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第2章・裏 俺の知らない彼女③

 対抗戦の練習が本格化し、生徒たちの気合の入れようが凄まじい。

 若いっていいよなぁ。などと、じじ臭い考えをしてしまっているあたりがマズイのだと自覚せねば。


「対抗戦で魔法の競技がなくなったのって、シュヴァイニッツ先生のせいだって小耳に挟んだのですが、本当ですか?」


 昼食の時間、ギルベアトの座るテーブルに座ってきた女学生たちが興味津々に尋ねてきた。


「あっ! それ、わたくしも噂で聞いたことがあります。先生が入学してから不満がすごかったって」

「対戦相手のみならず、観客までぜーんぶ凍らせちゃったとか、対戦相手を殺しかけたって聞きましたけど」

「あー……まぁ、そんな事もあったかな。は、は、は……」


 ギルベアトが在校していた時には、男子の競技として魔法による対決勝負もあった。

 入学して初めての競技会で、ギルベアトは上級生に当然の如くこの競技の出場を割り当てられたのだが、当時は「めんどくさい」と思っていた。

 火竜を倒した父や騎士団に稽古をつけられていたギルベアトとしては、上級生が先輩ヅラしてアレやこれやと指導してくるのが鬱陶しい。とか思ってしまう小生意気なガキだった。そして本番で盛大にやらかした。

 がんばれ! と声援を送ってくる観客。絶対に勝てよとプレッシャーをかけてくるチームメイト。

 その全てが煩わしくて、「勝てばいいんだろ」と演習場ごと全てを凍らせてしまったのだ。

 自分のしでかしたことの大きさに気づいて慌てて解除魔法をかけたが、学院内は当然、とんでもない大騒ぎに。教師からのみならず父親からもこっぴどく叱られ、散々な目にあった。

 ならばとその翌年は手を出さないことにした。どうしたかというと、対戦相手を動けないよう魔法をかけたのだ。

 手も出されないし、こちらも出さない。

 とうとう時間切れとなって勝利を収めたギルベアトは、大ブーイングの嵐にあった。対戦相手からは「一生の屈辱だ!」と泣かれ、再び父親からは怒られ。

 3年目にして手加減すればいいのかと、ようやく気付いたギルベアト。力を抑えて本番に望むも、「真面目にやれ!」と審判から注意を受けたので仕方なく本気を出したら、相手が死にかけた。

 なんで俺、怒られてるんだっけ? と思いながら、延々と説教を聞かされ続けたのは、今も鮮明に記憶に残っている。

  

 結局その年を最後に競技会から魔法の種目は無くなり、代わりに騎馬戦が加わった。

 今となっては黒歴史。 

 もともと魔法は本人が生まれながらに持つ資質によるところが大きく、個人差が大きい。しかも重傷を負うことも少なくないので、競技としては如何なものかと議論されていたので、変更はなにもギルベアトだけのせいではなかったはずなのだが、完全に自分のせいにされている。


「魔法は個人差が大きいからね。代わりの騎馬戦も見応えがあっていいだろう?」


 あまり深く突っ込まれたくないので、適当に話を逸らす。


「ええ。やはり男性の競技はどれも迫力があって、見ていてドキドキしますよね」

「命をかけているもの、当然よ」

「ねえ、ヴェラはどう? ユニコーンチームだけど大丈夫?」

「あー、うん……」


 大丈夫かと聞かれたヴェラの表情は浮かない。

 

「なんだ? ユニコーンチームだと何かあるのか?」

「えーと、5年生の先輩で一人、指導が厳しい方がいらっしゃって。ねえ?」

「わたし、今年くじ運なかったわ……」

「まあほら、あと数週間の辛抱よ」

「他人事だと思って! 優勝を逃したら殺されるわよ、絶対」

「それはもしかして、エスタリのことか?」


 チーム分けが行われた日、生徒たちがどのチームになったか盛り上がっている中で、聞こえてきた会話を思い出した。「俺、エスタリ様と一緒になってしまった」と絶望する声を。


 さすがに「そうです」とは言えず、みんな曖昧に笑っている。


「わたしに比べて、フリーダはいいよね。ラインハルト様と一緒なんでしょ? それだけでも羨ましいのに、今年はセイデン様ともだなんて」


 ラインハルトの名が出て、ギルベアトはピクリと反応してしまう。


「ラインハルトのチームだと良いのか?」

「それはもう……! チームの雰囲気はいつもいいし、あんなに気配り出来る方他にいませんから。先頭に立ってくださっているセイデン様を阿吽の呼吸でサポートして、見ていて気持ちがいいくらいです」

「まるで夫婦のようだなんて、裏では言われているのよね」

「ねー」


 夫婦の……よう……?

 俺と婚約しているのに? 


「例え話だとしても度が過ぎるんじゃないか? ラインハルトはこの国の王女で、セイデンはネミラスの王子だ。軽々しく夫婦などと発言するべきでは無い」

「あ……そ、そうですよね」

「私たちが軽率でした」


 ギルベアトが強い調子で言い切ると、女学生たちはマズイと眉尻を下げた。

 みんな忘れているか知らないようなので、ミュリエルと婚約していることを口に出して言うべきか?

 そう考えているうちに、予鈴が鳴ってしまった。学生たちは慌ただしく席を立っている。


「それではシュヴァイニッツ先生、失礼致します」

「あ、ああ……」


 その日演習場の前を通ると、ミュリエルが差し入れを持って行ったのか、セイデンにお菓子らしき物を渡している。実際には他の女学生もいるし、男子学生もいるのだが、ギルベアトにはミュリエルとセイデンの2人しか目に入らない。

 確かに傍から見たらあの二人は夫婦とまではいかなくても、恋人同士くらいには見える。

 

 ミュリエルと話すといつも機嫌を悪くさせてしまう自分に比べて、セイデンはどうだ?

 あの男の前では、彼女はいつも笑っている。

 話し下手でつまらない男より、セイデンのような男の方がいいんじゃないか?

 そんな考えが一瞬だけ頭をよぎったが、すぐに振り払った。


 何を馬鹿なことを考えているんだ、俺は。


 ミュリエルと結婚することは、もう20年も前に両家の間で決められている。

 ……だとしても、相手がネミラスの王子ならば、婚約が覆される可能性は限りなく低いが、ゼロではない。あの国は海外との貿易が盛んな国だ。王としても仲良くしておいて損は無い国。

 遠くに見えるミュリエルとセイデンを見ながら、ギルベアトは呟いた。

 

「俺とじゃダメなのか……?」


 王女との結婚は褒美として得た権利だが、ギルベアトとてミュリエルには嫌々結婚して欲しいわけではない。

 幸せにしてあげたいし、望みは叶えてやりたい。

 どうしてこうなってしまったのか。

 ミュリエルが小さな子供だった頃の方が、まだギルベアトに笑いかけてくれていた。

 

『ギル様、魔法を見せて!』

『見て見て! これギル様を描いたのよ!』

『一緒にお人形遊びしましょ』


 遊びに行く度に手を取られ、帰る時には「帰っちゃイヤ」と泣かれたあの頃が懐かしい。

 大人になって久しぶりに婚約者に会ったら、つまらない男だったことに気付いたのか。


「あー、どうすればいいんだ」


 話し下手は今すぐどうこう出来ない。セイデンのようにミュリエルを喜ばせる会話まで持っていくには、人生をもう一度やり直した方が早いくらいかもしれない。

 なら他に何が出来るのか……。


『うわぁ、嬉しい! ずっと大切にします!』


 昔、誕生日プレゼントを渡した時のミュリエルの笑顔を思い出して閃いた。

 

 そうか、贈り物だ!

 相手に気持ちを伝えて喜んでもらういい方法じゃないか!

 考えてみれば、ミュリエルの誕生日まであとふた月弱。プレゼントをしてもおかしなタイミングではないし、準備をする時間も十分にある。そうと決まったら何を贈るかを考えなければ。


 こうしてギルベアトの『プレゼントをしてミュリエルに喜んでもらおう作戦』が始まったのだが……。


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