5話 体力テスト
現在時刻8:30。
後数分もすれば、朝のホームルームが始まる時間だ。
そんな中、リモリはと言うと、自分の机の上で干からびていた。
「お腹…空いた。」
朝5時に朝食も摂らずに教室に強制移動させられたリモリは、あれから一切食事を口にしていない。
どうにかして、パン一枚だけでも何か食べようとするリモリを氷川が徹底的に妨害した為、彼の空腹はまだ午前だと言うのに限界に達しようとしていた。
因みに、リモリが空腹に耐えながら、ホームルームの時間まで教室で待機してある間、氷川はリモリの隣の席で、見せ付けるように3枚のトーストにブルーベリージャム、ストロベリージャム、ピーナッツバターを塗りたくった物を食し、喉が乾けば熱々のコーンポタージュを入れた水筒を飲んで、何とも罪深い飯テロを犯していた。
「…ふう、やはり、ジャムもコンポタも無添加の自家製が一番ですね。自ら作った調味料程美味な物はありません。」
どうやら、このジャムもコンポタも氷川が一から自作したものらしい。
そこまでして、嫌がらせを徹底されると被害者のリモリも怒りや苛立ちよりも、感心が勝ってしまう。
「…俺に嫌がらせするためだけに自分で作ったのか?暇なの?」
「自意識過剰も大概にしてください。料理は私の趣味なのです。これは偶々私の料理スキルとあなたへの嫌がらせが噛み合ってしまっただけに過ぎません。」
などと宣っているが、そんな言葉一体誰が信じると言うのだろうか。
「全員席について、私語を慎め。ホームルームの時間だ。」
3時間も隣で飯テロをしてきた氷川と雑談と呼ぶには余りにも、言葉の棘が鋭いやり取りをしている内に、やっとホームルームの時間が訪れた。
「本日は入学二日目と言う訳で、我々教員達がまだ把握仕切れていないお前達の能力を把握するためのカリキュラムを行う。」
教壇の前に立った海澤はリモコンで何かを操作して、黒板に擬態しているモニターに【体力テスト】と言う文字をデカデカと表示させながら、良く通る声で、クラス内の生徒に説明を始める。
「それ即ち、体力テストだ。小中高で誰もがやったことのある生徒達の身体能力を推し測る為のテストだ。普通の学校であれば、ただ運動能力を測るだけで、校内の成績に余り反映されない無意味な行事…要はそこまで重要じゃない。」
「しかし」と付け加えて、海澤はモニターの画面を切り替えて、特殊なデザインのスーツの画像と1~10と記された、成績を十段階評価で評価する評価基準の詳細項目を表示した。
「この養成所では体力テストの結果が校内評価の8割を占める。何故なら将来【D.H.A.O.】として戦う上で欠かせない、この装備…【S.O.スーツ】の使用可能レベルを推し測るための重要な指標になるからだ。」
そう言って、海澤はS.O.スーツの画像を拡張させる。
S.O.とは【Strengthen.Ocean.】の略である。
それから、様々な種類のスーツの画像が横一列に表示させる。
「使用可能レベルとはその名の通り、どれ程のランクのS.O.スーツを装備出来るかの指標だ。今回の体力テストでお前達の身体能力をパワー、スピード、持久力、耐久力、柔軟性、精密動作性の6項目に分けて1~10の十段階評価で格付けする。付けられた評価の総合値によってランク付けされ、装備出来るスーツのランクが変わる。総合評価DならDランク、CならCランクのS.O.スーツまでなら装備可能だ。」
要は自信の肉体強度や身体能力に見合ったS.O.スーツのランクを見極める為の体力テストであり、この評価こそが将来の【D.H.A.O.】隊員としての強さ、優秀さの有望性を指し示す指標なのだ。
「説明はこれで以上だ。ホームルームが終わり次第、早速体力テストを開始する。速やかに体操着に着替えて特別体育館へ移動しろ。」
そう言って海澤は誰よりも早く教室を出て特別体育館への向かった。
特別体育館とは、生徒達が監督教員同伴の時のみ自由に使用できる訓練所とは違い、授業時のみに使用を許されている特別訓練施設である。
「ボサっとしてないで、私達も行きますよ。あなたの様な怪物に隣や後ろを歩かれては他の生徒方が怯えて移動出来ません。誰よりも先んじて行動し、誰よりも先に体育館に着いて待機するのがあなたの義務です。」
氷川にそう言われてリモリは特別体育館へと向かう為、まずは入学前に支給された体操着に着替えに更衣室へと向かう。
ここだけの話、リモリはこの学校の施設を余り把握出来てない為、特別体育館と更衣室の場所は知らない。
故に、こうして氷川に声をかけて貰えたことに密かに感謝の念を抱いていたのであった。
そんな事も露知らず、氷川は絶賛リモリへの嫌がらせのため、更衣室まで無理やり走らせている。
そうして、リモリと氷川は誰よりも早く体育館へ到着するのだった。
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【D.H.A.O.】養成所 特別体育館。
そこには既にAクラスの生徒全員が揃っていた。
「全員、揃っているな。それではこれより体力テストを開始する。出席番号順に開始しろ。」
海澤の号令により、早速体力テストが開始された。
まず、最初の種目は握力測定である。
因みに、リモリは苗字不明であるため、出席番号は最後である。
…そんなこんなで、最初の種目握力測定は何事もなく順調に進む。
気が付けば、氷川の二つ前の主席番号まで、順番が回ってきていた。
「次、名波七海。」
「は、はい…。」
名波七海と呼ばれた生徒…薄紅色の瞳と長い髪を持つ小柄で可愛らしい容姿をした少女が緊張した面持ちで握力測定器を握る。
「んぐ~!っ…29kg。」
見た目通りかなり、華奢で非力な少女のようだ。
「あの子可愛いな…。」
「何ジロジロ見ているんですか?餌の選定ですか?穢らわしい。」
男子なら誰もがする「あの子可愛いくね?」「あの人美人だよな」と言った何気ない会話の一言…のつもりで口にしたのたが、氷川はどうやら、かなりひねくれた解釈をしてしまったらしい。
「餌じゃねえよ!食わねえよ!ただ単純に可愛いと思ったから口にしただけだ。男なら皆やることだよ!」
「【B.U.M.】 のオスにとってはその様な蛮行が日常茶飯事なのですね。大変勉強に成りました。」
リモリがどんなに弁明を図ろうとも、氷川は素直に言葉の意味を捉える気が無いようだ。
氷川の中のリモリに対する好感度が更にマイナスになった…。
「おい!氷川氷織!お前の番だぞ!無駄話をしてないでさっさと測定を始めろ!」
いつの間にか氷川に順番が回って来ていたようで、リモリと無駄話をしていて、一向に計測に来ない氷川を海澤が叱咤した。
「…あなたのせいで怒られました。」
「お前が俺に突っ掛かるのが悪いだろ!」
その様なやり取りをして、氷川はリモリを一睨みした後、急いで握力測定を始める。
「ふっ!…。192kg。」
(化け物かあいつは!?)
リモリが驚くのも無理はない。
氷川が今しがた叩き出した記録は男性の握力世界記録と同じ数値なのだから。
「流石主席だな。この記録に免じて、先程の失態には目を瞑ろう。もう二度とあの様な事が無いようにしろよ。お前は主席なのだから、その自覚を持て。良いな?」
「はい!」
海澤とその様なやり取りをして、氷川はリモリの元へ戻ってくる。
「凄いな…192kgってゴリラじゃん。」
「…誉め言葉としての受け取っておきます。それよりもそろそろあなたの番ですよ。せいぜい恥をさらさないように頑張って下さい。」
「…へいへい。」
次は主席番号最後、リモリの番である。
「次はリモリか。握力測定器の使い方は分かるか?」
「俺を原始人か何かだと思ってる?」
実際、この時代の人間からすれば似たような物であるが、そこには敢えて触れないでおこう。
「これ握れば良いんだろ。ふんっ!……えーと…200ジャストか…。俺の方がゴリラじゃん。」
リモリの記録は200kg。
世界記録を8kgも更新した新記録である。
「…よし。握力は全員測定し終わったな。さっさと次の種目に移れ。」
握力測定が無事終了し、続いて次の種目の測定に入る。
次は砲丸投げだ。
これも順調に進み、あっという間に氷川の一つ前の生徒まで順番が回ってくる。
「次、成海鳴海。」
「おう!」
名前を呼ばれて、元気良くフランクに答えた生徒 成海鳴海は金髪と黒髪のツーブロックに大量のピアスを開けた派手な見た目のチンピラの様な容姿をした身長の高い青年だった。
「宇宙まで、かっ飛ばしてやるぜ!」
その独特な掛け声と共に成海鳴海は砲丸を全力で投げる。
ふざけた容姿と態度とは裏腹に実力がかなり高いのか、投げられた砲丸はまるでホームランを打たれた野球ボールのように、どんどん飛距離を伸ばして行った。
「イケイケ!どんどん伸びろ!前代未聞の記録を叩き出して、この俺を目立たせろ!」
この言動と見た目でこの場の全員が理解した。
(((((((((((あっこいつ目立ちたがり屋だ)))))))))))と…。
「成海鳴海 記録…20m56。世界記録に一歩届かなかったな。」
「くそう!」
本人はかなり悔しそうであるが、砲丸投げ20mはオリンピックで十分メダルを狙える程の好記録である。
「次、氷川氷織。」
「はい!」
続いては氷川の砲丸投げだ。
氷川は砲丸を手に持ち、まるで野球ボールを投げるかのように軽々と投げた。
投げられた砲丸は成海鳴海の時よりも僅かに記録を伸ばして…。
「氷川氷織 記録…23m56。」
世界記録を叩き出した。
「くそ!主席がぁ~!また、俺よりも目立ちやがって!」
自分よりも高い記録を叩き出した氷川に成海は相当悔しそうに地団駄を踏んでいる。
目立ちたがり屋の性格に相応しく、一際目立つ容姿と特質した能力を持つ彼は、それ相応にプライドが高いようだ。
「最後、リモリ。」
「ほ~い。」
気の抜けた返事をして現れたのは主席番号最後尾のリモリ。
彼は重力を感じさせない動きで砲丸を思い切り投げる。
ボウッ!と砲丸投げでは中々聞けない、風を切る様な音を立てて、リモリの砲丸は成海よりも氷川よりも遠くまで飛んで行った。
「リモリ記録…30m。また世界記録更新だな。」
「よっしゃ!世界チョロ~。」
それから、Aクラスはどんどん、様々な種目をこなしていった。
持久走、50m走、長座対前屈、立ち幅跳び、立ち高跳び、反復横飛び、上体起こし、それからこの養成所特有の種目、パンチングマシン、砲弾受けetc 。
砲弾受けとは実際に砲弾を受けて防御力を測る種目である。
最初は弱い威力を受け、まだ耐えられそうなら更に強く、まだ耐えられそうならもっと威力を強くして、どこまで耐えられるかを測定する競技である。
「これで、全種目オールクリアだ。お疲れ様。早速お前達の記録をまとめて各々の総合評価を出力しておいた。今から出席番号順に渡すので呼ばれたら来い。」
そう言って、海澤は今回の体力テストの結果から割り出された成績表…もといS. O.スーツ着用の上で目安となる総合評価が記されたプリントを全員に渡す。
「全員の手に渡ったな。この成績表の内容は個人情報になるからな。無暗に人に見せたり、人の物を見たりするなよ。」
そう言われて、Aクラスの全員は一斉に自分の成績表に目を通す。
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リモリ
パワー:7
スピード:7
持久力:6
耐久力:6
柔軟性:5
精密動作性:5
総合評価:6
ランク:A
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「ランクAですか…。つまらないですね。」
「っ勝手に見んなよ!」
先程、海澤から人の成績表を見るなと言われていのにも関わらず、氷川はナチュラルにリモリの成績表を盗み見てきた。
「お前のも見せろ!」
「嫌ですよ。プライバシーの侵害です。」
自分は人のを見たのに自分は嫌だと拒絶する。
自己中心的な人間の典型例である。
「そこ!成績表を見せ会うなと言ったばかりだろ!後で職員室へ来い!」
悪い行いには当然因果応報と言うものがある。
氷川は先程海澤に言われていた、「人の成績表を見るな」と言うと言う言葉を無視し、リモリの成績表を見た事で、その報いを受けた。
当然の結果である。
しかし、唯一解せないのは被害者である筈のリモリまで巻き込まれて説教を食らう羽目になってしまったことだ…。
「あなたのせいでまた怒られてしまいました。」
「お前のせいだよ!」
十段階評価詳細
F:1.0~1.9
E:2.0~2.9
D:3.0~3.9
C:4.0~4.9
B:5.0~5.9
A:6.0~6.9
S:7.0~7.9
SS:8.0~8.9
SSS:9.0~9.9
EX:10.0




