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こんな出会いだったよね? 2

「え、えっとぉ、何か?」

 

 すこしだけ、訝しそうに夏耶が尋ねる。

 人の頭を叩いていた場面を見られただけに、なんだかとてもばつが悪そうだった。

 少しは私の痛みを思い知ったかっ。

 なんて思いながら私はニヤニヤしています。


「あ、ごっ、ごめんなさい、そんな、盗み聞きするとか、そんなつもりじゃなかったんですけど……」


「は、はぁ……」

 

 あたふたと弁解するポニーちゃんになんと返していいかわからない夏耶は曖昧にそう言う。

 人見知りパワーが迸っている。


「ほんとにごめんなさい。でも、その……二人のやり取りがなんとなく面白くて……。

 ふっ、ふふっ。ふふふふ……」


 ポニーちゃんはそんな風にして上品に笑う。

 夏耶にこの気品の何分の一かを分けてあげれば、御両親の胸のつかえも幾分和らぐかもしれない。

 それにしても、この極上の笑顔――。

 

「可愛い……」

 

「えっ?」


 ポツリと呟いた、いや口から漏れ出てしまった素直な感想にポニーちゃんは目を丸くしている。

 かと思ったら、ボッとガスコンロの着火を思わせるような音を立てて頭から煙を上げてしまう。

 当然のように顔は真っ赤だった。

 夏耶に負けず劣らずの照れ屋さんなのですね。

 こ、これはたまりません。


「い、いいいいいい、いま、わたしのことぉ言ったんですか?

 って、私なんて勘違い発言をっ! ちがうんですつがうんです、

 ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ……」


 あわてて、”違うんです”が”つがうんです”になっちゃってるあたりがこれまたそそります。

 上品で照れ屋、そして田舎娘のような訛りを思わせる――。

 これはたまりません。


「ぜっ、ぜーんぜん勘違いなんかじゃないよっ。

 お前さん、とてつもなく可愛いんだぜっ!?」


 無意味にテンションが上がった私は芝居がかったセリフと大げさなウインク、そして親指をグッと立ててポニーちゃんに微笑む。

 目を隣に移すと、なんだか夏耶が怪訝な顔をしていやがったので、背中に平手打ちをしてやる。


「い、いたっ、な、なにをするだ――」


「ほらっ、ポニーちゃんに感化されて田舎訛りやってる場合じゃないよ?

 夏耶もやってあげて、ビシッと」


 小声で夏耶に同じことをするように促す。


「なっ、噛んだだけだぁーっ! 

 それに、何で私までっ――」


「あの子を、……悲しませてもいいの?」


 夏耶の冷静な訂正を平然と受け流して、彼女を真っ直ぐ見つめたまま凛とした表情で――声で、私は告げる。

 夏耶は私の真に迫った声色に気圧されて一瞬、ひるむ。

 ポニーちゃんが悲しむことは未来永劫無いだろうけれど、そんなことはどうでもいい。

 だって――、だってすごくいいことを思いついてしまったのだ。


「えっ、いやっ……そんな、ことは、ないけど……」

 

 思ったとおり、夏耶は私の無意味なシリアスさに押されて、おサルさんでも気づいてしまうような穴だらけの理論に気付かない。

 いや、気付かせなかった。


「だったら、……っね?」


 思いっきりためて言い放ってやった。

 ”ね”、の前に小さな”つ”を入れて。

 まさに渾身の、”っね?”だ。

 気付くと、夏耶は何だかワケのわからないままにカクカクと動き始める。

 洗脳は成功した。ミッション、コンプリートっ……。

 ポニーちゃんに対して半身に構え、足を肩幅に開く。

 左手をガシッと腰に当てて――

 そんな風にとてつもなくぎこちない動きで私のポーズを真似ていく。

 彼女の顔面は最早体中の血液がそこに集結しているかのように真っ赤だった。

 俯いていた顔をポニーちゃんのほうに向け、私にならって右の拳を真っ直ぐに伸ばす。


 そして――


「……ぜ、ぜーんぜん、勘違いなんかじゃ、な、なな、ないんだからな……?

 お、お前さん、と、と、とてつもなくっ……」


 ああっもう少しっ! もう一息っ!

 と、いったところで恥ずかしさに耐え切れなくなった夏耶は瞳を潤ませてこっちを向く。

 気にするなっ! そのままで大丈夫だよっ! っね!?

 と、また小さな”つ”をためて、念として放った。

 互いのモノローグまで読みきってしまう私達だからこそなせる技だ。

 夏耶はゆっくりと向きなおり――


「っ……か、か、かかかかっ、……可愛いんだ、ぜっ……]


 恥ずかしさのあまり声を裏返し、瞳には涙を浮かべたまま――そして、うつむき気味ではあったもののビシッと親指を立てる夏耶。

 ふ、ふおおおおおおおおっ。

 い、言ったぁーーーー! 言わせたぁーーーー!

 お前さんもとてつもなく可愛いんだZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!

 やったぜ、神はいたな!

 私はさっき神を亡き者にした「私」を絶対に許さない。


 「う、うううううううーーーーーー!」

 

 目尻にたっぷりと涙をためて頭を抱え込む夏耶。

 ペタリとその場にしゃがみこんでしまった。

 なぜそんなに悲しそうな顔をしているんだい?

 私は君のその恥らう姿が大好物だというのに。 


「は、はわっ、ふわっ!?」


 そして声を裏返しながら、ボフっと煙と奇声を上げるポニーちゃん。

 お、お前ら可愛いですねっ、た、たまらないですねっ!

 企みはまんまと成功し、予想以上の効果をあげましたっ!

 人見知りなのに無理をして初対面の子に可愛いと告げた夏耶(無意味なポーズとセリフ付き)。

 そして、面と向かって可愛いと告げられて顔を真っ赤に染めたポニーちゃん(名前はまだない)。

 ギャップによる可愛さと、天然のオーラが放つ可愛さ……。

 前言撤回ごめんなさいっ、やはり神はいたなっ!


「いやぁ、眼福眼福っ」


「お、お前、また私をだましたなぁっ!」


「え? え?」


 三者三様の反応。

 てかやっぱり、夏耶にはすぐにばれた。

 てへっ☆


「うう、は、はずかしかったよぉ……」


 先ほど自分が言ったことをもう一度反芻しているのか、なおも赤面したまま涙を流した夏耶が言う。

 夏耶、かわいいよ、夏耶。

 心の中でそう言ったのは内緒だけれど。


「あ、あのぅ……」


 夏耶を見つめてニヤニヤしていると、おずおずとポニーちゃんが話しかけてきた。

 改めて顔を見てみると相当な美人だった。

 夏耶とはまたタイプの違う美人。綺麗、よりも可愛いという感じ。少しだけ垂れた大きな瞳、そしておっとりした話し方が相まって、周囲のの皆をつつみ込むような優しい雰囲気を際立たせている。

 何……っ? 夏耶に負けず劣らずのお椀も装着しているじゃないかっ。

 こればかりは納得いきません、ずるい。


 しかし、どうだろう。

 夏耶とポニーちゃんが並んでいるのを見ると、ポニーちゃんの方がよっぽどお嬢様っぽい気がする。

 夏耶、なんていうか負けているよ、夏耶。

 心の中でそう――以下略。


「……面と向かって、あんなこと言われて……恥ずかしかったですけど、

 す、すごく、嬉しかった、です……ありがとう……えへへ」


 不和ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 あ、間違った。

 ふわぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 こ、小首を傾げた。

 えへへって、ニコって小首を傾げたよ!

 すごいよ、天然の可愛さだよ!

 前言撤回ごめんなさい、神は二人いたっ!!

 そんな風に名前も知らない子のしぐさに狂喜乱舞していたときだった。

 

 どんっ。


 と、背中にやわらかく何かがぶつかった。


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