5-11 「底の願い」
頬スレスレでトゲが飛ぶ。内心では大騒ぎでも表情には出さない。さも予想してましたけど?みたいな顔してまっすぐにひいらぎさんを見据えた。
「これ以上、この子を奪わせないと言ったよね?」
「朱鳥の意思を無視するのは違うだろうがよ」
「ピィ!」
ヒナもそうだそうだと言ってるぜ?ひいらぎさん、朱鳥を大事に思うばっかりに朱鳥の自由を奪おうとしてるんだよ。ここに一志がいたら問答無用で殴ってくるレベル。
「俺ァ、朱鳥がここで眠り続けると願うんならそれでいいよ。朱鳥が楽園を開くっつったら……殴ってでも止めるかもしんねーけど。ひいらぎさん、アンタ過保護すぎるぜ?」
「何も知らない子供に選択肢だけ与えて、情報を与えないのも罪だと思うけどね?」
「与えなかったのそっちだろ」
交渉決裂。ひいらぎさんからバッチバチの殺気が飛んでくる。あーヤバーイ。
「ヒナ、お前危なくなったら逃げろよ?」
「ピュイ?」
おいそこで首傾げんな。さっきまで意思疎通できてただろお前。俺の優しさを無下にしようとすんな。
拡声器をしっかりと握りしめる。音割れ上等伝わりゃいいんだよ!鼓膜を破壊……しない程度に叫ぶ!
「朱鳥!!!」
「しつこいっ!」
おっと拡声器吹っ飛んだな?俺も勢いよく吹っ飛ばされるけど、拡声器なんて所詮飾りでな!!!!何でもいい、届くんならそれが見えなくたってモーマンタイ!
「願え!!!!!」
「いっしょ、に……おひるね、したい」
「っ!?」
なんだよ、あるじゃんささやかな願い。……いやささやかすぎるけど。もうちょっと願っても良い気はするんだけど。
ひいらぎさんは明らかに動揺してるけど、ぼんやりとしてる朱鳥は気付かない。ああくっそ、吹っ飛んで腹と背中がいてえ。
「おひさまのした、で、いっしょに……」
「おう、聞き入れるさ。同伴者のリクエストはあるか?」
「……ひいらぎ」
何そんな泣きそうな顔してるんだか。きっと、願わなくたって言いさえすれば叶うだろう願いなんだろうけどな。こんなちっちゃなおねだりすら朱鳥はしてこなかったんだろうよ、ただ寂しげに微笑むだけで、誰にもその感情を見せなかったんだろうよ。
「だってよ。ひいらぎ」
「だって、……たった、それだけなの?」
「おいおいあんたが言ったんだろうが。子供だって」
「だってこんなの……!」
「朱鳥に自己の願いは存在しない。こうして願うことを願わなきゃ、朱鳥はただ微笑むだけだろうがよ!」
叫んだ拍子にむせちゃった。ゴホゴホとせき込む俺を労わるようにヒナがつついて……これトドメ刺そうとしてます?せめて羽根でさすってくれぇ……。
ひいらぎさんは茫然としながらも朱鳥の傍らにしゃがみこむ。ひいらぎさんに気付いた朱鳥は控えめに服の裾を掴んでじぃとひいらぎさんを見つめている。あ、ふにゃふにゃの笑顔浮かべた。
「っ……おひるね、しようね」
「うん。おひるねする。あのね、おっきな木のそばがいいの」
「……こんな感じの?」
「うん!あったかくて、ぼく、この木すきだよ」
あの木、間違いじゃなけりゃひいらぎさんの本体だよな。熱烈な告白じゃん。子供みたいに一生懸命言葉を紡ぐ朱鳥に、ひいらぎさんはもう何も言えない。
「みんなでおひるねもしたいの。みんなでおひるねして、ぼく、さびしくないよっていうの」
「……うん」
「そうすれば、おにいちゃんもあんしんするよね?」
「お兄ちゃん?」
朱鳥に兄っていたっけ?兄代わり……ってことはゆっきーとか?
「ぼくになまえをくれたひと。ゆっきーが言ってた、ぼくをそだててくれたひと」
「!」
ゆっきーやるじゃん。朱鳥って名前、誰がつけたのか気になってたけど……そっか、ゆっきーはひいらぎさんの真意まで気付いてたんだ。
ゆっきーは気付いててひいらぎさんを倒さなかった。真実を告げることは出来なかったけど、朱鳥にちゃんと親代わりの人物がいたことだけは告げていた。ゆっきー、お前の蒔いた種は今ちゃんと意味があったぞ。




