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休日のとあるショッピングモールにて

作者: 風花フウカ
掲載日:2025/12/25


 とある土曜日のショッピングモールにて。

 マサルは施設内の本屋へ向かうべく雑貨店や服、ホビー品店などが軒を連ねり人が絶えず行き交う通路を歩いていた。そして、自身の通う中学の担任、中西チズル先生に遭遇したのだった。


 「あっ」

 「あ、」


 すれ違い際、両者互いを確認し立ち止まる。

 「先生じゃないですか、奇遇ですね」

 「ああ、ヒツイチさんも来てたのね。見つかって残念」

 先生は冗談のようにそう笑って言う。

 そのわりに学舎で教壇に立っているときよりも、声に抑揚がなく、テンションもなんだか低いので、言葉の通り本当に嬉しくなさそうにマサルには受け取れた。


 「えー、先生なんかすっごい嫌そうっすね」

 マサルは普段とは少し違う先生のテンションになんだか面白みを感じて笑い混じりに訊く。

 それに対して先生は、自身の担任するクラスの生徒を前に何の悪びれもなくバッサリと言うのであった。

 「そりゃあそうだよ、せっかくのオフ日なんだもん」

 「……即答っすね」

 「まあ、ボクを含めてあらかたの教師は休日まで生徒に会いたいとは思わないさ」

 「そんなもんですか」

 「そんなもんさ」

 「それは、休日中になんだかすみません」

 マサルは軽く十五度ほどのお辞儀する。

 「それにしても先生、ボクっこなんですね」

 「まあオフだからね」

 「全然知らなかったー」

 「学校は仕事だからね」

 「そっかぁ」


 マサルはなんとなく頭の後ろで腕を組み通路の天井を眺める。そして意外にもこの施設は鉄骨がむき出しで天井が高いことに気付く。


 「そんじゃそろそろ……」

 会話も一段落し、いつまでも通路の真ん中で駄弁っているわけにもいかないのでそろそろ解散の流れとなっていたところで「あ、先生あれ」と先生を引き留めるマサル。

 通路の奥の突き当たりは、飲食店が立ち並ぶ『横通り』との合流地点となっている。

 マサル達がいる側の縦の人混みと飲食店を歩く横の人混みが合わさる地点である。

 その人混みの中に、『横通り』から右折してマサル達がいる方向へと歩いてくる一人の人物が見えるのだった。

 「数学主任の人だ」

 マサルはこちら方向へと歩いてくるスーツ姿の中年男性を眺めながら呟く。

 「マツカタ先生だよ」

 先生は首だけ後方へと向けてなんてこともなさそうに眺めつつ言う。二年間数学を習っておきながら尚名前を覚えていない生徒に若干呆れの気持ちも含んでいるようであった。

 マツカタ先生はマサル達の方へどんどん近づいているのだが全くこちらに気付いている様子はない。ただ目的地の前方奥だけを見据え歩いているようであった。そしてそのままマサル達のいる通路を人の流れに沿って歩き通りすぎて行くのだった。

 先生はそれを横目で黙って見届けている。


 マサル達はなんとなく邪魔にならないように通路脇にはけていた。

 マサルは後ろの通路を振り返り、どんどん離れて行くマツカタ先生の背中を目で追っていた。

 先生はなんてことの無さそうな顔でマツカタ先生の遠くなって行く背中を正面にして眺めていた。

 じきに数学主任は人混みへと紛れて見えなくなった。


 「……先生。声、かけませんでしたね」

 「うん」

 「同じ数学教師なのに」

 「まあ、オフだからね」


  それから先生は、「そんじゃ、また月曜日」と片手を軽く挙げてマサルを横切りマツカタ先生の歩いて行った方向へと進んでゆくのだった。

 「そっすかあ……」

 マサルが一人そう呟く間に、先生は颯爽と歩き去り人混みへと紛れ込んでしまうのだった。

 もうどこにいるのか分からない。

 それを見届けてからマサルは先生とは反対方向の前方へと歩き始める。上の階の本屋を目指すため。


 「何だかなあ……」


 マサルは歩きながらしばらく思考を巡らせていた。

 先ほどまでした先生との会話。

 先生の割りきった姿勢。

 学校の教師。

 大人って……?

 結論など出るはずないと分かっていながら、色々と脈絡のない事を考える。

 その中で疑問がふと浮かぶのだった。


 (先生ってそういえば数学主任と同じ方向へ歩いていったよな。もしも鉢合わせたらどうするのだろうか?)


 オフ日を謳歌せんとするあの先生のことだからその時も無視を極め込むのだろうか?

 そんな予測をしながらもマサルは内心、それは少し寂しいな、と思う。

 大人とはそういった割り切ったものなのだろうか。そういうものなのだろうか。

 生憎、中学生のマサルには計り知ることが出来ないことであった。

 それから一つこう思う。


 (マツカタ先生。もし出会ったら声かけてみよう)


 マツカタ先生とは、数学教師というだけであまり話したことがない。しかしあのボクっこ先生とのつかの間の会話をした後、マサルはなんとなくそうしたい気分となった。

 三階への階段を上がりながらマサルはわずかに口角をあげて予想するのだった。

 マツカタ先生は休日中に生徒と遭ったら、はたしてどのような顔をするのだろうか、と。






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