背を低くして隠れていてください」
「おい坊主、てめぇも隠れてろ。こっからはこっちの仕事だ」
ふっ、おっちゃん何当たり前の事言ってるんですか、魔物自体初めて見るのに禄に戦闘なんてしてない俺が戦える訳ないじゃないですか。
もしも芋虫みたいな奴だったら俺は失神する可能性大です、気持ち悪いから。
「相手との距離が近くなったら隠れます」
「怪我しても知んねえ──────」
「すいません、相手との距離が近くなったので隠れまーす」
「────ぞ、っておい!!」
次の瞬間おっちゃんのツッコミと同時に右側の森の茂みからガサガサッという何かが飛び出る音が聞こえてきたが、睨み合いでもしているのか戦闘にはならず馬車の速度が急上昇して走り続けている。
どうなっているのか気になって外をそっと覗いてみるとそこには、灰色の毛並みをした全長二メートルくらいの大きさの狼が馬車と並走していた。
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