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8、少年窃盗団

最終話まで毎日17時に更新します。全18話。

「高校生の集団窃盗か……」

 俺はスマホでニュースサイトを眺めながら、そう呟いた。

 修学旅行先の海外で、集団窃盗を行った高校生3人の動画が出回っているらしい。

 俺はそのまま、動画投稿サイトを確認する。

 映っていたのは、外国人向け土産物店の防犯カメラの映像だった。

 音声も、はっきりと記録されている。

 映像では、3人のうち1人が店員に話しかけ、値段交渉を始める。

 その隙に、2人が持参した大きなバッグへ、店頭の商品を次々と詰め込んでいった。

 バッグは、みるみるうちに土産物で膨れ上がる。

 さすがに異変を感じた店員は、2人に声をかけようとしたが、その瞬間、最初に話しかけていた壁役が、さらに店員を引き止めた。

 値引き交渉に見せかけ、店員が足止めされているうちに、バッグにひとしきり商品を詰め終えた2人は何事もなかったかのように店を出ていった。

 動画の音声からは、盗む商品の指示まで聞き取れた。

 どうやら片っ端から、衝動的に盗んでいたわけではなく、あらかじめ選別して盗んでいたようだった。


 俺は、彼ら3人に対する日本国民の評価を探った。

 次の瞬間、頭の中に国民の感情が流れ込んでくる。

 やはり多いのは、罪に対しての懲罰感情と、これまで日本人が海外で積み上げてきた信用を、一瞬で崩したことへの憤りだった。

 俺は念のため、他校の修学旅行でも同様の問題が起きていないか、日本のアーカイブにアクセスした。

 これは、日本人すべての記憶と経験が、日本の国土や空間に刻み込まれた、いわば”国の記憶”だ。

 その全てを参照するには、あまりにも膨大な量だったため、慣れていない俺は、最小限の範囲に絞った。

 結果としては数年に一度、万引きや迷惑行為が散発的に起きているようだった。

 だが今回のように、防犯カメラに長時間記録され、それが世界に拡散された例はない。

 しかも今回は、少年3人による手慣れた連携による窃盗だ。

 その点から、多くの日本人が「高校の近隣で、常習的にやっていたのではないか」との推測をしている。

 

 俺は高校周辺に絞って、アーカイブを参照した。

 予想通りだった。

 この3人は、高校入学後、軽いノリで、周辺のとある店から小さな物を盗むことから始めている。

 最初は、ほんの出来心だった。

 だが3人の連携が思いのほかうまくいき、バレなかったことで、それは罪悪感を含むドキドキから「楽しさ」へと変わっていった。

 それは彼らの記憶が、はっきりと語っている。

 欲しいものが、何の代償もなく次々と手に入る快感――それはまさに「ゲーム」だった。

 やがて、ゲームのキャラクターが成長のため強い敵を追い求めるように、周辺の店だけでは満足できなくなる。

 電車や自転車を使い、遠出をして、大型の商業施設でも同じことを繰り返すようになった。

 しかしこの辺りから、刺激的だったはずの集団窃盗が、次第に日常へと変化していく。

 いわば「カンスト」だ。

 刺激は薄れ、欲しいものは「盗むのが当たり前」という感覚になる。

 いつしか彼らは、金を払って商品を手に入れる行為そのものを、馬鹿らしいという感じるようになっていった。

 

 さらに修学旅行の前日。

 3人は集まり、少し興奮気味に、

 ――俺たちもようやく海外デビューだな。

 などと笑い合う。

 彼らにとっては、未開放エリアの解除に等しかった。

 訪問予定の店をネットで調べ、役割分担を決める。

 そしてどうやって店員を引き付けるかの、シミュレーションを何度も行った。

 それは彼らにとって、ゲームの戦術と何ら変わらないものであり、もはや窃盗団としての計画そのものだった。

 

 そして帰国後。

 全世界に、彼らの集団窃盗の動画が拡散された。

 リーダー格の少年は、カメラに気づいていたが、ダミーだろうと高を括っていた。

 自分たちの顔と声が晒され、それが決して消えることのない記録となったとき、3人はようやく事の重大性を理解する。

 今、彼らの心の大部分を占めているのは、家族や友人の信用を失った現実。

 周囲の視線への恐怖。

 そして未来が完全に閉ざされたことによる絶望感だった。

 俺は思う。

 これは、彼らが積み重ねてきたことへの”世界からの回答”だと。

 

 と、俺の感想だけならここで終わりで、勝手に後悔してくれと思うだけだ。

 だが、俺は管理者だ。

 海外からの、日本人への信頼を貶めた罪は重い。

 なにより、国民感情がこの3人を処罰せよという方向に、はっきりと傾いている。

 俺はそっと目を閉じ、日本のシステムにアクセスする。

 未成年である以上、親の教育責任も問われる。

 この3人の1親等、つまり父親と母親も、同罪とした。

 具体的には、3家族分の金融資産をすべて没収する。


 銀行口座の残高だけでなく、株や投資信託などの金融商品も強制的に売却し、その益は没収。

 財布の中の紙幣や硬貨は、地球に還元させ、その「数字」だけを回収した。

 管理者権限の前では、どんなパスワードも、暗証番号も、パスキーも、物理的な金庫ですら意味を持たない。

 一瞬で、すべてを没収できる。

 こうして集まった金額は、3家族分でおよそ5000万円。

 俺はその全額を、被害に遭ったすべての店へ分配した。

 とくに海外の店には、日本側の責任を明確にする意味も込め、手厚く約1000万円ほどを振り込む。

 そして店主のスマホへ、俺は、謝罪文をメールで送った。


 一連の作業を終えたあと、俺はこの3人の様子を確かめるため、リーダー格の少年の自宅近くへ飛んだ。

 システムを介せば、部屋にいながらでも状況は把握できる。

 だが、俺はこの目で見届ける義務があるように感じた。

 自分の部屋の中で、目を閉じ、行きたい場所を思い浮かべる。

 すると次の瞬間、リーダー格の少年の家の前に、俺は立っている。

 玄関に鍵がかかっているが、ドアに触れることなく解錠し家に入った。 

 意識操作により、住人が俺の姿を目で捉えていても存在は認識できないようにした。

 俺は床が汚れないように数センチだけ浮くと、靴は脱がずにそのまま家に上がる。

 中に入ると、真っ先に目に飛び込んできたのは、リビングで頭を抱える少年の父親と母親の姿だった。


「なんでだ……なんで、こんなことになった……」

 父親は何度も、同じことを言ったあと、顔を上げると、母親に向かって、

「お前の教育が悪いから、こんなことになったんだろうが!」

 そう怒鳴りつけた。

 母親はうつむいたまま、何も言い返さない。

 いや、何かを言う気力すら残っていないようだった。

 父親は座ったまま2階を見上げ、吐き捨てるように言う。

「あのバカが、とんでもないことをしたせいで、俺たち家族は地獄行きだ。これから、どんな顔をして会社に行けっていうんだ」

 母親は静かに立ち上がり、ぽつりとつぶやいた。

「……買い物に行ってくる」

 引き出しから財布を取り出し、何気なく手に取ると、何かの異変を感じて母親の動きが一瞬止まった。

 そして財布の中を慌てて確認すると、悲鳴をあげた。

「ない……! お金がない! あなた、1円も入ってない!」

 母親は慌てふためき、震える手で財布の中身を見せる。

 それを見た父親の表情が歪んだ。

 そして母親に何も言わず、2階へと駆け上がっていった。


 ――ドン!

 大きな音と振動が家全体を揺らし、続いて、少年の悲鳴が響く。

「ちがう! 俺じゃない! 父さん信じて!」

「お前以外誰が、財布の中身を盗むんだ!」

 母親を見ると、両手で顔を覆い、声を殺して泣いていた。

 しばらくして、2階から続く物音と怒号に耐えきれなくなったのか、母親は涙を拭き、空っぽの財布を握りしめたまま、何も言わず家を出ていった。

 母親はマスクをつけ、終始うつむき加減で、人に顔を見られないようにしながら、どこかへ向かっていた。

 しばらく歩いたあと、家から少し離れたコンビニに入ると、ATMの前に立つ。

 銀行のカードを差し込んだ次の瞬間、彼女の目は見開かれ、画面を凝視したまま動かなくなった。

 表示されている残高は、ゼロ。

 彼女は何度もカードを差し込み、残高確認を繰り返す。

 数回試したあと、ようやく現実を受け止めたのか、肩を落として帰路についた。

 だが家に戻ると、今度は家中のカードをかき集めると、再びコンビニへと向かった。


 結果は同じだった。

 どのカードも、残高はゼロ。

 母親は焦りながらコンビニを出て、スマホを取り出す。

 投資アプリを立ち上げ、資産を確認した瞬間、その場で膝から崩れ落ちた。

 そこに、血相を変えた父親が通りかかる。

 家に母親がいないことに気づき、探しに来たのだ。

 肩を抱きかかえられた母親は、うわ言のように何度もつぶやいていた。

「お金……私たちのお金……全部……」

 父親は母親を支えながら、なんとか家に連れ帰る。


 母親から詳しい事情を聞くと、今度は自分のカードをすべて持ち、コンビニのATMへ向かった。

 これも結果は同じだった。

 全ての残高が、ゼロ。

 若い頃からコツコツ買い集めてきた株も、跡形もなくなっている。

 そこには売買履歴だけが、虚しく映っていた。


「なんで……こんなことに……」

 リビングで抱き合い泣き崩れる両親を前に、腫れ上がった少年の目からは、もう涙すら出なかった。


 俺はその家を後にすると、残りの2軒も回った。

 どちらの家庭もだいたい同じ様子で、違っていたのは、最後の家では少年が父親と兄に、ボコボコに殴られていたということだけだ。

 

 それから俺は、アパートの2階にある自分の部屋に戻ると、スマホを開きニュースをチェックした。

 そこには、送金した海外の店の店主が、困惑しながらも喜びの声を上げている様子が映っていた。

 盗みを働いた少年たちの3家族とは、あまりにも対照的な光景だ。

 だが俺は、あの3家族のすべての希望を奪ったわけではない。

 なぜなら俺は管理者だからだ。

 目的は、報復ではなく戒め。

 そして、国民の溜飲を下げること。

 だから父親たちの給料は、来月から元通り振り込まれる。

 クレジットカードも止めてはいない。

 ただ、この件は少なからずネット記事になるだろう。

 そして、それを目にした人々の、戒めとなる。

 そう祈りを込め、俺は今回の件を、これで終了とした。


 俺はスマホを机の上に置くと、鍵をかけず家を出る。

 そして、いつもの階段を下った。

 管理者の朝は早い。

 今日も日本の調整のため、俺は歩き出す。


万引きやイジメという言葉を死語にしたいものです。

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