第5話 事件勃発
いつもより少し長いです
みんなの表情が強張る。
千春はこんなに真剣な表情になった生徒会メンバーを見たことがない。
いつもはもっとのほほんと、のんびりとしていて、私は調子に乗ってくる狩矢を殴ったり、飛びかかってくる狩矢を蹴っ飛ばしたり、そしてそれを、楽しんでいるのか?あおるかのように石原先輩のエール、そして、会長はまったく我関せず、といわんばかりにいつもの定位置でどこから出してきたのか?紅茶をたしなんでいるのが日課だった。
正直私は会長に「イツニナッタラセイトカイノシゴトヲスルンデスカ?」と問い詰めようと思ったのは一度や二度じゃない。
でも、ようやく、生徒会の仕事が始まるんだ。そう思うと、千春は緊張するとともに高揚する気持ちをおさえられずにいた...っていうか...生徒会の仕事ってこんなんだったっけ?...なんか私のイメージと違う気が...
「さて、なにをどう話したらいいものでしょうか?」
とか思っていたら会長が人差し指を口に当てていきなり口をつむんだ。
「なんやそれ、しょっぱなからつまづいてどうすんねん、って言うか会議なんやろ?しかも緊急なんやろ?異能関連のこととちゃうんかいな?」
石原先輩が文句を言う。...正直私も文句を言いたい...なんだか緊張が一気に冷めてしまった。
それを聞いた会長はうれしそうに胸の前で両手をパンッっと叩いて。
「そうそう、それなんです、実は異能関連のことなんですよ」
「いや、そんなことは皆予測しとるっちゅーねん、ええから早く本題入ったってや」
「そうですよ、会長、そろそろ暗くなってきます。早く進めないと夜中になってしまいますよ」
と、ここで今まで大人しくしていた狩矢も参戦した。...あれれ?なんだか狩矢がまともだ...
「ううう、千春さん、皆さんのこの仕打ちをどう思いますか?」
手の甲を目元に当ててさめざめと泣く会長を見て、千春の会長=完璧超人のイメージがガラガラと音を立てて崩れてゆくのを感じた。
「ええからはよせんかい」
石原先輩がきれた。
「は、はい、すみませんでした」
あれ?どっちが会長だったっけ?
「こほん、えー、石原さんが言ったように今回の会議は異能力者に関することです」
ようやく進みはじめた会議の内容に今度こそ皆の表情が引き締まった。
「今回は高等部の生徒ではなく、中等部の生徒なのですが、ある生徒に異能力の覚醒の兆候があると、先生から連絡を受けました」
皆の顔にさらに緊張が走った。
「何年何組の生徒ですか?その生徒の名前は?」とここで狩矢。
「学年は2年生のC組の生徒、名前は遠藤真奈さんと言います」
とここでつい私は声を上げてしまった。
「真奈?女子生徒なんですか?」
「そのとおりです、千春さん、もしかしてお知り合いですか?」
「あ、いえ、知り合いとかではないです」
真奈という名前には全然心当たりがない。ただ、ほんの2週間ほど前も私が学校で騒ぎを起こしてしまったばかりだ。あの時の記憶と恐怖は今でも鮮明に残っている。その真奈という女子生徒もきっと今、多大な不安にとらえられているはず、力になってあげたい、能力が暴走する前になんとしてでも止めてあげたい。私のように手遅れになってしまう前に...同じ立場として。
「千春さん、よろしいですか?」
「は、はい、すみませんでした」
「では続けます、彼女に関してはまだ、わかっていないことが多いのです、なにぶん今日起こったことですので」
「じゃあ、能力とかもまだわかってへんの?勘違いとかあらへんの?」と石原先輩が至極当然な疑問を述べる。
「はい、まだ詳しいことはなにもわかっていません、ただ、先生の話によれば、授業中に近くにいた生徒が急に気を失った、との話ですが」
「なんやそれ、そんなもん、貧血かなんかで倒れたんやないんか?授業中に体調不良になる奴なんてそれほど珍しいもんやないで」
「石原さんの言うとおりですね、ですがそれが複数の生徒が同時に気を失った、となればどうでしょう?」
「あ~、めったにないかもな、というかまずないやろな~」
「そのとおり、まずないことだと思います、よって、彼女は異能力者になる兆候が現れたと見てまず間違いないと思います」
「ちょっと待ってください」狩矢が反論した。「その気絶した生徒にもその時の状況などを聞いたのですか?ほかの可能性は考えられませんか?まだ彼女が異能力者だと決め付けるのは早いのではないですか?」
狩矢の反論は正しいといえる。良くも悪くもこの学校では異能力者は特別な存在だ。ある意味生徒達のあこがれでもあり、また、うとましい存在でもある。
特にまだコントロールもままならない初期の段階ではそれこそ恐怖の対象でしかない。
つまり私たちは彼女にこう言わなくてはいけないのだ。...明日から人に会うな、特別教室にこもりなさいと。
もちろん特別教室にこもったら人に会うことはおろか、しばらく家に帰ることも出来ない。
そして、特別教室にこもった時点で彼女は能力者だと全校生徒に宣伝してしまうようなものだ。たとえそうでなくても、彼女のクラスには伝わってしまうだろう、何しろすでに被害者がいるのだから。
そこまでして、実は私たち生徒会の勘違いでした。では、私たち生徒会の名誉が傷つくだけではなく、彼女自身の人間関係にも大きな影響を及ぼしてしまうことは想像に難くない。(もちろん悪い意味で)
よって、能力者だと決め付けることは最終的な結論であって、まずはそれ以外のあらゆる可能性を考察するべきなのだ。...だが
「確かに、狩矢さんのいうとおり決め付けるのには早いのかもしれません、ですが、すでにもう被害者と思われる方は出てしまっているのです。それにその方たちはいまだに目を覚ましていません。彼女の能力は相当危険なものであると思われます。
彼女にとって異能力者のレッテルを貼られることは相当の苦痛なのかもしれませんが、でも、しばらく様子見をして、万が一彼女のクラスメイトを傷つけてしまう事態になれば、彼女はそれ以上に傷つくことになるとおもいます」
その気持ちはよくわかる、私も異能力者であることと過去の事件がゆえにクラスでは浮いた存在になってしまっていたし、今でもそうだから。だからこそ、絶対に助けたい。
「わかりました」狩矢がうなだれて折れた。
「ほなきまりやな、じゃあ早速その真奈ちゃんに会いに行こうやないか」
石原先輩が時間が惜しいといわんばかりに早速席を立とうとしたその時。
「あ、待ってください」会長が石原先輩を制した。
「なんや、まだなにかあるんかいな?」
「はい、実はまだ、もうひとつ議題があるんです」
会長は少し頭を下げて言った。
「実は今回の会議は本来はこちらが本題なのです」
会長の言葉に皆の顔が最初よりもさらに強張った
ようやくストーリが進みだしました。