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蒼穹の方舟 〜落ちこぼれ冒険者と記憶を失った少女〜  作者: 蒼月 りんね


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第四十三話 ダリオ

カイ視点です。

 決行の日の昼、ゼルは聖都に近い違うアジトにいる仲間と合流するために、俺たちと別れた。旅立つ時にゼルは一言、「また、会おう」と笑顔で去っていった。


(生きて戻らないと……)


「みんな!エイラを助けて村に帰ろう!」


 その言葉にみんなが頷いてくれる。それだけを胸に、俺たちもデュランの別荘に向かう。

 着く頃には、ちょうど夜になっているはずだ。



◇◇◇


  

 俺たち別働隊は、「ザリオ」のメンバーと後一人、ライトが一緒に行ってくれることになった。本人が希望したわけじゃないが、別荘までの道順を教えてやってくれと、ゼルから頼まれていた。ライトは、かなり嫌そうだったが了承した。

 そのライトが別荘に向かっていると、突然険しい顔をしだした。


「なんか変だよ……」

「何が変なんだ?」

「血の匂いがする……たぶん、別荘の方からだ」

「……急ごう」


 俺たちは走り出した。すると剣が重なる音が近くなってくる。

 そして、エイラの叫び声が聞こえた。


「アッシュ!」

「ああ!」


 一番気配に強いアッシュが、止まると同時にオーラを乗せて、弓を放った。矢が勢いよく飛んでいくのと同時に、俺はオーラを足に込めてスピードを出す。

 これは、イゼルがレイバンとの戦いで使っていたものだ。前日にやっと形になってくれて助かったが、まだ一日一回しかできない。でも今は、出し惜しみはしていられない。

 目の前には、ダリオがアッシュの矢をいなして、誰かに剣を振り下ろすところだった。


 ガッキーン!


 その剣を、俺が受け止める。エイラが俺の名前を叫んだ。


「カイ!!」


 驚くエイラとは違い、ダリオは俺が来ることがわかっていたかのように驚きを見せないで、俺を見据えた。


「やっぱり来たか。カイ」

「ダリオさん!何があったんですか?」


 ダリオは俺の剣を弾き返し、剣を構え直す。


「……何が言いたい?」

「ダリオさんが、何もなくそんなことするはずないじゃないですか!俺の知っているダリオさんは、理想の騎士です!」


 俺の思いを伝えるが、ダリオの顔は無表情のまま剣を下ろした。


「……カイ。お前は純粋すぎる。ヨアは気づいていたんだろ?」


 ダリオは、追いついていたヨアに目を向け問いかける。俺も警戒しながら横を向くと、ヨアたちの横にエイラの姿が見えた。その無事な姿に、ほっとする。でも、なぜかその横にリゼットがいた。


「いいえ。怪しいとは思っていました。始めのネザリアとの戦いで、あなたはオーラを使わなかった……聞いたことがあるんですよ。騎士団の隊長と副隊長は、オーラが使える熟練者しかならないと……」

「そうか。迂闊だった、そんな田舎に知るやつがいるなんて……セルジオだけ誤魔化せばなんとかなると、思っていた」

「ダリオさん、あの時、調子が悪かったって……」


 俺の後ろで傷ついた声を出す方に目をやると、そこにはいるはずがないセルジオがいた。だがそこにいるということは、ダリオが斬ろうとしていたのは……そのことに衝撃を受ける。


(セルジオは、部下だったはずなのに……)


「……セルジオに剣を向けたんですか?」

「そうだ……邪魔をするので、殺そうとした」


 淡々と殺意を告白するダリオが、俺の知っているダリオじゃなかった。


「お前たちも、邪魔をするなら容赦はしない」


 剣を構え直したダリオを警戒する。


「セルジオ、下がれ!みんな手を出すな!」

「……カイ!?」


 俺の言葉に驚いたアッシュが、名前を呼ぶ。


「大丈夫だ……負けない。ダリオさんに目を覚ましてもらう……だから、手を出さないでくれ」

「それは大きくでたな……だが、そうだな。私は君には、勝てない……だけど、これならどうだろう」


 ダリオは胸元から、小さな瓶を取り出し、黒い液体を飲み干した。


「これは力を引き出してくれる薬だ……カイこそ目を覚ませ。お前が知っているダリオはいない……お前はずっと騙されていたんだ!」

「違う!ダリオさんは何度も助けてくれた……ちゃんとそこにいたんだ!」

「お前は愚かだ――」


 ダリオの剣が、俺に向かって振り下ろされる。

 それを受け止めたが、重い一撃に体勢が崩れた。俺は体勢を立て直して、もう一度ダリオに呼びかける。


「ダリオさん!なんか理由があるんですよね?俺にはダリオさんが、こんなことするなんて信じられないんです!」

「ふざけるな!お前に何がわかる!」


 会話を続けながらも、ダリオは剣を振るう。その攻撃を受け流しながら、俺はダリオに訴えた。


「わからないですよ……でも、自分の目で見てきたことはわかっているつもりです!」

「実際、騙されてるじゃないか。それをわかっているだと……いい加減にしろ」

「しません!じゃあ、なんで俺たちを殺さなかったんですか!?」


 突然、ダリオの動きが止まった。剣を握る手が、わずかに震えた。


「俺たちが、エイラを助けにくるってわかっていたはずです……殺せば、こんなことにはならなかった。あなたは……あなたは殺せなかったんじゃないんですか!?」


 一瞬、眉をしかめたダリオは、剣に赤いオーラをまとい始めた。


「……もう、いい。お喋りは終わりだ。決着をつけよう」

「あなたは、まだ……」


 それに対抗するために、俺もオーラをまとわせる。


「カイ、それ以上、無駄な口を開くな!――砕けろ《グラディオ・ブレイク》!」

「あなたは、何を隠しているんだ!――光よ、真よ示せ!《ルクス・ベリタ》!」


 ぶつかり合う二つの剣撃。


「うおおおおお!!」

「はああああああ!!」


 ダリオは弾かれ、木にぶつかって血を吐いた。急いで近づき、声をかける。


「ダリオさん!大丈夫ですか!?」

「これでも勝てないか。また、強くなったんだな。ゴフッ」


 少し血を吐いたダリオのもとに、みんなは駆け寄った。


「ダリオさん!!」

「大丈夫だ。敵に情けをかけるな。カイ……」

「ダリオさんは、敵ではないですから……」


 そう言うと、ダリオは顔を歪ませ苦笑いをした。


「ふっ、カイは駄目だな。騎士にならなくて正解だ……甘すぎる」

「はい、自分でもそう思います……ダリオさん、どうしてイオについたんですか?」


 ダリオは少し体勢を起こし、俺に頼み事をする。


「カイ、私の胸にかかっている、ロケットを取ってくれないか」


 言われたように、それを取ると、見覚えがある物だった。


「……これは、あの時の」

「ああ、中を見てくれ」


 それは、家族が写っていた写真だったはずだが、中を見ると驚いて思わずダリオを見た。そこには、頭にケモ耳がある女性と女の子が写っていた。


「ダリオさんの家族は……獣人だったんですね?」

「ああ、妻は犬の獣人だった。子供はハーフだ」

「……教会に、殺されたんだね」


 ライトの軽蔑に似た声が、森に響いた。ダリオがライトを見て、優しそうな笑みを向けた。


「……君も獣人だね。そうだ、異種族戦争で殺された――私の大事な家族を」


 沈黙が流れるが、ヨアが口を開いた。


「復讐ですか?イオについたのは……」

「ああ、そうだ。教会に復讐したかった……すまないな。セルジオ」


 何も言わずに泣きそうな顔をしているセルジオに、笑いをしながら謝った。


「いえ、ダリオさんは……俺にとって尊敬できる人でした!」

「ありがとう。リゼットもすまない。嫌な思いをさせたな」

「……ダリオは私をちゃんと助けてくれたわ」


 涙をこらえながら、リゼットはエイラの手を握っている。


「エイラ、君はこれからも狙われるだろう……君が一番わかっていると思うが……ゲホッゲホッ」

「ダリオさん!」

「大丈夫だ。エイラ、これを……」


 懐から、ダリオはエイラの杖を取り出した。それを受け取ったエイラは、涙ぐんで杖を握りしめている。


「ダリオさん。持っていてくれたんですね」

「それで、自分を守るんだ……ゴホッ」


 まだ、血を吐き続けるダリオに、ソルレア特製ポーションを渡すと首を振った。


「気にするな。これはカイにやられた血ではないんだ。あの薬の副作用さ……それに私にはそのポーションは効かないんだ。大丈夫、死にはしないさ……」

「私が直します」


 エイラが前に出てダリオに魔法をかけると、効いているのか分からないが柔らかい表情になった。


「ありがとう……少し休ませてくれ」


 そう言ってダリオは目を閉じた。その顔は、穏やかに見えた。

 ダリオの息が安定するのを見て、みんなは少し離れ、そこで次の行動をヨアと確認する。

 

「カイ、次はイオだ」

「そうだな。どこにいるんだろう」

「さっきいたわよ。どこかに消えていったけど……」

 

 リゼットが教えてくれる。


「とりあえず、屋敷まで行って見るか」


 まとまりかけた会話を遮ったのは、探すはずだったイオだった。


「そんな面倒なことをしなくても、ここにいるよ」


 突然、ダリオの横に現れたイオに、誰も気づかなくてみんな驚いた。武器をとっさに構える。


「イオ!大人しく捕まれ!」

「はいはい、わかった……これを倒したらね」


 にやりと笑ったイオは、ダリオの腕に注射をした。


「うぅああああ……」


 ダリオは急に叫びだし、注射を打たれたところからボコボコと大きないぼのような物が出てきた。


「ダリオさんに何をした!!」


 怒鳴ると、イオはメガネを捨て髪をかきあげ、楽しそうに笑い出した。


「あはは、少し虚無の欠片を入れてみたんだ……君たちに倒せるかな」

 

 その笑みは見たこともない、邪悪なものだった。



 


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