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カフェ ~告白

作者: 時司 龍
掲載日:2026/02/21

 彩は、大樹のタブレットを示す指が綺麗だなと見入った。小指の指輪、可愛いなとか。



「注文何にする? 俺コーヒーね。最近ブラックの良さがわかったんだあ」

「あ、だ・・・」


 大樹と言いかける。いつもと違う場所と雰囲気につられそうになる。心の中で呼んでいるだけで、会社の他の人のように大樹と下の名前で呼んだ事はない。


「・・・佐藤くんと同じもので」


 聞いた事があるようなクラシックの曲が流れていた。


「ねぇ・・・」


 タブレットから視線を上げる。正面から視線がぶつかって、思わずそらす。大きい瞳に吸い込まれそうで、なんでも『うん』って言ってしまうかもしれない。何を言われるかわからないほど鈍感ではないつもりだ。


 大樹はいつものスーツと違って、シャツのボタンは上まできっちり留めていない。鎖骨がちらっと見えて。慌ててそこから視線を外して。

 大樹のハーフアップの毛先がぴょこぴょこはねているのが、ちょっと可愛い。


「彩ちゃん、この髪型すきだよねぇ」


 また目線が合う。大樹は猫みたいに笑った。

 見透かされている。断然、場数が違うのだろう。男性と向かい合わせて座るなんて、仕事以外でいつ以来? 多分赤面しているだろう自覚はある。


「だから、今日この髪型にしてきたんだよねえ」

「・・・はい」



「お待たせしました」

 店員さんがコーヒーを2つテーブルに置いた。

「ありがとうございます」

 大樹は自然な感じで言う。

 彩はその対応が素敵だなって思った。客先でも普段から丁寧な感じだけれど。



 大樹はミルクピッチャーを摘まんで、そっと戻して、コーヒーカップを持ち上げた。一口飲む。

 その口元にも、つい視線を合わせてしまう。きゅっと口角があがっていて、若いっていいなあ。3歳違うだけだけど。たった3歳? それとも3歳も?


「単刀直入に聞いちゃうけど、今日、来てくれたって事は、俺と付き合ってもいいって事だよね」


 いいって言いたい。

 正直、格好いい人だと思う。待ち合わせ場所に立っていた大樹の立ち姿も綺麗だった。こうやって座っていても、時々他の席の女性がちらっと見ている。目立つ髪色のせいもあるだろうけれど。

 細身でバランスがいいのだと思う。顔とか肩幅とか・・・自分より小さい気もする。

 

 お願いしますって言いたい。

 男性としては低めの身長の大樹が、女としては大きい自分にこんな事を言うのも凄く勇気が必要だったと思う。並んだら、確実に自分の方が大きい・・・。ヒールのせいだと思いたいけれど、それだけじゃない。


 付き合ってほしい。何も考えずに言いたい。

 でも。

 自分は3歳年上だ。それくらいの差は気にしないと言われればそうだが。結婚もしたい。子供も欲しい。親世代と違って、最近はまだ大丈夫というかもしれないけど、それでも限界はある。

 もう3歳若かったらな、って。

 今から付き合い始めて、数年付き合って結婚って何年後? 

 やっぱり別れるってなって、別の人と数年付き合って・・・結婚できる? 子供は?

 現実。

 更に、大樹は友達が多い。男友達も女友達も。友達が多い事のどこが悪いのって言う人もいるだろうけど。その距離感って個人で随分違う。

 大樹とも随分違うと感じていた。



「・・・あの、そう言ってもらえてすごく嬉しいです」



 彩は自分の脈拍が早くなっているのを感じた。こんな風に言われたのは、人生初。恋人だって、学生時代のおままごとみたいなのを除けば、いた事はない。



 すごく嬉しい。



「じゃあ」


大樹は満面の笑みを浮かべた。


「でもっ」


 彩は声をあげた。実際は小さい声しか出なかったけど。


「嬉しいですけどっ。価値観が違うからっ、お互い嫌な思いをすると思う」

 早口で。



「何それ?」



 初めて聞く、大樹の低い声。

 大樹の目を見られない。

 見られないけど。

 目線を上げる。大樹のにやりと笑った口元。少し怖い。怖い顔をさせているのは自分。

 ここまで言った。言ったなら、最後まできちんと言わないとダメだ。きちんと振られよう。そうじゃないと、引きずる。ああ言えばよかった、こう言った方がよかったって、後々まで思い出す。

 

 絶対。


 明日から、会社で顔を合わすのは気まずくなるかもしれないけど。元々、自分は会社でプライベートを持ち込まないし。個人的な飲み会も行かない方だから、大丈夫。



 大丈夫。



「恋人がいるのに、女友達と2人でゴハンいったり、買い物に行ったりは嫌です」



 言う。

 大樹の友達が多いのは知っている。男友達だけじゃなく女友達も。スノボやキャンプに行ったり。想定より遅くなって真夜中に帰ってきた・・・なんて、会社で話しているのを聞いた事もある。泊りで温泉に行った事があるのも知っている。


「それだけ?」

「・・・それから、女の子もいて、何人かで遊びに行くのはいいけど。そこで女の子と手を繋いでいたり・・・」

「こんな風に?」


 大樹が、手を掴む。いつの間にか握りしめていた指を両手でときほぐして、恋人繋ぎのように指を絡める。


 絶対、赤面している。でも負けない。


「・・・肩寄せてくっついていたり、ハグしたり・・・も嫌です」


 インスタにあげているから知っているし。実際見た事もある。


「佐藤くん」


 大樹と言いそうになって、今度は大丈夫。普段呼んでいる苗字呼びにちゃんとなってる。気づかれてる? 気づかれてない。まだ大丈夫。


「佐藤くん。そういう風に友達といる人でしょう」


 言い切った。

 大丈夫。

 目線を上げる。

 大樹は泣き笑いのような、作り笑顔を浮かべていた。


「それ、しなかったら。・・・彼女になってくれる?」


 大樹の指に力が入った。



「普段している行動を我慢してまで、付き合うのは違うと思う」


 そっと手を引く。

 絡められていた指は案外素直に離れる。

 


 彩はぬるくなったコーヒーを一口飲んだ。


読んでくださってありがとうございます(*_ _)

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