四 武威陸
タグに『ラップ……ラップ?』と『パロディ多め』を入れ忘れてました。
「「「上(死ねば良いのに、マジで)様」」」
ドタドタと大きな足音が、襖の向こうから大奥に響く。
うるせぇなあ、と家X家はめくった畳を柱に立て掛け襖を開けた。
ズドンッッッッッ!
家X家の髷の上を弾丸がかすめた。
「イタタタタタァ~」
悲鳴は家X家では無い。彼は黄金に染まった股間をどう取り繕うかで精一杯。発砲の弾みで尻餅をついて痛がるNTRの局を、乙喜とゴールデンハンマーが気遣いながら立たせた。
「上様ッッッッッ!レディーファーストと言う言葉をご存知無いのですかッッッッッ?」
乙喜が家X家に唾を飛ばしながらがなる。
「知らねえよッッッッッ!いつもいつも何なんだよ!」
「目安箱に投書があったのですよ」
ゴールデンハンマーが刀の柄に手をかけた。
「投書がどうした」
「今回のスコヴィル藩の件、上様が腹を切って解決すべき、と」
ゴールデンハンマーは鯉口を切る。
「ふざけんな!どこのどいつが投書したんだ!」
腹を切るならスコヴィル藩士だろう。家X家が切腹して、何が解決すると言う。
「「「侍の家に生まれた者として、我らが投書しましたッッッッッ」」」
「誰かコイツらを処せッッッッッ」
「何ですかその態度ッッッッッ!そこに座りなさいッッッッッ!」
ゴールデンハンマーが抜刀した。
「馬鹿は死なねば治らぬと言いますからなッッッッッ!冥土で後悔なされよッッッッッ!」
「ふざけんなあああああッッッッッ!」
畳を三人に投げつけ、家X家は疾風の如く逃走。
「くそう、くそう、くそうッッッッッ!」
スコヴィル藩の件は、家X家だってなんとかしなければいけないと考えている。
人並みの正義感があっても、家X家はあまりにも無力だった。
家X家は歴代将軍の中で最も無能と言われるが、擁護の声は少なくない。
自称なろう作家の都道府県位置氏はこう述べる。
『もしも家X家の下に三國志の法正や荀イク(字が私の液晶タブレットでは出ませんでした)や荀攸や郭嘉や周喩や田豊らがいれば、上手く国政に関わり無難な結果が出せた可能性はある。残念な事に彼の下にいたのは……良くて十常寺、悪くて阿斗。……訂正する、十常寺のみなさんと阿斗さんにあまりにも失礼だった』
「俺に味方はいないのかああああああああああ!」
味方はいない。
中立ならいるが。
徳川御三家ーー初期には将軍家、尾張家、紀伊家とされていたが、将軍家の代わりに駿河家が入り、駿河が絶えれば水戸家。
江戸時代中期には御三卿ーー田安家、一橋家、清水家。
どの時期にも将軍と繋がりの深い親藩がいた。
家X家にもそれっぽい存在がいる。江戸暗黒時代……(なんだかんだまとまってはいたが)の始まりと言われるX-2代将軍で、家X家の祖父である省家の六人の弟の家……通称武威陸家の六つの親藩である。
陸は六を意味する。間違ってもシックスと読んではいけない。
武威陸家は味方では無いが敵でも無い。比較的味方に近い中立だ。
家X家は半蔵門を抜け、駈ける。
具体的にどこを通ったのか、描写は避けよう。スピード感は大事だ。ただ、途中でお合金が『Xさん、見に覚えの無い納税を強いられてるんだよ』とすがって来たので、『ドラクマで良いから払え』と振り払ったのを付け加えておく。
脱税犯を振り切ってたどり着いたのは、武威陸家の一つ、虎衣家。
「トラエノモーンッッッッッ!腹心がイジメるんだぁぁぁぁぁッッッッッ!助~け~て~」
そう叫ぶと家X家は、母屋に障子を突き破ってダイナミック入室ッッッッッ!スピード感は大事だ。
「うるせぇぇええええええええッッッッッ!」
破れた障子の向こうから、猫型ロボットとは似ても似つかないマッチョがラリアットで迎撃ッッッッッ!
「ぐはぁッッッッッ!」
哀れ家X家。空中を舞って地面に激突。一般的な徳川将軍であれば即死だろう。しかしギャグ属性を生まれながら背負う家X家なら無傷ッッッッッ!
「チッ、そろそろ来る頃だと思ったぜ」
世紀末の住人風の容貌を持つこの男、虎衣中納言榎衛門。腑滋酷F藩の先代藩主で、今は隠居の立場をもてあまし筋トレに励んでいる。
「わかってんぞ、中二太郎」
中二太郎は家X家の幼名である。生まれてすぐに立ち上がり『静まれ、我の右手よ。まだだッッッッッ!封印よ持ってくれッッッッッ!』と周囲を痛がらせた事が由来である。
「まあ入れや」
赤子が泣き出しそうな笑顔で榎衛門は室内に招く。
「ラリアットに意味があったの?」
ダイナミック入室する方が悪い。
「中二太郎、見ろ。オランダから輸入した鉄アレイだ。バーベルも、縄跳びだってある」
「榎衛門……それでどうやってスコヴィル藩の件を解決するの?」
「筋肉を付けろ。いつも言ってるけどよ、フィジカルは全てを解決……おいどこに行く」
榎衛門は出て行こうとした家X家の襟をむんずと掴み、まるでホラー映画のように室内に引きずりこんだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああッッッッッ!」
楳図か●お先生の漫画の登場人物のような表情で家X家は悲鳴をあげる。
「およしなさい、榎衛門」
なぜか榎衛門の家の奥から出て来たお歯黒を付けた男が、ジャンプ空中三回転で家X家のみぞおちに踵をめり込ませる。家X家はギャグ属性の化身なので平気だが、良い子のなろう読者は真似しないでね☆
「いつも言ってるでおじゃる。そう言う役割の家があるでおろう、と。それに中二太郎に何を言っても冗談以上の効果は無いでおじゃるッッッッッ!」
公家気取りのこの男も武威陸家。名を藻城鈍憎。A普治汚藩先代藩主であった。現在隠居の身分で公家ごっこの最中であった。
「鈍憎よぉ。俺ぁ本気だぜ……本気で中二太郎を鍛えようと思ってる。なぁに、スコヴィル臭ぇ奴らなんて中二太郎の握力が150Kgを越えるまで待たせときゃぁ良いんだ。……さあ中二太郎ッッッッッ!まずは本州をうさぎ跳びで100周だッッッッッ!」
榎衛門の指がポキポキとなった。
「「理屈がおかしいッッッッッ!」」
自称社会人の都道府県位置氏によると、武威陸家の者は……かの阿斗よりもアテにならな……いや阿斗さんに失礼だった……との事。
「そこまで言うなら榎衛門よッッッッッ!」
鈍憎は指を榎衛門に突き付けた。
「うさぎ跳び100周ッッッッッ!やってみせるでおじゃるぅッッッッッ!自分で見本を見せるでおじゃぁあるぅうぅうぅうぅッッッッッ!」
「……良いぜ」
「「えっ?」」
「俺が本気だって思い知らせてやんよぉおおおおおおおッッッッッ!」
榎衛門は手を腰で組み、しゃがんで……跳んだ。屋根に穴が空き、青空に光がキラリ。
「済まぬ中二太郎、あやつは……武力だけは100じゃった……」
世が世なら名将であった。
「鈍衛門ッッッッッ!助けてぇぇぇぇぇぇッッッッッ!」
「任せよ。スコヴィル藩の件、こちらで引き受けようぞ。中二太郎は……トレーニングがんばるでおじゃる」
鈍憎も武力は100である。的盧を得た劉備並みの勢いでダイナミック退室。
「おいッッッッッ!おおおおおおおいッッッッッ!」
劉備の祖先の劉邦リスペクトとばかりに、鈍憎は存在しない馬車から存在しない子供(現藩主は甥である)を捨てる素振りをしながら地平線の先に消えた。
「意味あるのかッッッッッ!その動作ッッッッッ!」
余裕か、それとも煽りか。
ドーーーーーーーーーンッッッッッ!
突然、背後で爆発。
「ギニャァァァァァッッッッッ!」
吹き飛ばされた家X家は隣の家をぶち抜いたが、ギャグ属性なので問題無し。
「なんだよ……ハレー彗星でも降ってきたのかよ」
彗星が地球に激突しても、ギャグ属性は無敵だ。
「中二太郎ゥゥゥゥゥッッッッッ!」
榎衛門の良く響く声が爆風の中から聞こえた。
「まずは1周目だッッッッッ!俺の手本を良く見ておけッッッッッ!」
再び流れ星が空へ飛んだ。
「100周は勘弁してください、100周は勘弁してください、100周は勘弁してくれえええええええッッッッッ!」
人が人のまま流れ星になった存在が叶える願いは、きっと真逆だろう。
Q ちくわはどうしたんですか?
A なんか書けなくて……