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第1章 婚約者との再会②


 ミュリエルは王子と世間話を交えながら、学院内を案内していく。


「こちらは剣や槍などの練習をする演習場で、その隣にあるのが弓の演習場。さらに奥に行くと厩舎と馬場がございますわ。セイデン様はご自分の馬をお連れになってきたのでしょうか」

「いいや、国に置いてきてしまったよ」

「そうでしたか。学院の厩舎で自分の馬を預けることも出来ますので、国から連れてきて貰うのも宜しいかと思います。学院にいる厩務員は王城の厩務員と同じくらい優れておりますので、心配は要りませんわ」

「ありがとう、そうするよ」


 ニコッと笑った王子は「ねぇ」と言葉を続ける。


「王女には是非、名前で呼んで欲しいな」

「えっ、な、名前ですか?」

「そう。僕もミュリエルって呼ぶから」

「えっと……」


 学院内では通常ラストネームで呼び合うことが多いが、親しくなればもちろんファーストネームを呼ぶこともある。

 だからと言って初対面でそんなことを言われたのは初めてで、戸惑ってしまう。


「堅苦しくて疲れない? せめて貴女とは対等な関係なわけだし、仲良くなりたいんだ」


 確かにそうだ。

 学院の中では生徒は身分に関係なく平等に扱われるものの、それでもやはりミュリエルは王女。生徒だけでなく教員を含めても、ミュリエルより身分の高い人はいない。

 心許せる友人もいるけれど、レイナードは身分的なところも含めても対等と言える。


「そうですね……それではその……レイナード様と呼ばせて頂きますわ」


 流石に呼び捨てには出来ない。たとえ自分がされても、だ。

「様はいらないんだけどなぁ」と少々不満げにしていたが、まあいいかと諦めてくれた。


「お互い呼び捨てだと、まるで恋人同士みたいだしね」

「!?」


 困った顔をしていると、レイナードはくすくすと笑っている。

 レイナード様はちょっと癖のある御方のようね。

 けれど嫌だとは思わない。ミュリエルの周りにはいなかったタイプの人というだけで、茶目っ気があって親しみやすい。

 この方にはまだ婚約を交わしている人は居ないのかしら? などと考えながら歩いている内に男性寮の入口前まで来ていた。全寮制の学校なので家の近い遠いに関わらず、生徒は全員寮生活だ。

 

「案内できるのはここまでですわ」

「案内してくれてありがとう。明日からもよろしく」

「ええ、それではまた明日」


 別れの挨拶をしてミュリエルも自分の宿舎へ帰ろうと踵を返した瞬間、レイナードが「あっ!」と声を上げた。


「どうかされ……」


 フワッと香る爽やかなフローラルノート。

 振り向いたミュリエルの頬に、レイナードが軽くチークキスをしてきた。


「おやすみの挨拶を忘れていたよ」

「え……ええ、お休みなさい」


 まだ日暮れには早すぎる時間だけれど、ネミラス王国では別れ際にお休みの挨拶もする習慣があるのかもしれない。

 戸惑いつつも今度こそ男性寮へと入っていくレイナードを見届けて身体の向きを変えると、一人の男性が立っていた。


「あ……」


 ギルベアトだった。

 

 今の見られたかしら……。

 いいえ、見られたって別にやましい事はしていないもの。あれはただの挨拶で。


「ギル……シュヴァイニッツ先生、ごきげんよう」


 昔のように『ギル様』と呼ぶことは出来ないのだったと思い出して言い直した。


「さっきの男性は?」

「え?」

「何をしていたんだ」


 何をって……ああそうだわ。ギル様も着任されたばかりで、学院の事情を把握しきれていないのね。

 

「ええと、ネミラス王国の第3王子レイナード様です。今年度から留学しにいらしたので、校内を案内してきたところです」

「……そうか」

「…………」


 そうかって、それでお終い?

 口数が少ないのは昔から変わっていないようだ。仕方なくミュリエルから切り出した。


「改めまして、お久しぶりです。シュヴァイニッツ様が教師としてこの学院にいらっしゃるとは存じませんでした」

「急に決まった話だったんだ。俺も君が通う学校で教鞭をとることになるとは思わなかった」

「…………」

「…………」


 気まずい沈黙がもう一度流れたが、今度はこちらから話しかけることはしない。さっき出会ったばかりのレイナードとはあんなに会話が弾んだのに。ミュリエルが幼かった頃の方がまだ楽しく遊んだりしてマシだった。

 

「ラインハルト」

「はい」

「学院内では教師と生徒だ」

「……はい」

「だから、婚約しているからといって君を特別扱いは出来ない」

「分かっております」


 『そんな事言われなくたって』と付け加えた上に、『婚約していることを覚えてらっしゃったのですね』と嫌味のひとつでも言いたいくらいだったが、そこはぐっと堪えた。

 15年ぶりに婚約者に会ってこの会話は、あんまりだと思う。元気だったかとか、何をしていたとか、或いは今の姿を見て成長したねとか、他にもっとあるじゃない。

 これ以上話したところで、楽しい会話は期待出来そうもない。

 

「それでは先生、失礼致します」


 儀礼的に挨拶をしたミュリエルは、まだ何か言いたげなギルベアトを残して宿舎へと向かっていった。

 

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