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13/18

13、メッセンジャー

最終話まで毎日17時に更新します。全18話。

 男は弾を打ち尽くすと、ショットガンも床に投げ捨て、今度は壁にかけられた拳銃へと手を伸ばした。


「ストップ」

 俺がそう言った瞬間、男は壁に手を伸ばした姿勢のまま、ぴたりと動きを止めた。

 同時に、ドアの前の3人も同じように固まる。

「もういい。見ろ、これを」

 俺の目の前には、空中で完全に停止している無数の小さな鉄球が浮かんでいた。

 すべて、こいつが撃ったものだ。

 俺は男の首から上を、自由にしてやる。

 すると男は顔をこちらへ向け、何かを言おうとした。

 だが、それは許可していない。

 口は動くが、声は出せなかった。

 俺は男の目を見据え、静かに言葉を放つ。

「お前、まさかビリヤードみたいに、何発も撃ち続ければ、弾が弾を押して、いつか俺に当たるなんて思っていないだろうな」

 こいつは俺の言葉を無視し、ふたたび拳銃のほうへ顔を向けようとしたため、首も固定した。

 さらに、入口の3人を強引に体ごとこちらへ向けさせる。


「そもそも、お前たちは、”ログアウター”について、根本的な勘違いをしている。その証拠に、何度も俺に引き金を引いた」

 全員が怪訝そうな表情を浮かべたが、発言を許可していない以上、言葉は出ない。

「つまり、物理的な力が通じると思っている」

 俺は淡々と続ける。

「結論から言う。俺は”管理者”だ。――お前たち人間の上位互換ではない」

 あざけっていた男が、必死に何かを訴えようとしているので、言葉を解放した。

 男は、一瞬ためらったが、それでも疑問を俺にぶつけてくる。

『何を……言って……いるのか、まったくわからねぇ。お前は……”神”……だとでも言いたいのか?』

 その問いに、俺は少し前の自分を思い出し、静かに首を横に振った。


『じゃあ……なんだってんだ?』

 男は、怒りと悲しみの混ざった声で吐き捨てた。

 俺は、男の感情の揺れを無視するように返す。

「管理者だと言っている。そもそもの存在と、与えられた権限がまるで違う」

『与えられた権限? 誰から?』

「この世界を構築したもの。会ったことはない。実在するかも知らない。それより、これを見ろ」

 これ以上教える必要はないと判断し、俺は話を切り上げる。 

 そして上半身を起こした姿勢のまま、両方の手のひらを上に向けた。

 空中の散弾越しに、全員の視線が俺の手のひらに集まる。

 次の瞬間、宙に浮いていた無数の弾は消え、それと同時に俺の手のひらの上に、新品のショットシェルが合計8発、出現した。

 男たちは何が起こったのかわからず、目を見開いたまま、じっと俺の手のひらの上に浮かぶショットシェルを凝視していた。


 俺は、あざけっていた男を見ると静かに語りかける。

「お前が俺に向けて撃った、すべての弾だ。どういうことか、わかるか?」

 男は、言葉を失っていた。

 俺は、返答を待たず続けた。

「ある範囲のルールを、俺は握っているということだ」

 言い終えると、手のひらを返し、浮かんでいるショットシェルを一気にベッドの上へ落とした。

 ベッド表面の金属に当たる音と、跳ねて硬い床に落ちる音が混ざり合い、バラバラと不思議な音色を奏でる。

 次に俺は、右の手のひらを上に向けると、そこには、ソフトボールほどの大きさの球体が現れる。

「これが、その散弾が生み出した、すべての”運動エネルギー”だ」

 それはタバコの煙を閉じ込めたシャボン玉のように、半透明の薄い灰色をしていた。

 内部で、灰色の何かがゆっくりと循環している。


 俺は腕を伸ばし、物でも差し出すように男にその球体を見せた。

 男の目からは、狂気が消え、怯え切った子供のようになっている。

 その頭の中を埋め尽くしているのは、「逃げたい」という本能が発するシグナルだけだった。

 俺はおもむろに、左手で球体の一部を切り取る。

 まるで、わた菓子をちぎるかのように。

 それはピンポン玉ぐらいの大きさで、全体の20分の1というところだ。

 男たちはその一連の動作を、恐怖を浮かべた目で追っている。

 俺は右手に残った大きい方の球を、天井に向けて無造作に放った。


 球体はゆっくりと上昇していき、天井と触れた瞬間――


 凄まじい爆発音とともに、天井がえぐれ、煙や塵が舞う。

 ……かと思われた。


 だが音も煙も塵も、一瞬で消えた。

 天井に穿たれた大きな穴だけが残り、俺の座るベッドからは上階の壁や天井がはっきりと見えている。

 もちろん、この天井の上に誰もいないことは分かってやっている。

 目の前で、不自然なほど物理法則を捻じ曲げる演出が、こいつらには必要だった。

 それから俺は、手のひらに残ったピンポン玉サイズの球体を、何も言わず男に投げた。

 それはゆっくりと男に向かって飛んでいく。

 男は目を見開き、それをただ目で追っている。

 恐怖が頭の中を埋め尽くしているが、体は一切動かせない。 

 球体が男の体に触れた瞬間、大きな破裂音とともに、その体はドアの方へ吹き飛んだ。

 さらに入口にいた3人を巻き込み、ドアに叩きつけられると、鈍い音が部屋中に響いた。


 俺はベッドから降り、入口まで歩いていくと、床に倒れてうめき声を上げる4人を見下ろした。

 死なない程度の”運動エネルギー”をぶつけたつもりだったが、やはり骨は何本か折れているようだ。  

 4人は、恐怖を張りつかせた目でこちらを見ている。

 俺は順番に全員の目を見ながら、言った。

「前の管理者が……甘かったのか」

 それは、独り言のようにも聞こえただろう。

「本来なら、国民の法によって裁かれるのが理想だが……」


 そのとき、直接耳に届くことはなかったが、部屋の外がざわついているのがわかった。

 先ほどの”爆発”で、大勢が右往左往している。

 俺は気にも留めず、言葉を続けた。

「こうして、管理者自らが出るということが、どういうことか……もっと、知らしめねばならないのか……」

 そう言っているうちに、あざけっていた男が、打撲と骨折の痛みで意識を失いかけていた。

 俺は次の瞬間、4人の傷をすべて回復させ、体の拘束も解く。

 

「一度だけチャンスをやろう」

 こいつらにそう告げると、ドアを解錠し、目の前で開いてみせた。


『へ……?』

 突然痛みが消え、体が自由になったことに、男たちはすぐには理解が追いついていない様子だった。

 あれほどびくともしなかったドアも、完全に開いている。

 俺は、こいつらがこれからどうするのか、無言でただ見ることにした。

 

 まず、助手席の男とスタンガンの男が、我先にと部屋の外へ逃げ出す。

 3列目の男は、それとは対照的にその場でひざまずき、俺を拝むようにして泣いた。

 そして、あざけっていた男は――


『ああああああああああ!!!!』


 叫びながら拳銃を壁から引き抜くと、俺に向け、ためらうことなく引き金を引いた。


「それでいい」


 ――ログアウト

 弾丸は発射されることなく、男は拳銃を握ったまま、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。

 俺はその残骸を見下ろし、静かにつぶやく。

「人間として生まれるには、早すぎたな」

 その目からは、完全に光が失われていた。


 それから俺は、 

『ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……』

 涙を流し、謝り続ける3列目の男の肩を、軽く叩いた。

「それでいい」

 男は、床に転がる残骸をちらりと見て、さらに泣き崩れる。

 俺は男の前にしゃがみ、言った。

「お前は、ログアウトしない。だが――」


 男は、涙であふれる目をこちらへ向ける。

「だが、ここで起こることをすべて記憶しろ。そして、伝えろ。お前の寿命が尽きるまで、伝え続けろ」

 それだけ言うと、俺は立ち上がり、部屋の外へ出た。

 

散弾が浮いているところは、マトリックスのようなイメージです。

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