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こんな出会いだったよね? 3


「んむ……、……邪魔だよ」


「あ、ごめんなさいっ」


 通行の邪魔をしていたようで、人とぶつかってしまった。

 あわてて振り向いて頭を下げると――


 ごずんっ。


 骨と骨が何の加減もなくぶつかる、鈍くて重い音がした。

 どうやら、後ろにいた子は私よりも頭ひとつ分位背が低かったようで、謝罪のために勢いよく頭を下げたら派手にその子と頭をぶつけてしまったらしい。

 そ、それにしても痛い……。

 頭突きなんて、小学校で男子と遊んでたときのハプニング以来じゃないかなぁ……いたた。

 あまりの痛さに二人とも両手で額を抑えていた。

 

「んむぅ……い、痛いよ……」

 

 おチビちゃんは、少しかすれた可愛い声で呟く。

 頭を抱えてうずくまったまま、こちらに向けられた瞳にはじんわりと涙がたまっていた。


「ご、ごめんなさいぃ……」


「全く、もう少し周りを見て対応しなきゃダメだろ? すいません、コイツそそっかしいもんで」


 夏耶は誤るしかできない私をたしなめつつ、おチビちゃんに謝る。


「んむ……まぁ……心の大きな私はこれくらいどうってこと、ないよ……」


 それまで頭を抑えていた両手をビッと腰に当てて胸を張った。

 大きな、という部分だけいささか声が大きくなったような気がしたけれど気のせいかな。

 そんな風に無い背をグイグイ伸ばそうとして胸を張っているおチビちゃんを見て言葉を失う。

 なんて――


「なんて可愛いんでしょう! 小動物っ! 飼っていいっ!?」


「ダメに決まってるだろっ!」


 失礼極まりない発言であることは重々承知しています。

 各方面から様々な罵詈雑言を叩きつけられても致し方ありません。

 しかし、それでも――いや、それほどにっ。

 彼女が可愛かったんや……。

 髪の艶やかな毛は肩口でピン、ピンと外ハネしている。

 そして、社会に対する不満を全て集約したようなジト目……。

 いや、言い過ぎました。

 もっと大きく開くはずなのに、まぶたが重すぎて開けられない、そんなもどかしさを備えた瞳。だけどその奥に見える光はとても強い意志を宿していた。時代に逆行したような太目の眉。小さいけど形のよい鼻を通って下りていくと、軽くへの字に曲げられた小さな唇。

 小さなおて手にあんよ……まったく、何て恐ろしい兵器を神は創造してしまったのだろう。私に食べられに生まれてきたのでしょうか?


 おおっと……、つい、おチビちゃんの描写に没頭してしまった……。

 悪い癖だなぁ、相変わらず。


 ――話を戻そうね。


 私は敬語になってしまう癖を抑えられず夏耶に同意を求める。


「また一緒にさっきのあれ、やってくれない?」


 さっきのあれとは、もちろんさっきのあれのことだ。親指をビシッとするやつ。


「嫌に決まってるだろっ!!」


 さすが私と長年付き合いを重ねてきただけある。

 夏耶は私の言いたいことが通じたのか、もう騙されないぞとばかりに叫ぶ。

 ……なにさ、そんなに怒ることないじゃん。


「い、今、小って言った?……私、そんなに小さくないよっ」


 と、同時に目の前のおチビちゃんも声を荒げる。

 そういえば、言ったかも……知れない。 


「え? 小さいじゃん? ねぇ?」


 そういって私は、今度は愛しのポニーちゃんに同意を求める。


「え? ええ? わ、わたしに聞くんですか? ええっと……」


 頬に両手を当てて慌てふためくそのさまも何というか気品に満ちている。

 本当にどこかのお嬢様なんだろうか。


「そ、そんなことないですよ?」


「――はぁっ……」


 おチビちゃんが少しだけ頬を染めて、息を飲む。何を期待しているのだろう?

 おチビちゃんは見たところ少しだけ表情が乏しい。

 あまり顔に感情が出ないタイプなのかもしれない。

 そのせいか、今みたいに微かに表情にあふれ出て来た感情の残滓がとても目立つのだ。

 そして、……じゅるっ、その様はとても可愛い……。あ、涎が――。


「胸は……ともかく、背は気にすることありません!

 平均よりは小さいかもですけど、男の子は背が自分より小さいこの方が好きみたいですし、そんな気にするほど小さいわけでは――」


 ………………………………。

 なんていうか、ポニーちゃん、私よりもさらっとひどいことを言っているよ。

 しかも小さいって言われたくないと意思表示しているのに、何回言うんだアナタは。

 背丈もそこそこ、胸も大きい、そんな子にあんな子と言われたとあっては単なる皮肉以外の何物でもないわけで。

 この辺も天然ということなのかな……。


「……んむぅ、何回、……何回小さいって言うんだよっ。

 それに、……胸は、胸は関係ないんだよ……っ!」


 おチビちゃんはぷんすか怒っていた。怒りは顔にもろに出るタイプらしい。

 だけど私に言わせてもらえば、目の前のおチビちゃんは小柄でとても可愛い。

 特に少し重たそうなそのまぶた、その奥に見える潤んだ瞳。

 お姉ちゃんが守ってあげるねっ!? そういいたくなるほど保護欲を掻き立てられる。

 首元についてるリボンを見ると同い年のようだったけれど――。


 ……ん、え?

 同い年?

 いや、でも、この小ささだよ?


「ちょっと、まてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 校門を抜け、校舎に入っていこうとする途中の生徒たちが一斉に振り向く。

 夏耶とポニーちゃんも例外ではない。

 信じられなかったのだ。

 まさか目の前の小さな子が同じ学年の子だったとは――。

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