第2章・裏 俺の知らない彼女④
若い女性って何が好きなんだ??
流行に疎いギルベアトには超難問。子供の頃はそれっぽいぬいぐるみや可愛らしいリボンなどを贈れば喜んでくれたが、大人になった今はあてずっぽうに選ぶというわけにはいかない。選ぶ側のセンスが問われる。
小物類はどんなものを必要としているのかわからないし、かといってプレゼントの定番・アクセサリーはファッションセンスゼロのギルベアトには難易度が高い。
店員に人気のデザインを見繕ってもらって、とも考えたが、それだとギルベアトが渡す意味が薄れる気がした。他の誰が送っても同じなら、気持ちがこもっているとは言い難いし。
そうこうして悩んでいるうちに競技会まであと2日と迫り、誕生日まで時間がなくなってきた。早く決めなければ。
こうなったらアースティンにでも相談してみるか?
いや、あいつは俺より年上だったはず。おっさんもいいとこだ。
ならば生徒に探りを入れてみるかと、今日の昼食は自分から女学生たちの集まるテーブルに座った。
「ここ、座ってもいいかい?」
「は、は、は、はいっ!! どうぞ!!」
ギルベアトが自ら自分たちのところへ来てくれたと、女学生たちは大いに盛り上がる。
キャッキャっと楽しげにする会話に耳を傾けて相槌を打ち、それとなく探りを入れていく。
「今度の休日に街に出かけようかと思っているんだが、君たちの間で流行っている物やおすすめの店はないかな」
「私たちの間で流行っているものですか? そうですねぇ。クヴェレ通りにあるブリューテというコスメショップなんですけど、あそこのコスメならみんな持ってますよ」
コ、コスメ……。アクセサリーより難易度が高い。
難しい顔をしたギルベアトを見て、別の女学生がツッコミを入れた。
「やだぁ、ビアンカったら。先生がコスメに興味あるわけないでしょ」
「なら少し離れた街になりますけど、クラインのスイーツは? あそこのカップケーキは見た目も可愛いし、お茶会でもよく使われるんですよ」
「スイーツか……」
悪くはないが、スイーツだと手土産っぽい。プレゼントに添えるならいいかもしれない。
「いいね。今度覗いてみるよ」
にこりと笑うと生徒たちが赤くなる。そんな中「あっ!」と声をあげたのはギルベアトの隣に座る生徒。
「先生、クラインに行くなら是非ヴィーラという香水のお店にもお立ち寄り下さい」
「アデーラったら、ちゃっかりしてるわね」
「何の話だい?」
「ヴィーラは私の父が投資をしてオープンした香水店なんです。あ、でもすごく人気なんですよ! 毎日店には行列ができていますし」
「そうそう! 私たちもお店に行きましたが、香りはもちろん間違い無いし、ボトルデザインも秀逸なんです。部屋に飾っておくだけで幸せになっちゃうくらい」
香水か。女性へのプレゼントに良さそうだ。
ここに座った時から微かに香るこの匂いももしかして、とアデーラに尋ねてみる。
「へぇ……。もしかして君が今つけている香水も?」
「はい。ヴィーラの香水です」
「確かにいい香りだね」
「男性用の香水も取り扱っていますので! もし行かれるのなら、2階のサロンの予約を抑えます。完全予約制で半年待ちなんですけど、先生が行かれるのならすぐに予約を入れてもらいますので」
「サロン?」
「店主がお客様のオーダーを直接お聞きして、オリジナルの香水を調香してくれるんです。世界で一つだけの香水ですよ」
――――!
それなら店員に適当に見繕ってもらってプレゼントするよりも、ずっと良さそうだ。
「是非お願いするよ」
「わかりました! 予約を取ったらお知らせしますね」
これでミュリエルへのプレゼントは何とか用意できそうだ。と胸を撫で下ろしながら放課後に外を歩いていると、イヴォンヌがチームメイト数名に大きな木箱を持たせて演習場の方へと向かっていくのが目に入った。
なんだ、あの箱は?
ミュリエルたちのように男子学生たちに差し入れでも持っていくのかと思ったが、それにしては大きいし重たそうな箱。
気になって見ていると、イヴォンヌはユニコーンチームを呼び集めて持たせていた箱を開けた。
「今日はわたくしからみんなに差し入れよ!」
開けられた箱の中を見て、男子学生たちは喜ぶどころか困惑している。
一体何入っているんだ?
「お父様に頼んで、みんなの為に新しい武器を用意してあげたの」
そう言ってイヴォンヌは、箱から剣や弓を取り出して見せる。
「どう? 我が家の騎士団でも使っている鍛冶屋で作らせたのよ」
「エスタリ様、あの……競技会は明後日なんです。急に新しい武器をとおっしゃられても……」
「何よ? 嬉しくないの?」
「う、嬉しいのですが、急すぎて」
「仕方ないでしょう、これでも大急ぎで作らせたのよ! わたくしが用意した武器は使えないっていうの?! あんたなんかが使っている古びた剣より良いものをあげるって言ってるのよ?! 何がそんな不満なのよ!!」
「エスタリ、武器というのは新しければ良いというものじゃない」
ギルベアトは見かねて声をかけてしまった。イヴォンヌにキャンキャン噛みつかれている学生たちが不憫すぎる。
「あら! シュヴァイニッツ先生、いらしていたのですね」
イヴォンヌの声のトーンが急に変わり、男子学生が「うわぁ」と引いている。
ギルベアトは一つ剣を取りよく見てみると、細かい装飾もなされ、良い金属が使われていることがすぐに分かるような代物だった。
「確かにエスタリの用意した武器は一流の騎士が持つようなものだ」
「ええ、そうですわ! さすが先生、わかってらっしゃいますわね」
「だが手に馴染んだものを使った方がいいだろうな。特に下級生は」
「なぜです? よりグレードの高いものの方が倒しやすいでしょう?!」
「一流の武人なら、初めて手にしたどんな武器でもすぐに使いこなしてしまうものだが、ここにいるのはまだ学生だ。せいぜい練習試合しかしていない」
男子学生たちは『これだから女は』とでも言いたそうな顔をしているが、ここはきちんと説明してやらなければエスタリだって納得できないだろう。本人は良かれと思ってしていることなのだから。
「特に下級生はまだまだひよっこだからな。使いこなして倒すどころか、武器に遊ばれてしまうだろう。競技会は明後日なんだ。今から体の一部として使うには難しい」
「未熟者にはまだ早い、ってことですわね」
「あー、まぁ、そうかな……」
大体同い年くらいの女の子に言われたら流石に腹が立つだろうな、と男子学生たちの顔を見ると、案の定ものすごい表情を浮かべていた。
「分かりましたわ。それなら最初からそう言えばいいのに。ならこれは家に送り返しておきます。あと2日、気を抜かずにしっかり練習しなさいよ!」
嵐が去っていった。そんな雰囲気で男子学生たちは練習を再開し始めたのだった。




