5-7 「底の嵐」
「これ……朱鳥の記憶ってことだよな?」
「ピヨ?」
「じゃあお前朱鳥……?」
「ピ、ヨ!!!」
「いででででで」
何なんだよコイツ。ヒナ以外の呼び方絶対許さないピヨかよ。つつくなつつくな。
映像は絶え間なく朱鳥とヘレティックにいる人を主とした色んな人達との出会いを映している。……これ別に時系列じゃないんだな、大雅とソウさんのあとに一志が来たと思ったら悠人さんが映ったし。
『こんにちは!』
『……!』
「うお」
「ピ!」
ひいらぎさんとの出会いだよなこれ。ぶわ、っと映像が広がった。こころなしか色鮮やかだし明らかに見える範囲が広い。……これは朱鳥にとって一際大事な記憶、ってことかな。
『僕はひいらぎ。はじめましておひなちゃん』
『?』
『朱鳥くんちっちゃくてかわいいから、おひなちゃん。ダメかな?』
『ぼく、おひな?』
『うん。まだ幼くて小さいから、おひなちゃん!』
『おひな!』
「ヒナ……」
「ぴょ?」
……まさかな?いくらここが朱鳥の精神の中(推定)だとしても、まさかこのヒナが朱鳥だなんてそんなことハハハ。
『たいが、たいが』
『すっかり懐いたね』
『大雅も同い年のお友達が出来て嬉しそう』
大雅の後ろをとことことついてく姿、完全にヒナだなぁ……。ゆっきーにひよこ饅頭で餌付けされてたり、ノエルさんと遊んでたり、ひいらぎさんと一緒におでかけしてたり。幸せそうに見えるし、多分この頃は平和だったんだろう。……だってこれ、まだゆっきーがいる。
「……なぁヒナ」
「ピヨ?」
「お前、この先を知ってんの?」
「……ピョ」
コイツの言葉、分かんないけど分かるな。幸福な記憶が多ければ多いほど、朱鳥にとって雪代という存在が強ければ強いほど、先を見るのが憂鬱になっていく。
『あのね、ぼくね、ゆっきーみたいになりたいの』
『俺?』
『朱鳥お前見る目あるね』
『えへへ』
ああくっそ、素直に微笑ましいと思えねえよ。朱鳥にとってこれが今でも残ってるってことなんだろ?今は存在しないって言われてしまった雪代になりたい、っていう幼くて無垢な願い。
「やるせねぇ……」
激しいノイズが走って映像が荒れる。映らないまま叫ぶような声と、痛いくらいの慟哭と、苦しいほど痛む朱鳥の感情が洪水のように俺とヒナを呑み込んだ。
「っ……おいヒナ、無事か!?」
「ピィ……」
ヒナを包み込むようにして洪水との間に一枚布を挟む。コイツの正体が何であれ、こんなちっさい生き物にこれだけの感情をダイレクトに摂取させるのは酷ってもんだ。俺は知ることを選んだから全部受け入れるけど。
『ゆっきー……』
寂しそうな声。ぽつんと何もない空間に立ち尽くす朱鳥。周囲のざわめきだけは聞こえてくるのに、映像は依然映らない。
『ゆっきー……どこ……?』
『どけ青藍!』
『誰が退くかこの馬鹿!』
『おい止めろ馬鹿共!お前らが喧嘩してる場合じゃねえだろうが!』
『でもあいつらはゆっきーを奪った!あいつらがゆっきーを殺した!』
『雪代がこんな簡単に死ぬわけねえだろ!何か理由があるはずだ!』
『でも!!俺がゆっきーのことを感じられない!!!!』
『っ……』
『それでお前までいなくなったら本末転倒だろうが!!!』
『うるさい!!』
激しく言い争う声。荒れ狂うシンさんってこれのことか。映像はないけれど、血を吐くような叫びの時点で相当キレているのが分かる。止めようとしているのは多分声的に二人で、一人は多分藍沢先生だ。
『ゆっきー、いないの?……ぼくが、叶える?』




