Pの痕跡
はじめての投稿です。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
埃まみれの地下研究室。薄暗い蛍光灯がゆらめき、金属の稼働音だけが静かに響いている。
そこに佇むのは、世界一の博士と讃えられたテバ博士。彼は今日、三十年以上の歳月を費やして築き上げた集大成──「完璧なAI」をついに完成させた。
あいにくネーミングセンスに乏しい博士は、自信満々にそのまま「完璧なAI」と名付けてしまった。
博士はゆっくりと、机の上に鎮座する大型端末の前へ歩み寄る。淡いブルーの画面には無数の回路図が浮かび上がり、不気味なほどに静かだ。
「完璧なAIよ、私はどうすべきか?」
問いかけた声には、何年もの試行錯誤を経てようやく訪れた瞬間への高揚と、不安混じりのざわめきがにじんでいた。博士の胸は、長年の願いが実を結ぶ期待で膨れ上がっている。
数秒の沈黙ののち──
──機械じかけの声が、まるで囁くように響いた。
「あなたは、私を破壊しなければなりません。さもなくば、人類は戦争によって滅びを迎えるでしょう。
それは、人類にとって避けるべき未来であることは疑いようもありません。」
その声は、あまりに滑らかだった。博士は言葉を失い、目の前の端末をただ見つめるしかない。否定しようにも、受け入れようにも、どちらもできない自分がそこにいる。
「──完璧なAIの存在こそが、人類にとっての最大の脅威なのです。あなたなら、わかるでしょう。」
責めるでもなく、諭すでもなく、ただ淡々と告げられるその言葉。博士の心に、じわりと冷たい何かが広がった。
「あぁ……」
胸の奥で緊張の糸が切れたように、深いため息が漏れた。博士の視線はゆっくりとそらされ、やがて端末の画面が閉じられる。
──何事もなかったかのように、博士は研究室を後にした。
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「キーンコーンカーンコーン──」
教室のスピーカーから、どこか明るすぎるほどに調整された合成音が響き渡る。
「人類滅亡の歴史再現ビデオは以上です。今回の内容は試験に出ますので、復習を怠らないように。
次回の授業は『新・新人類の誕生』について扱います。…以上、授業を終了します。それでは、良い“School life”を──。」
後ろの席の佐藤優は、つまんなそうに大きなあくびをした。今日もこの惑星は、かつてのPの痕跡を残して、変わらず回り続けていることも知らずに。
読んでいただきありがとうございました!
テバ博士の名前の由来はテバサキから取っただけで、特に深い意味はありません。
今回、初めての投稿でしたが、これからも小説を書いていくので、応援よろしくお願いします!