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いかれたリチュアル 3 ~現実は時に残酷だ~

あまりにも、前あげた話が酷かったので、改稿しました。

まだちょっとこの回は続きます。

「さ、どうぞ?」


 席に着き後ろを振り向いた夏耶は、ニコリ、と笑ってキレイにそろえた手の平を相手に差し出す。

 何も無かったかのように自己紹介を次へと促す――いや、促そうとした。

 だって、普段はなりを潜めているお嬢様然とした優雅な笑顔がそこにある。長年の親友からしてみればこれほど気持ち悪いことも無いのだ。失礼を承知で言わせてもらえれば、あれは夏耶であって夏耶ではない。

 普段使わない顔面の筋肉たちが悲鳴を上げている。フルフルと震えている。

 確かに恥ずかしがり屋の夏耶からしてみれば、悪夢のような瞬間だったとは思う。


 台風一過――。


 誰もその言葉がこれほどこの場に沿うような空気になるとは思わなかっただろう。

 もちろん私、超絶ツインテール美少女の種薪小春たねまきこはるもそのうちの一人だった。

 入学したての、まだクラスの空気と言うもの自体がわかっていないというこの時期に、私達は馬鹿も大馬鹿、それは酷い酷い出来の寸劇を繰り広げちゃったのだから。

 原因は、恥ずかしがる夏耶を心のうちで茶化した私にあるのか、それとも周りのコにわかるわけもないのに――私は声に出して言ってないんだから当然なんだけど――それを否定しようとまさかの「マグロじゃない」宣言を堂々と表明した夏耶にあるのかは、誰にもわからない。

 罪悪感を感じるべきなの、かな……?


 てか、わかんないってーーーーーーーーーーーーーーーーーーのっ!!!!!!


 ……なんというかあれですよ。

 やっぱり小難しく語るのは私には似合わない。

 だって、こんなの可愛くないもん。

 うんうん。

 

 なんて、私が初日の登校時よろしくキャラのチェンジを計ったときだった。


「何言ってるの、蒼深さん!」


 困った風に声を少しだけ荒げて、夏耶を咎めたのは担任、美織先生。

 さすがに、あれだけの大事を全て無かったことに――、なんてことはまかり通らない。

 背後霊みたいな何かが時間を吹っ飛ばしてくれればなぁ……。私もそう願わずにはいられなかった。

 だっていくらなんでも恥ずかしすぎるでしょーが。


「え、だ、だって……」


 瞳を潤ませながら、しどろもどろになる夏耶。

 確かに、あれだけ教室中を異様な空間に仕立て上げた後に(しかもその張本人が)もう一度普通に自己紹介を行う、なんてこんな仕打ちはないよね……。

 もう、拷問だもんなぁ……。

 私にはもう、何も出来ない。

 え? だって、何か顔に出したらまたあの心を見透かしたようなツッコミが入るに決まっているもん。

 祟らぬ触りに神なし……。うんうん。

 あれ、神いらぬ、祟りに、触りなし……だったっけ?

 そんなことを思っていると――


「じゃ、蒼深さん、もう一度お願いね。簡単に名前だけで良いんだから、ね?」


 簡単に言えばいいと言うその名前を先生はもう半分言ってしまっているわけだけれど……、なんて、そんな屁理屈はどうでも良いんだよね。要は自分の言葉で、声で、皆に伝えてね、と先生は言っているのだ。


「う……うぅぅぅ、うううううぅぅ……」


 夏耶が涙ぐみ、顔を赤らめながら唸る、そしてゆっくりと立ち上がる。

 壊れかけのサイレンか。

 ――っと、危ない、ついまた顔に出てしまいそうになっちゃった。


『私はレディオでも、サイレンでもないっ!』


 なんて、生まれた時代を勘違いされかねないツッコミをされたらシャレにならない。

 

「……」


 またもだんまりを決め込む夏耶。

 下唇をかんで俯いている様は、いつも可愛い可愛いと茶化す私もさすがに悲痛な何かを感じた。

 あんなことがあったのだ。開き直るか否か、答えは二択。

 超が付くほどの恥ずかしがり屋の頭に浮かんだのは、否、だったようで。

 それでも、言わなければ始まらない、そして終わらない。

 ちらり、と俯いた顔から視線だけが私に向けられた。

 そのかわい――、いやいや、悲痛なまなざしに一瞬助け舟を出しそうになる。いや、出しても良いのだけれど、でもそれって果たして夏耶のためになるのかな?なんて思ってしまうのだ。

 先生が言葉にそんな意味を含ませたように、自分の口で伝えなければいけないんじゃないのかなって、そう思った。たかが自己紹介だけれど。

 だけど、それは公式に、初めてクラスに向けて自らを発信する場であって。

 友達だけれど、親友だけれども手を貸すばかりでは、横に行って夏耶のお尻をバシッと叩いてやるばかりでは、なんだか違う気がするのだ。

 そもそも名前を告げるだけなのだから。

 だけれども、私の親友は極度の上がり症で人見知りで、今はそれが出来ない。


 どうしたら、良いんだろ?

 

 いつの間にかそんな悩みが頭の中をぐるぐると回って、気づけば向けられた視線を受け流すように私は夏耶から視線を外していた。

 しまった、と思ってチラッと夏耶の方を見直してみると、先ほどよりも大きな涙を目に溜めてうなだれている親友の姿がそこにあった。

 手を直接貸すのは何か違う、それはきっと間違った意見じゃない。

 でも、何でこんなにチクチク胸が痛むんだろう。頭をかきむしりたくなるんだろう。

 そんなときだった――

 

「がんばれ、蒼深さん……っ」


 後ろの席から聞こえてきた小さな声。

 囁くように、だけどたしかな意思を感じさせる声。

 秋帆ちゃん――。

 優しいその声に、ぽかりと拳骨で叩かれたような衝撃をうけた。

 どうして、だろう…?

 そして私はふと、気になる。

 あの子はどうしてるだろう。

 夏耶を一目見たそのときから慕っていたあの子は――。

 小さく左に首を動かして、窓側の一番後ろの席を見る。

 未冬ちゃんは、世界を震撼させたポップキングが、墓の前で踊っていたあのダンスさながらの奇妙な動きを見せていた。もちろんふざけているから、ってワケじゃないと思う。彼女なりに何とかしようと、焦っているからに違いない。

 皆が、夏耶に注目していること、そして、未冬ちゃん自身が小柄なせいか立ち上がっているにもかかわらず、全く注目を浴びていないことがなんだかとてもおかしかった。


「ぷ……っ、ぷふふ……っ」


 だ、だめだ、何かツボに、入った……。

 くつくつと方を揺らした私に、


「だ、大丈夫ですか? 種薪さん」


 と秋帆ちゃんが気遣ってくれた。

 左手を軽く掲げ、掌を振って「大丈夫」と伝える。

 まったく、会って1日しか経っていない二人が身を削るほどに心配しているというのに、私ときたら――。

 すとんと腑に落ちる。

 胸を刺していた、小さな小さな針を見つけることが出来た。

 結局さ――

 私は顔をぐしゃぐしゃにして助けを求めている可愛い可愛い親友を、自立を促すためにそのまま放って置く、なんてこと出来ないのだ。

 コレだけ長く付き合ってきたのだ。そう簡単に離れてなんか――やるもんか。

 そして、私は夏耶を見る。

 誰にも見えないけれど、確かに私達だけに通じる絶対のコミュニケーションツール。

 だけど、泣くことに気持ちが向いてしまっているからなのか、夏耶は肩を震わせて俯いたままだ。 


「夏耶……」


 私も秋帆ちゃんの真似をして優しく、だけど確かな意思を込めて呟く。

 さ、さすが未冬ちゃんのように墓前での激しいダンスは出来なかったけど……。

 私達の声に、気づいて、夏耶?

 声に呼応するように、ゆらりと夏耶の濡れた瞳が揺れ、こちらを見る。

 絶対の力が二人の間に働くのを確かに感じた。


『夏耶、手は貸さないよ?

 でも、手を振るから。

 こっちにくれば、わたしと、新しい友達がいる。ね?』


 そんな私の声を聞いて、夏耶は一瞬不安の色を浮かべたけどすぐに目でうなずいた。

 

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