表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

12、出られない部屋

最終話まで毎日17時に更新します。全18話。

 やはり、こいつらの言語で突然話したことで、警戒されたのだろう。

 少し遊んだだけだったが、さすが訓練を受けているだけあって、不測の事態への対処は早かった。


 意識を失ったふりをした俺は、一番奥の部屋へと運ばれ、両手の拘束を解かれた。

 そして今度は、金属製の重厚なベッドに寝かされる。

 それは手術台のような造りで、ところどころに小さな排水口が設けられている。

 仰向けに寝かされた俺は、首、上腕、手首、大腿、足首。

 それぞれを革製の太いベルトで、ベッドにきつく固定された。

 これだと、屈強な男が力任せに暴れたとしても、どうにもならないだろう。


 いきなり、顔に冷たい水が大量に浴びせられた。

 俺はゆっくり目を開ける。

 そこには、ニタニタといやらしい笑みを浮かべる、あざけっていた男がいた。

 名前はわかってるが、俺はそれには興味がない。

 男は俺の顔を覗き込みながら、大きな声を出した。

『起きたか! 日本人!』

 テンション高く叫んだこいつは、俺のことを人間だと思っている。

 そして、嬉々とした表情のまま、言葉を続けた。

『どうだ、今の気分は? 何か言いたいことがあったら、口がついているうちに聞いておくぞ』

 俺はこの男の目を見ると、淡々と言った。


『ありがとう』


 男は一瞬、面食らったような顔になり、周囲を見回した。

 周りの男たちも同じように表情が固まっていたが、スタンガンの男が吹き出したのをきっかけに、3列目の男を除いた全員が爆笑した。

『なんだそりゃ!』

『こいつ大丈夫か?』

『…………』

『やっぱりお前は、殺すにはおしいくらい面白いな』

 あざけっていた男はそう言うと、壁に手を伸ばし、マチェーテを取った。

 壁には、たくさんの武器や刃物がずらりとかけられている。

 マチェーテ、ノコギリ、グルカ刀、青竜刀、日本刀、ハンマー。

 そして、拳銃やショットガンといった銃火器まであった。

 拷問器具らしいものは見当たらないが、これだけ揃っていれば、人間を痛めつけるには十分すぎる。

 さらに、今の体勢では直接見えないが、部屋の隅のキャビネットの中には、プラスチックの容器に入った「大量の水酸化ナトリウム」が保管されていた。

 

 こいつらの手によって、ここで苦しみながら死んでいき、死体すら出なかった被害者たちのことを思うと、ほんのわずかだが胸の奥が重くなった。

 男は、マチェーテの長い刃を見せつけると、その刃先をわざと俺の眼球すれすれまで寄せくる。

 そして、耳元でささやいた。

『お前が何者で、何を嗅ぎ回っていたのかは知らねぇ。だがな、何か俺たちの役に立つようなことを教えてくれたら、わりと楽に、”ログアウト”させてやるよ』


 こいつは、悪い意味で繰り返し「ログアウト」という言葉を使っている。

 それは、俺が世間に浸透させようとしてきた「ログアウター」、そして「ログアウト」という概念の歪んだ使われ方――いわば、”負の側面”だった。

 いずれ、悪用できないように何らかの対策を講じる必要がある。

 

 男は邪悪な笑みを俺に向けたまま、マチェーテを上下逆さに持ち替えると、そのまま俺の腹部めがけて刃先を勢いよく振り下ろした。

 だが俺は、こいつが今はまだ刺さないことを知っている。

 案の定、刃先は腹部に到達する5ミリ手前で、ぴたりと止まった。

 男の顔から、すっと笑みが消える。

 俺がおびえるどころか、まったく動じていない様子を見て、こいつは少し考え込むようにうつむき、独り言のようにつぶやいた。

『何者だ……こいつ? まるで動じねぇ……何かがおかしい……まさか……どこかのエージェントか?』

 すると、横で黙って見ていたスタンガンの男が口を挟む。

『でもよ、顔認証にも引っかからなかったからな。こいつ、ビビりすぎてそれどころじゃないだけだろ?』


 男は一瞬考え、マチェーテを戻すと、代わりに刃渡り10センチほどのナイフを手に取った。

 そして視線を、俺の左手の指へ移す。

『おっさん。今から、その短い指を1本ずつ、その手のひらから、これで外していくからな』

 そう言って、俺の目の前にナイフをかざして見せた。

 ブレードと柄が黒一色で、無駄のないデザインだった。

 刃に十分な厚みがあり、指程度なら、すぐに切り離せそうな洗練されたフォルムをしている。

 それに何の反応もしないでいると、男はナイフの刃を、俺の左手の小指に軽く当てながら言った。

『楽に死にたきゃ、お前が何者で、何の目的で会長に会いに来たのか、喋ったほうがいいぞ。まぁ、俺たちはどっちでもいいんだがな』

 今、こいつの中に渦巻いているのは、圧倒的強者の優越感と、底の抜けたサディズムだった。

 それを無理やり言葉にするなら――


 泣け!

 叫べ!

 苦しむ顔を見せろ! 

 小便垂れ流して、許しを乞え! 

 俺が支配者だ。

 お前の生命は俺次第だ。

 

 だいたい、そんな感じだ。

 正直、かなりめんどくさくなってきた。

 俺の指にかかった刃が、じわじわと重くなっていく。

 男は、叫びに近いうわずったような声を上げた。

『ほらおっさん! 1本目!』


「ログアウターだ」

 俺は天井の照明を見つめたまま、静かに言葉を放つ。

 そして、指に押し当てられたナイフが、乾いた音とともに真っ二つに折れた。

 男は、折れたナイフをまじまじと見つめ、信じられないという表情を浮かべる。

『は? なんだこりゃ? 誰だ? ナイフの手入れ一つできないやつは。ここのメンテナンスの連中も、後で教育が必要だな』

 俺の言葉が、まるで耳に入っていないかのように男はそう吐き捨てると、一度壁に戻したマチェーテをふたたび手に取った。

 そして今度は何も言わず、俺の左足首めがけて、何の躊躇もなく刃を振り下ろす。

 だがマチェーテは、俺の足首に触れた瞬間、まるで鉄パイプにでも打ち付けたかのような音を立て、刃が欠け、ぐにゃりと曲がってしまった。

『なにっ!?』

 男たちは、俺と曲がったマチェーテを、交互に見比べた。


 俺はこいつらの動揺を無視し、体を拘束している革製のベルトを、空間に溶け込ませるように消しながら、上半身を起こす。

「だから……レストランの入口の時から、”ログアウター”だと言っている」

 抑揚なく発した俺の言葉が終わらないうちに、あざけっていた男を除く3人が、部屋のドアへ殺到した。

「その状況判断と行動の早さは、さすがだ」

 必死に逃げようとする3人に、俺は賛辞を送った。

 もちろん、ドアは俺がロックしているので開かない。


 誰も聞いていないようなので、こいつらの言語でもう一度、繰り返した。

『その状況判断と行動の早さは、さすがだ』

 どうやら、この声すら耳に入らないほど、追い詰められているようだ。

 3人がかりで取っ手を引き、蹴り、体当たりをしても、開く気配どころか、ドアは1ミリたりとも動かなかった。

 男は、曲がったマチェーテを床に放り投げると、即座に壁にかけられているショットガンを掴む。

 焦りからか、チャンバーの確認もせず、フォアエンドを荒くスライドさせた。


「無駄だ」

 俺は、静かに言った。

 だが男は、上半身を起こした俺へ、迷うことなく引き金を引いた。

 銃口から放たれたすべての散弾は、俺に触れる寸前、まるで時間が止まったかのように、完全に静止する。

 それを見てもなお男は、理性を失ったかのように、何発も、俺に向けて引き金を引き続けた。


水酸化ナトリウムをなぜ大量に保管しているのかは、あえて書きませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ