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あの日の約束が、私たちをつなぐ

作者: しゅうらい

 十年前。

 その日は、ずっと雨が降っていた。

 私には、親がいない。

 近所の大人たちは、いろんな噂をしている。

 幼かった私は、大人たちの会話を聞きたくなかった。

 だから、押し入れで泣いていたの。

「お父さん、お母さん、なんでいないの……」

「泣くな、きょうか。俺がいるだろ」

「ガロ……」

 押入れを開けたのは、五歳上で幼なじみのガロだった。

 ガロは獣人で、狼の耳としっぽが生えている。

 私の住む地域では、獣人が多く暮らしています。

 ガロも、そのひとりです。

 私が驚いていると、突然手を握ってきて、こう言ったの。

「ずっと、きょうかを守ってやる。約束だ!」

「……うん!」

 笑顔のガロに、私は勇気づけられた。

 そして、幼い私たちは、指切りをした。

 それから十年後、私は中学二年生になりました。

 いつも通り制服に着替えて、階段をおりてリビングへ。

 私はふと、テーブルに飾ってある写真たてを見た。

 そこには、若い頃の両親がうつっていた。

「おはよう、お父さん、お母さん」

 そして私は、軽く朝食をすませた。

 すると、タイミングよくインターホンが鳴った。

「はーい」

 返事をした私は、急いでカバンを持って、玄関に向かった。

「おはよう、きょうか!」

「おはよう、ガロ……」

「なんだ、元気ないな」

「そんなことない」

「そうか?」

「それより、大学の方はいいの?」

「なに、俺のこと心配してくれるの?」

「……いいから、学校行こうよ」

 私は、ガロの相手が面倒くさくなり、先を歩いた。

 後ろでは、ガロの慌てる声が聞こえたけど、気にしない。

 通学路の途中で、私は気になることを聞いてみたの。

「いつも迎えに来てくれなくてもいいのに……」

「いいだろ。俺が好きでやっているんだから」

「でも……」

「それに、これも渡さないとだしな」

 すると、ガロはカバンから袋を取り出した。

「ほら、今日の弁当」

「いつもありがとう……おばさんにも、お礼言っといて」

「あぁ、今回は俺が作ったんだよ!」

 それを聞いて、私はお弁当を落としそうになった。

「きょうか、大丈夫か? 汗がすごいぞ」

「だって、ガロがこれ作ったんでしょ……」

「そうだけど?」

「……食べるのが怖いわ」

「なんだよーっ、じゃぁいらないのか?」

「……いる」

 食べるのが怖いけど、これが無かったら昼食抜きだし。

 それは、勘弁してほしい。

 そうこうしているうちに、中学校が見えてきた。

「じゃぁ、俺はここで。下校の時、また迎えに来るから」

「うん、ありがとう」

 私は頷いて、小さく手を振った。

 そしたら、ガロは笑顔になって「またな!」と言って、走って行ってしまう。

「お兄ちゃん、うれしそうだったわね」

「ひっ、ヒカル、おはよう……もう応援は終わったの?」

「おはよう、きょうか。終わって戻ろうとしたら、校門でいちゃついているのが見えてね」

「そっ、そんな風に見えてるの?」

「冗談よ、真に受けないで」

 彼女はヒカルで、ガロの妹です。

 そして獣人であり、ポニーテールの頭には、猫耳が、お尻にはしっぽが生えているの。

「それにしても、なんだか女子生徒が多いような……」

「皆、お兄ちゃん目当てよ」

 私が振り向くと、遠巻きに見ている子たちは、なにかひそひそ話している。

「なんで、あんな地味な子に?」

「たぶん、同情されているだけじゃない?」

 はい、全部聞こえています。

 たぶんガロは、あの時の約束を守ってくれているだけなのだ。

 わかっている、そんなこと……

 私は、ガロの優しさに甘えているだけだということも。

「きょうか、気にしなくていいわよ」

「ヒカル……」

 私が顔を上げると、微笑んでいるヒカルと目が合った。

 そして手を握られ、学校に走っていく。

「早く行きましょう。授業に遅れるわ!」

 ヒカルの行動の速さには、いつも助けられる。

 私の気持ちも察してくれて、すごく有難い。

 それから午前中の授業が終わり、昼休み。

 私は、ヒカルと一緒にお弁当を食べていた。

 ちなみに、ガロの作ったお弁当は、とてもカラフルだった。

「お兄ちゃん、お母さんに習いながら、必死に作っていたわよ」

「そうなんだ……食べるのもったいない……」

「ふーん、ならあたしが食べてあげる!」

「だっ、ダメ、私のだから!」

「冗談よ、早く食べなさい」

「ずいぶん、賑やかだね」

「りっ、立夏君!」

「僕も、一緒に食べていいかな」

「うん、大丈夫。ヒカルもいいよね?」

「もっ、もちろんよ!」

 気のせいだろうか。ヒカルの顔が赤い気がする……

 立夏君は、同じクラスの男子で、弓道部に入っています。

 ヒカルが応援していたのは、彼なのです。

 もしかして、私お邪魔かな。

「そういえば、今日もガロさんと一緒だったの?」

「うん。いつも送ってくれる……」

「やっぱり、きょうかが可愛いから、悪い虫がつかないようにしているとか?」

「それは、あり得るわね」

「二人とも、冗談はやめてよね」

「僕だったら、大切な子には、いつも笑っていてほしいな」

「立夏君、素敵!」

 ヒカル、目がハートになっているよ。

 こんなにわかりやすいのに、立夏君は気づかないのかな。

 そして、放課後になりました。

 ヒカルと立夏君は部活があるため、私は先に下校しました。

 すると、もう校門の所に、ガロが立っていたのです。

「おーい、きょうか帰ろうぜ!」

 ガロが私に気づき、大きく手を振ってくれました。

 でも、私は恥ずかしくて、それを無視しちゃったの。

「あれ、きょうかどうしたんだよ」

「……」

「もしかして、学校でいじめられでもしたのか?!」

「……違う」

「なら、なんでそんなに速く歩くんだよ」

「……今日は、一緒に帰りたくない」

「えっ、なんでそんなこと言うんだよ!」

 肩を掴まれ、私は思いきり振り向いた。

「私は、もうひとりで大丈夫なの。だから、もう私に構わないで!」

 私に怒鳴られ、ガロはすごく驚いていた。

 私もびっくりした。自分があんなに大きな声を出せるなんて。

 そして、固まっているガロをおいて、私はそのまま走りました。

 だいぶ走ったところで、息を整えるため、近くの公園に寄りました。

 そこでベンチに座っていると、誰かに話しかけられたの。

「こんにちは、お嬢さん。ひとりかい?」

「えっ、そうですけど……」

「じゃぁ、お兄さんたちと遊ばない?」

 気づくと、何人かの男たちが、私の周りに集まっていました。

 全員気味の悪い笑みを浮かべて、私に近づいてきたの。

 私の体は、恐怖で動けないでいた。

「さぁ、一緒に楽しもうねぇ」

「ひっ……」

「あんたら、きょうかから離れやがれ!」

「なんだぁ?」

  男たちが振り向くと、入り口にガロが立っていました。

「部外者は引っこんでな!」

「痛い目にあわせてやらぁ!」

 私から離れた男たちは、一斉にガロに殴りかかりました。

 でも、ガロの速さには追いつけなかったようです。

 瞬く間に、男たちは倒れていきました。

 ガロはというと、汗もかかず涼しい顔でした。

「ガロ……」

「きょうか、大丈夫か!」

「うん、なにもされてない……」

「よかったぁー……ごめんな、ひとりにして」

 ほっとしたガロの顔を見て、私は首を横に振った。

「違うの……私がガロに、あんなこと言ったから……」

 そこまで言うと、私は視界がぼやけたことに気づく。

 なんとか泣きそうになるのをこらえ、手を握りしめる。

「ごめんなさい……やっぱり、私はひとりだと、なにもできない……」

「心配するな、きょうか。俺がいるだろ?」

「でも……」

「俺がきょうかと一緒にいたいんだよ。ダメか?」

 ガロに見つめられ、恥ずかしくなってしまう。

 だから私は、俯いてまた首を横に振った。

「じゃぁ、急いで帰るぞ!」

「あっ、ガロ!」

「きょうか、どうした?」

 私は、振り向いたガロの腕に抱きつく。

「ガロが、いつもそばにいてくれたから、私は大丈夫だったんだね」

「まぁ、さっきみたいな奴らがいたりするからな」

「ガロが守ってくれるのは、あの時の約束があるから?」

「それもあるけど、今は俺が好きでやっていることだから」

 ガロの顔を見ると、少し赤いのは気のせいだろうか。

「好きな女は、ほっとけねぇだろ」

 その言葉がうれしくて、私はバレないように微笑んだ。

 この気持ちは、まだよくわからないけれど。

 今のこの時間が、ずっと続けばいいのにと私は思いました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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