表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの日の約束が、私たちをつなぐ

作者: しゅうらい
掲載日:2025/10/19

 十年前。

 その日は、ずっと雨が降っていた。

 私には、親がいない。

 近所の大人たちは、いろんな噂をしている。

 幼かった私は、大人たちの会話を聞きたくなかった。

 だから、押し入れで泣いていたの。

「お父さん、お母さん、なんでいないの……」

「泣くな、きょうか。俺がいるだろ」

「ガロ……」

 押入れを開けたのは、五歳上で幼なじみのガロだった。

 ガロは獣人で、狼の耳としっぽが生えている。

 私の住む地域では、獣人が多く暮らしています。

 ガロも、そのひとりです。

 私が驚いていると、突然手を握ってきて、こう言ったの。

「ずっと、きょうかを守ってやる。約束だ!」

「……うん!」

 笑顔のガロに、私は勇気づけられた。

 そして、幼い私たちは、指切りをした。

 それから十年後、私は中学二年生になりました。

 いつも通り制服に着替えて、階段をおりてリビングへ。

 私はふと、テーブルに飾ってある写真たてを見た。

 そこには、若い頃の両親がうつっていた。

「おはよう、お父さん、お母さん」

 そして私は、軽く朝食をすませた。

 すると、タイミングよくインターホンが鳴った。

「はーい」

 返事をした私は、急いでカバンを持って、玄関に向かった。

「おはよう、きょうか!」

「おはよう、ガロ……」

「なんだ、元気ないな」

「そんなことない」

「そうか?」

「それより、大学の方はいいの?」

「なに、俺のこと心配してくれるの?」

「……いいから、学校行こうよ」

 私は、ガロの相手が面倒くさくなり、先を歩いた。

 後ろでは、ガロの慌てる声が聞こえたけど、気にしない。

 通学路の途中で、私は気になることを聞いてみたの。

「いつも迎えに来てくれなくてもいいのに……」

「いいだろ。俺が好きでやっているんだから」

「でも……」

「それに、これも渡さないとだしな」

 すると、ガロはカバンから袋を取り出した。

「ほら、今日の弁当」

「いつもありがとう……おばさんにも、お礼言っといて」

「あぁ、今回は俺が作ったんだよ!」

 それを聞いて、私はお弁当を落としそうになった。

「きょうか、大丈夫か? 汗がすごいぞ」

「だって、ガロがこれ作ったんでしょ……」

「そうだけど?」

「……食べるのが怖いわ」

「なんだよーっ、じゃぁいらないのか?」

「……いる」

 食べるのが怖いけど、これが無かったら昼食抜きだし。

 それは、勘弁してほしい。

 そうこうしているうちに、中学校が見えてきた。

「じゃぁ、俺はここで。下校の時、また迎えに来るから」

「うん、ありがとう」

 私は頷いて、小さく手を振った。

 そしたら、ガロは笑顔になって「またな!」と言って、走って行ってしまう。

「お兄ちゃん、うれしそうだったわね」

「ひっ、ヒカル、おはよう……もう応援は終わったの?」

「おはよう、きょうか。終わって戻ろうとしたら、校門でいちゃついているのが見えてね」

「そっ、そんな風に見えてるの?」

「冗談よ、真に受けないで」

 彼女はヒカルで、ガロの妹です。

 そして獣人であり、ポニーテールの頭には、猫耳が、お尻にはしっぽが生えているの。

「それにしても、なんだか女子生徒が多いような……」

「皆、お兄ちゃん目当てよ」

 私が振り向くと、遠巻きに見ている子たちは、なにかひそひそ話している。

「なんで、あんな地味な子に?」

「たぶん、同情されているだけじゃない?」

 はい、全部聞こえています。

 たぶんガロは、あの時の約束を守ってくれているだけなのだ。

 わかっている、そんなこと……

 私は、ガロの優しさに甘えているだけだということも。

「きょうか、気にしなくていいわよ」

「ヒカル……」

 私が顔を上げると、微笑んでいるヒカルと目が合った。

 そして手を握られ、学校に走っていく。

「早く行きましょう。授業に遅れるわ!」

 ヒカルの行動の速さには、いつも助けられる。

 私の気持ちも察してくれて、すごく有難い。

 それから午前中の授業が終わり、昼休み。

 私は、ヒカルと一緒にお弁当を食べていた。

 ちなみに、ガロの作ったお弁当は、とてもカラフルだった。

「お兄ちゃん、お母さんに習いながら、必死に作っていたわよ」

「そうなんだ……食べるのもったいない……」

「ふーん、ならあたしが食べてあげる!」

「だっ、ダメ、私のだから!」

「冗談よ、早く食べなさい」

「ずいぶん、賑やかだね」

「りっ、立夏君!」

「僕も、一緒に食べていいかな」

「うん、大丈夫。ヒカルもいいよね?」

「もっ、もちろんよ!」

 気のせいだろうか。ヒカルの顔が赤い気がする……

 立夏君は、同じクラスの男子で、弓道部に入っています。

 ヒカルが応援していたのは、彼なのです。

 もしかして、私お邪魔かな。

「そういえば、今日もガロさんと一緒だったの?」

「うん。いつも送ってくれる……」

「やっぱり、きょうかが可愛いから、悪い虫がつかないようにしているとか?」

「それは、あり得るわね」

「二人とも、冗談はやめてよね」

「僕だったら、大切な子には、いつも笑っていてほしいな」

「立夏君、素敵!」

 ヒカル、目がハートになっているよ。

 こんなにわかりやすいのに、立夏君は気づかないのかな。

 そして、放課後になりました。

 ヒカルと立夏君は部活があるため、私は先に下校しました。

 すると、もう校門の所に、ガロが立っていたのです。

「おーい、きょうか帰ろうぜ!」

 ガロが私に気づき、大きく手を振ってくれました。

 でも、私は恥ずかしくて、それを無視しちゃったの。

「あれ、きょうかどうしたんだよ」

「……」

「もしかして、学校でいじめられでもしたのか?!」

「……違う」

「なら、なんでそんなに速く歩くんだよ」

「……今日は、一緒に帰りたくない」

「えっ、なんでそんなこと言うんだよ!」

 肩を掴まれ、私は思いきり振り向いた。

「私は、もうひとりで大丈夫なの。だから、もう私に構わないで!」

 私に怒鳴られ、ガロはすごく驚いていた。

 私もびっくりした。自分があんなに大きな声を出せるなんて。

 そして、固まっているガロをおいて、私はそのまま走りました。

 だいぶ走ったところで、息を整えるため、近くの公園に寄りました。

 そこでベンチに座っていると、誰かに話しかけられたの。

「こんにちは、お嬢さん。ひとりかい?」

「えっ、そうですけど……」

「じゃぁ、お兄さんたちと遊ばない?」

 気づくと、何人かの男たちが、私の周りに集まっていました。

 全員気味の悪い笑みを浮かべて、私に近づいてきたの。

 私の体は、恐怖で動けないでいた。

「さぁ、一緒に楽しもうねぇ」

「ひっ……」

「あんたら、きょうかから離れやがれ!」

「なんだぁ?」

  男たちが振り向くと、入り口にガロが立っていました。

「部外者は引っこんでな!」

「痛い目にあわせてやらぁ!」

 私から離れた男たちは、一斉にガロに殴りかかりました。

 でも、ガロの速さには追いつけなかったようです。

 瞬く間に、男たちは倒れていきました。

 ガロはというと、汗もかかず涼しい顔でした。

「ガロ……」

「きょうか、大丈夫か!」

「うん、なにもされてない……」

「よかったぁー……ごめんな、ひとりにして」

 ほっとしたガロの顔を見て、私は首を横に振った。

「違うの……私がガロに、あんなこと言ったから……」

 そこまで言うと、私は視界がぼやけたことに気づく。

 なんとか泣きそうになるのをこらえ、手を握りしめる。

「ごめんなさい……やっぱり、私はひとりだと、なにもできない……」

「心配するな、きょうか。俺がいるだろ?」

「でも……」

「俺がきょうかと一緒にいたいんだよ。ダメか?」

 ガロに見つめられ、恥ずかしくなってしまう。

 だから私は、俯いてまた首を横に振った。

「じゃぁ、急いで帰るぞ!」

「あっ、ガロ!」

「きょうか、どうした?」

 私は、振り向いたガロの腕に抱きつく。

「ガロが、いつもそばにいてくれたから、私は大丈夫だったんだね」

「まぁ、さっきみたいな奴らがいたりするからな」

「ガロが守ってくれるのは、あの時の約束があるから?」

「それもあるけど、今は俺が好きでやっていることだから」

 ガロの顔を見ると、少し赤いのは気のせいだろうか。

「好きな女は、ほっとけねぇだろ」

 その言葉がうれしくて、私はバレないように微笑んだ。

 この気持ちは、まだよくわからないけれど。

 今のこの時間が、ずっと続けばいいのにと私は思いました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ