表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

ラストエピソード、これから日本を始める

最終話まで毎日17時に更新します。全18話。

『見回り1名と連絡が取れない。十分に警戒されたし』

 インカムで通信しながら、黒いスーツの男が慌ただしく階段を下りてくる。

 廊下を進む俺と、ちょうど鉢合わせになった。

 男は驚いた表情を一瞬見せたが、すぐにナイフを抜く。


『き……ッ!』

 大声を上げようとしたが、即座にログアウトした。

 こいつら黒いスーツの集団は、日本国内で犯罪行為を繰り返し、それを公使の圧力でもみ消してきた。

 だが、最初の男とグァンだけは違っていた。

 彼らは、生き延びるために犯罪に手を染めるしかなく、罪悪感と倫理観は、まだ死んでなかった。

 だから俺はログアウトせず、チャンスを与えた。


 階段に身をあずけるように倒れた男を横目に、俺はさらに廊下を進んでいく。

 廊下は右へ折れており、そのまま角を曲がる。

 すると左手に大きな窓があり、その窓越しに庭が見え、右手には8枚のふすまがあった。

 そのふすまの真ん中の2枚のところに、黒いスーツの男が2名立っている。

 俺は止まることなく、進み続けた。

 片方の男が、廊下を進む俺に気づき、ナイフを抜いて、

「止まれ!」

と、日本語で叫んだ。

 だが、言い終わると同時にその場に倒れ、動かなくなった。

 もう片方の男は、あせったようにふすまに手をかけたが、開けることなく崩れ落ち、動かなくなった。

 倒れた物音で、中から誰かがふすまを開けた。


 俺はそのまま、まっすぐ廊下を歩いていき、開いたふすまの前で直角に右を向く。

 そこは、10畳と8畳の二間続きの和室だった。

 奥には、邦蔵と参照できなかった2名がいる。

 だが、上座に座っていたのは邦蔵ではなく、その2名だった。

 邦蔵は下座寄りに座り、ふすまの前で倒れた2人の護衛と俺とを、怯えた表情で交互に見ていた。

 俺は廊下から和室へ、足を踏み入れる。

 一歩踏み出した途端、両脇のふすまの死角からナイフが襲いかかってきた。

 1つは俺の左側頭部へ、もう1つは右の太ももへ。

 刃先はなんの抵抗もなく、俺の頭とふとももに突き立てられた。

「ひっ……」

 邦蔵は、小さな悲鳴を漏らす。

 だが、それとは対照的に、上座の2人はニヤリと笑った。


 それから2名の黒スーツは、刺さったナイフを引き抜こうとしたが、ぴくりとも動かない。

 2人はナイフの柄から手を離すと、特殊警棒を伸ばし、容赦なく俺の顔面や頭部に打ち下ろした。

『いいぞ! やれ!』

 上座の2人は興奮した様子で囃し立てる。

 俺はナイフが2本刺さったまま、警棒での打撃を甘んじて受けていた。

 しかし、警棒はすぐに折れ曲がり、使い物にならなくなる。


 一向に倒れない俺の姿を見て、上座の2人の表情は徐々に焦りに変わっていく。

『何をしている! さっさと倒せ!』

 怒鳴りつけられた黒いスーツの2人は、ポケットからタクティカルペンを取り出す。

 これはアルミ合金やチタンなどでできたペンで、関節技や打撃に用いられる護身具だ。

 だが、いまさらそんなものが通用するはずもなく、彼らの武器が枯渇したことを示すだけだった。

 次の瞬間、2人はペンを握りしめたまま畳の上に倒れ、動かなくなった。

 それを見た上座の2名が、逃げるために慌てて立ち上がろうとした。


 だが――

「動くな」

 俺がそう告げると、2人は中腰の姿勢のまま、その動きを止めた。

 邦蔵は正座を崩さぬまま、その様子をじっと見つめている。

 俺は右腕を伸ばし、邦蔵の前で手のひらを見せ、そのまま静かに握った。

 次の瞬間、俺の体に突き立っているナイフと、畳の上に転がっている黒いスーツの男たちは、跡形もなく消え去った。

 俺は邦蔵へ問いかける。

「わかっているな」


 邦蔵は何かを悟ったように静かにうなずくと、俺の目をまっすぐ見返した。

「じゃが……佳奈だけは助けてほしい。わしの孫というだけで、あの子は……」

「安心しろ。実家に送った」

 その言葉で、邦蔵の目がまんまるになり、安堵のため息をついた。

「立て。お前の最後の仕事だ」

 俺がそう告げると、邦蔵はゆっくりと立ち上がった。

 そして、キッチンの方を向いて一度だけ深々と頭を下げた。


 声を出すことすら許されていない上座の2名が、必死で何かを訴えようとしている。

 そこで俺は、「話すことだけ」を許可した。

 すると、2人の口をついて出たのは、助けてくれればなんでも望むものを与えてやる、お前の顔は覚えた、家族ごと世の中から消してやる――

 そんな言葉ばかりだった。

 俺は短く答えた。

「そうか」

 それが、彼ら2人が聞いた、人生最後の言葉だった。


 ――俺と邦蔵は、JNBの生放送中のスタジオへ飛ぶ。

 全国放送のカメラの前に、JNB会長と、得体のしれない男が突如ニュースキャスターの前に現れたのだ。

 ニュースキャスターを含め、スタジオ内は一瞬で騒然となった。

 だが、人間から見れば、さらに不可解な現象が起きているはずだ。

 俺の姿を画面越し、あるいは直接目視しているにも関わらず、顔だけが全く認識できないという現象だ。

 これは、俺の管理権限が及ぶ日本国内のみに適用される制限であり、俺の顔はモヤがかかったように認識できなくなる。

 そして―― 

 放送も中断できない。

 なぜなら、このスタジオ内のすべての人間の行動に制限をかけたからだ。


「さあ、話せ」

 俺は、唯一制限をかけていない邦蔵にそう促す。

 邦蔵は直立不動で、テレビカメラのレンズを見つめると、ポツポツと語り始めた。


 JNBが、外国勢力に有利となる放送を行ってきたこと。

 特定の国の外国人アーティストを、不自然なほど優遇してきたこと。 

 歴代の重役の家族が、外国勢力に囚われていたこと。

 職員の中に、監視役として特定の国の人間が多数在籍していること。


 ――そして、JNBが長年にわたり行ってきた、数々の反日的行為。


 すべてを語り終えると、邦蔵は最後にカメラへ向かって深々と頭を下げた。

「日本国民のみなさまに、私を含め、JNB全職員が多大なるご迷惑をおかけしましたこと、心より、お詫び申し上げます」

 そして邦蔵は、そのまま頭を上げることはなく、前のめりに床に倒れた。


 俺は、それに目を向けず、カメラに向かって口を開く。

「これは始まりに過ぎない」

 スタジオ内の全員が、体が動かない中、視線だけを俺に向け神経を集中していた。


「俺は日本の管理者――ログアウターだ。日本を害する行為は、今後一切、許さない」

 空気は俺の言葉により、さらに張り詰める。


「俺の手により、これから日本を始める」


 次の瞬間、スタジオ内のすべての電源が落ち、放送は強制的に終了した。

 それと同時に、全員の制限が解除される。

 やがてスタジオ内に明かりが灯ると、そこには、冷たくなった邦蔵の遺体が横たわっていた。

 


 ――次の日、俺は自分の部屋でネットニュースを見ていた。

「JNB会長。死の間際にカメラの前で激白」

 このような見出しで、様々な人により検証がなされ、国会議員をも巻き込み大問題に発展しようとしている。

 さらに別の見出しでは、

「体調不良でサマーフェス欠席。P@stAのピンピンが、海外の番組で奇跡的に復活。仮病だったのか!?」

というものがあった。

 彼女にかけた制限は日本国内だけだ。

 これでもう二度と日本に来ようとは思わないだろう。

 そして次の見出しでは、

「顔が見えない。自称”日本の管理者、ログアウター”とは?」

 俺の話題だった。

 俺はスマホを机の上に置き、自宅の鍵をかけず、家を出ると、いつもの階段を下る。


 以前の俺のような、社会にすり潰される人間を少しでも減らし、日本を正常な状態に戻すため、今日も俺は歩き出す。


ここまで読んでくださったみなさん、ありがとうございました。

他にもまだ書きたいものがありますので、完結させたらまた投稿しようと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ