第4話「舞踏会の笑顔」
その夜、王都の中心部にある侯爵家主催の舞踏会が開かれた。
貴族の若手たちが集い、魔法によって彩られた天井と音楽が、夢のような世界を演出している。
フェリクスは、もともと舞踏会など好まない。
だが、今回は珍しく自ら足を運んでいた。
──彼女が、出席すると聞いたからだ。
黒い礼装に身を包み、周囲の視線を一身に受けながらも、フェリクスの灰色の瞳はただ一人を探していた。
そして、その姿を見つけた瞬間、胸の奥に微かな熱が走る。
エディス。
白いドレスに金の刺繍をあしらい、長い髪を優雅に結い上げた彼女は、まるで光そのもののように美しかった。
そしてその隣には、若い魔導士の姿。彼女に何かを話しかけ、エディスは──微笑んでいた。
あの柔らかな笑み。
これまで彼の前では一度も見せたことのない、心からの表情。
それを見た瞬間、フェリクスの中にざらりとした感情が這い上がる。
(……俺の知らない顔を、他人に見せている)
嫉妬、という言葉を彼は生まれて初めて理解した。
彼女は確かに自由になった。
だから誰と笑おうと、誰と踊ろうと、彼には止める権利などない。
──なのに、なぜ。
なぜ、胸がこんなにも、痛むのか。
彼女の笑顔が、誰かに向けられるたびに、
フェリクスは拳を握りしめるしかなかった。