5-8 「底の子供」
『っ……』
『ぼくが叶えれば、みんなよろこぶ!』
『違う。……ゆっきーはそれを望まない』
『でも、みんな願ってる、よ?』
『そんなことしたら!お前が死ぬだろ!』
『……?』
ひゅ、と息が詰まる音がした。無垢に無邪気に、純粋に多数の幸福のために自己を投げ捨てることを厭わない無私の存在。シンさんの叫びが届かない、朱鳥にとっては制止よりも実行依頼の方が優先度が高いんだ。
映っている映像の隣に別の映像が現れる。朱鳥はいない、シンさんとシエルさんが対峙している。シエルさんもシンさんも表情は暗くて、肩にいるヒナが切なげに鳴いた。
『雪代の存在を、なかったことにしようと思うんだ』
『は?』
『何故かどこにも記録がないことを利用する。利用して、朱鳥くんの聖杯としての機能を凍結させる』
『そんなのっ……!』
シンさんは勢いよく腰を浮かせたけど、シエルさんの表情を見て苦々しく座り込む。シエルさんにとっても苦渋の決断で、シンさんから見ても方法がそれしかなかったのが良く分かる反応だった。
『……ゆっきーは生きてる』
『でも、それを僕達が認め続ければあの子たちはいつまでも探し続けてしまう。……君までいなくなっちゃうじゃない』
『俺に、否定しろっていうの?』
『違う!……そうじゃない。僕達は雪代の存在をなかったこととする、だからシンくんは肯定も否定もしないで。それだけで良い、から』
『…………』
ああそっか、あの時の発言はここに辿り着くのか。シエルさんは朱鳥達を守るために存在しないという立場を貫かなきゃならないから、あのときも奏さんにあんな厳しめの言葉を吐いた、と。
『あのね朱鳥くん。雪代は存在しないの。だから、その願いは願いにならない』
色が褪せる、世界が曖昧に溶ける。それでも、朱鳥は朱鳥なりに何かを感じ取ったのか、困ったように微笑んで頷く。
『そ、っか。じゃあぼく、叶えないよ』
『うん。……ごめんね、朱鳥くん』
『どうしてシエルが謝るの?ぼく、なにも怒ってないよ?』
『うん……』
……願われなきゃ自分の意思すら表に出せない、そもそも願われたって多分自分の意思はそこにないんだろうな。朱鳥、多分自分の願いは自分で叶えられないんだろう。ただおりこうさんにしてるその影に、うっすらと諦めが見える。
「朱鳥……」
「ピィ……」
『朱鳥、哀しかったら泣いていいし、納得出来なかったら言葉にしよう?』
『ぼく、かなしいの?』
『……僕にはそう見える。僕は、朱鳥が誰かの願いを叶えるんじゃなく、朱鳥自身の願いを叶えてほしかったんだ』
「……?」
何で過去形?記憶の中に入ってないだけで朱鳥、どっかで能力を使ったのか……?
疑問があっても映像は止まってくれない。ソウさんの呪いのこと、朱鳥は体調を崩してしまったとしか聞かされてないのは恐らく朱鳥が能力を使わないようにっていう配慮なんだろうけど……。
「なんだかなぁ……」
「ピョ?」
「ああいや、……能力の難しさに呻いてただけ」
「ピョーイ」
自由って何だろうな……能力故に不自由を強いられてしまうのは何か違うじゃん。生まれとか色彩とか、本人がどうしようもないものじゃんか。
「……よっし!」
俺のやることは決まった。知るべきことは知った、あとはもう願うだけだろう。……どっかにいるよな?
俺がきょろきょろ辺りを見ているのをマネするように、ヒナが地面に立ってちょろちょろと歩き回る。本人至って真面目なんだろうけど、踏みそうで怖いから戻ってきてくんねーかな。
「ピョ!?」
「ぅえ!?」
おいヒナ落ちたが!?あ、見えづらいけど穴あるー!!!?




