表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

11、ビルへの招待

最終話まで毎日17時に更新します。全18話。

「それは、俺が”ログアウター”でもか」

 一瞬、男たちの表情が固まる。

 だが次の瞬間、その場は今まで以上の笑いに包まれた。

 男は笑いながら右手で、俺の右肩をポンポンと叩く。

「おっさん、おもしろいな。その笑いに免じて、今夜のことは無かったことにしてやるから、さっさと帰りな」


 ――この肩を叩く動作で、俺とこの男はオンラインになった。

 一瞬の接触で、この男の記憶や感情といった個人情報が、一気に流れ込んでくる。

 こいつらは、情報の隠蔽の名目で、日本人のフリー記者を3人殺していた。

 しかも、楽しみながら。

 もし口先だけの脅しなら、軽くねじ伏せる程度で終わらせるつもりだった。

 だが、これはダメだ。

 日本人を3人もいたぶって殺した連中を、見逃すわけにはいかない。

 俺の雰囲気が一瞬で変わったことに、その場の全員が気づいた。

 ついさっきまで笑っていた男たちの顔から、笑いが消える。


 次の瞬間、背後の男がインカムに短く指示を飛ばした。

 すると裏の駐車場に停めてあった黒のワンボックスカーに、3人が急いで乗り込み、そのまま急発進する。

 その一連を、俺は肉眼で見ていたわけではないが、イメージとして、はっきりと「わかる」。

 俺は男2人に両肩を押さえられ、身動きを取れなくされた。

 するともう1人がポケットからスタンガンを取り出し、即座に俺の腹部に押し当ててきた。

 激しいしびれで、俺は体のコントロールを失い、動けなくなる――

 ……という演技をした。


 男たちは数人がかりで、通行人の目から隠すように俺を囲んだ。

 そのまま慣れた手つきで、俺の両手首を背後へ回し、拘束する。

 この手際の良さと鮮やかな連携で、こいつらがこれまで何をしてきた集団なのかは容易に察しがついた。

 俺と接触し、オンラインになった男たちの記憶は、すべて参照済みだ。

 軍事訓練を受けた末、素行不良で不名誉除隊となった者。

 裏社会にすら居場所がなくなった者。

 借金のため、仕方なく参加している者。

 様々な経緯でこの集団に属してはいたが、ほとんどの者に同情の余地はなかった。

 さて、どこに連れて行ってくれるのだろうか。

 俺は予定を変更し、このまま流れに身を任せることにした。


 ほどなくして、目の前に黒のワンボックスカーが停まった。

 車が停まると同時に、右側のスライドドアが開き、中から1人の男が降りてくる。

 そいつは降りてくるや否や、身動きのとれない俺の首根っこを掴み、3列シートの2列目へと放り投げた。

 そのとき視界の端に、すでに3列目に座っている男が1人いるのが見えた。

 俺は手をつくこともできず、そのままシートに顔を打ちつけた。

 続けて乗り込んできたのが、さきほど俺をあざけっていた男だった。

 そいつはシートに倒れ込んだ俺の襟と腕をつかみ、乱暴に引き起こす。

 そして逃げないよう、襟と腕をつかんだまま、どかっと隣のシートに座った。

 間を置かず、反対側のドアが開く。

 そこからスタンガンの男が乗り込んで来ると、同じように俺の左腕を押さえつけた。

 俺を車内に投げ込んだ男が助手席に座るのと同時に、すべてのドアがロックされ、車は急発進する。

 窓の外では、最初の男がインカムで何かを報告したあと、集まっていた連中が元の配置へ戻っていくのが見えた。

 その光景は、あっという間に角の向こうに消えていった。

 

 車の揺れとともに、後頭部に硬い金属が何度か当たるが、俺は振り向かなかった。

 3列目にいる男が、サプレッサー付きの拳銃を俺の頭に突きつけているのは、わかっている。

 さらに今の接触で、後ろの男も参照できた。

『どうだ、怖いか?』

 右の男が、ニヤついた顔で俺を覗き込む。

『日本語で話さないと、通じていないかと……』

 3列目の男が、少し申し訳なさそうに言った。


 パン!

 右の男が、3列目の男の頭を平手で叩き、不機嫌そうに怒鳴りつける。

『そんなこと、わかってんだ! お前はいっつも、場を冷ますようなことしか言わねぇ』

 すると左のスタンガンの男が、3列目を振り返り、笑いながら言った。

『次くだらないこと言ったら、このおっさんと同じにするからな』

 それを聞いた3列目の男は、ひきつった笑顔を浮かべる。

『勘弁してくださいよ。この前の時だって、同じこと言ってたじゃないですか』

 右の男は、俺を見ると笑顔を浮かべ、今度は日本語で話しかけてきた。

「お前も、あの時素直に帰っときゃ、こんなことにはならなかったのにな。あほは損だな」

 その邪悪な嘘笑いに、俺は顔を引きつらせる演技で答えた。

 ドライバーを除く4人とはすでに接触済みだ。

 だから、これから俺がどうなるのかも、だいたい見えている。

 

 ――それから、車は20分ほど走り、オフィスビルが立ち並ぶ一角に入った。

 車内では、どこ製の銃が使いやすいだとか、どこの日本人女がよかっただとか、報酬がどうだとか、そんな話題を、終始外国語で楽しそうに話し続けていた。

 すると車は、近代的なビルの地下駐車場に入っていく。

 ここまで、目隠しの一つもせず連れてきたということは、帰すつもりどころか、逃げ出す可能性すら想定していないということなのだろう。


 車はどんどん地下へと下っていき、ついには地下5階の駐車場で停車した。

 不思議なのは、これだけ大きなビルにもかかわらず、ほとんど車が停まっていないことだ。

 この階にも、この車を含めて3台だけだ。

 車は、エレベーターのドアの真正面に停まる。

 停車と同時に、助手席の男が車から飛び出し、エレベーターへ一目散に走ると、脇のパネルに手をかざした。

 エレベーターには開閉ボタンなどの物理的な操作部はなく、そこにあるのは黒い小さなパネルだけだった。

 男が手をかざすと、パネルに緑色のランプが小さく灯る。

 それを車内の男たちが確認したあと、車のドアロックが解除された。

 俺は右側の男に引きずり出されるようにして、強引に車から降ろされる。

 ドライバーの男だけは運転席に座ったまま、降りては来なかった。

 俺は後ろ手に縛られた状態で、2人の男に両腕を掴まれ、エレベーター前まで連行される。

 たどり着くと同時に扉が開き、突き飛ばされるように中に押し込まれた。

 入った正面にも扉があり、向き直らなくてもそのまま降りられるようだ。

 エレベーター内にも物理ボタンはなく、黒く長細いパネルがあるだけだった。

 背後には、3列目の男が俺の背中に銃を当てている。


 右側にいた男――あざけっていた男が、パネルに手をかざした。

 次の瞬間、パネルに「B-5」と表示され、背後で扉が閉まる音がする。

 だが、階を指定していないのにもかかわらず、エレベーターは勝手に上昇し始めた。

 B-1……1……11……23……

 「44」

 一度も止まることなく、44階でエレベーターは停止する。

 正面の扉が静かに開き、男はふたたび俺に笑いかけた。

「この44って数字。日本じゃ縁起の悪い数字なんだってな」

 俺は、それに何の反応もしなかった。


 半ば引きずり出されるようにエレベーターを降りた俺が最初に目にしたのは、赤い絨毯の敷かれた、幅3メートルほどの通路だった。

 その両脇には片側10部屋、合計20部屋のドアが整然と並んでいる。

 目の前の通路には、人間の血と体臭の混ざりあった臭いが充満していて、異様な雰囲気を醸し出してた。

 視線を落とすと、絨毯にはところどころに赤黒い染みが付いている。


「あの部屋だ」

 男はそう言って、右側の一番奥の部屋を指さした。

 それから俺は両腕をつかまれ、両脇の2人に押されるように歩かされる。

 すると、背後の3列目の男が、俺の背中を押しながら少し緊張した声で言った。

「きょ、今日がお前の最後の日だ。何か言い残すことがあったら、聞いてやるぞ」

『無駄口を叩くな』

 あざけっていた男が、低い声でそれを制した。

 だが俺は、一言だけ背後の3列目の男に告げた。

『お前は大丈夫だ』

 次の瞬間、左側の男が俺の後頭部にスタンガンを押し当てる。

 俺は気を失ったふりをして全身の力を抜き、そのまま崩れ落ちた。

 

ここも、もっと短くするつもりだったんですが、おもしろくなって長くなりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ